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ミステリーで外国語を

 ミステリー小説と外国語が何より好きな私にとって、寝る前に外国語のミステリーを読むのが至福の時間です。私にとっては、リンドグレンの『長靴下のピッピ』のような少し古い児童小説よりも、現代の平易な文章で書かれたミステリーの方がどうも読みやすいようです。単語の面でも、話が論理的に展開するので推測できるという面でも(女の子が片手で馬を持ち上げたりしない!)、そして、クライマックスになると本がぐいぐい背中を押してくれます。

 これからスウェーデン語の本を読んでみようと思っている中級学習者の方々に向けて、まだなんでも読めるという段階に至ってないからこそわかる、文章が易しいスウェーデンのおすすめミステリーを、ネタバレしないようにいくつかご紹介したいと思います。

 平易な文章と言えば、ヘニング・マンケル。同じ単語を繰り返し使うので読解練習向きです。一度辞書を引くと、その単語がすぐにまた出てきて「やったね!」。内容的にも私の一番好きな作家です。

1. Henning Mankell著, Mördare utan Ansikte
(ヘニング・マンケル『殺人者の顔』柳沢由実子訳)

 ヴァランダー警部シリーズの第1作。特徴は中心人物の細かい心理描写と、スウェーデンのさまざまな社会問題を取り扱っていることです。中年のヴァランダー警部の老いへの不安、変化の激しい現代社会に取り残されることへの不安、家族の心配ごと(父親はアルツハイマー、娘との関係はぎくしゃく)にうんうんと頷いているうちに、中に住んでいる人から見たスウェーデンが少しずつわかってきます。

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2, Henning Mankell著,Danslärarens Återkomst 
(ヘニング・マンケル『タンゴ・ステップ』柳沢由実子訳)

 これはシリーズ外で、舌癌を宣告された刑事ステファンが中心人物です。ステファンの心理が共感するように描かれ、またスウェーデンの歴史も絡んできます。私が最初にスウェーデン語で読んだミステリーがこの本でした。まったくの偶然で、柳沢由実子先生のヘニング・マンケルを原書で読むクラスを見つけて受講しました。細かいところまできちんと読む読解の姿勢を教わりました。

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 哀愁漂うマンケルよりも明るい話が好きな方におすすめなのは

3. Lars Kepler著, Paganinikontraktet 
(『契約』ヘレンハルメ美穂訳)
 ケプレルはスウェーデン版シドニー・シェルダン(ちょっと古いかな?『ゲームの達人』の著者です)といった感じの、ハラハラドキドキの娯楽小説を書く作家です。文章もマンケル以上にやさしいかもしれません。第1作の『催眠術師』は、軽すぎると思ったのですが、友人から「第2作は同じ作家が書いたとは思えないくらい良いから読んでみて」と勧められました。確かに人に勧めたくなる本です。音楽がかかわってくる話で、実に魅力的な味のある人物が出てきます。

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4. Håkan Nesser著, Kära Agnes 
(『悪意』久山葉子訳の中の中編小説)

 手紙形式の(スウェーデンにしては)短い小説。最後にどんでん返し! ネタバレしないようにここまでね。

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5. Yoko Ogawa著,En Gåtfull Vänskap
(Vibeke Emond訳)
 「謎の友情」って何のことか想像つきますか?『博士の愛した数式』のスウェーデン語訳です。スウェーデン語でも、比較的平易な文章で心温まるミステリー成分も含む話が語られます。この本は残念ながら現在ネット書店で品切れですが、上記の Kära Agnes のように絶版だったのがほかの中編小説とあわせて復刊することもありますので、その可能性に期待して、大好きな本なので挙げておきます。

 ところで、フィンランド語を学んで数年経ちました。スウェーデン語は英語を習っていれば、読めるようになるまでそう大変ではありませんが、ヨーロッパ系ではないフィンランド語はそうはいきません。英語と似たような単語もめったにないので、まったくなじみのない音の組み合わせを覚えていかなければなりません。それに文法も複雑です。私のような文法マニアにはそこがまた魅力なのですが。フィンランド語で最初に読み通した本は、マンケルの、ヴァランダー警部の娘リンダが警官として中心人物になる『霜の降りる前に』(柳沢由実子訳)のフィンランド語訳でした。

6. Henning Mankell著, Ennen Routaa 
Laura Jänisniemi訳、原題 Innan Frosten)
 読解練習は必ずしも「原著」で読む必要はなく、学習途中では翻訳物の方が読みやすいこともよくあります。この本も、マンケルの平易さを保ったうえで、フィンランド語の難しさを奇跡的に回避した練習にうってつけの本です。フィンランド語は、日本語のように文章体と口語体が異なり、小説のセリフは話していることそのままよりは整ってはいますが、口語体で語られることもあります。また、英語のように、他動詞は必ず目的語を取るとは限らず、文と文が接続詞なしでつながっていくこともあります。それでも、『霜の降りる前に』のフィンランド語訳は、セリフも文章語、地の文も素直で読みやすく書かれていました。

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 外国語を読む練習をするには、自分の興味ある内容の本を読むことが一番だと思います。日本語で読まないような本を外国語で読む気にはなれませんから。中学高校のときに、「小公女」「ハイジ」など子供向けの英語の本をたくさん買っては結局読まなかった覚えがあります。スウェーデン語ではリンドグレンもムーミンシリーズも原著で読めますね。私のようにミステリー好きの方は、上でご紹介した本をぜひ!

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※ スウェーデンの本は Bokus というネット書店で買えます。国外発送もしてくれます。

(文責 服部久美子)




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