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ショートストーリー

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スタンバイ

空いた肩口 埋めてくように 息を合わせて
ただの生活 続くように 横顔見ている

忘れた手紙 探しながら ふっと笑って
日向が返る そんな日の午後 遠くはないけど

背中越し ひと時間 気づいてたのかな?
少しだけ 暖かい 布団のような 手の中

空回る声に 思い切りじゃれついて
「恥ずかしすぎる」なんて 言わせて
少しだけの不安に ぬくもりの言い訳
耳をすませるように 眠ろう

通り過ぎる 友達

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小説「許方教室」

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「どうぞ」という声に返事が返ってきたのは2拍置いてからだった。「失礼します。」部屋に入ってきたのは全身黒い恰好をした冴えない男。「どうぞおかけください。」招き入れたスーツ姿の男は何も考えていないように見せかけているようだった。部屋の中央に置かれた三連のテーブル。その真ん中に2人が向かい合わせに座った。「熊倉といいます。永井さんでよろしいでしょうか?」「はい。よろしくお願い

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小説「鉄琴バードヒル」

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「私、ですか?」琴音は店長にそう聞き返した。「そう。チャイムといえば琴ちゃんじゃん。もらい先、よろしく頼むよ。ネットのフリマアプリとかはやめてね。」そう伝えると店長はバックヤードの薄暗いスペースをすり抜けていった。吉田屋は町の小高い丘の上にある老舗デパートである。かつては町で一番の面積を誇る建物だったが、あと半年でその歴史を終えようとしていた。福嶋琴音が吉田屋に入社したの

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小説「tesoro」

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明日は定休日。「CLOSE」を下げなくてもよいのです。父が亡くなってちょうど四半世紀のこの日には、形見のアコギを修理するとずっと前から決めていたのです。替えの弦もこの日のために買っておきました。とはいえその作業場はいつもの職場と同じ、革の匂いの満ちたこのスペース。住まいは別にあっても、私にとって手を動かす場所、ものを直す場所はここなのです。さすがに30年もののアコギを鳴

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唐人髷(新作落語台本)

唐人髷(新作落語台本)

伊豆下田の街に異国の日が昇る、
江戸がくゆり始めた安政の世のことでございます。

【お吉の家】

(激しく戸を叩く音)

又五郎
「お吉!吉!」

お吉
「は~い、あら又はん」

又五郎
「何が又はん』だふざけてのかおい!」

お吉
「急に言われてもわかりんせん。どうしたの?」

又五郎
「おおお前、柿崎の玉泉寺にいる、けっっっ毛唐!」

お吉
「ハリスはんのこと?」

又五郎
「毛唐にはんだって

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