北欧発、勉強したくなる本
1.塾の夏期講習説明会--何のために勉強する?
翻訳者の枇谷玲子です。
私事ですが、先日、高校受験を控える中3の娘と塾の夏期講習の説明会に行きました。
それまで比較的安価で、ゆったりとした雰囲気の個別指導塾に行っていた娘ですが、部活動引退を機に、厳し目の塾に移ろうかと親子で考え、説明会に参加したのです。
そこで塾の先生が熱く、何のために勉強するのかを説いていました。大筋としては、
1.可能性を広げるため
2.努力する力を養うため
3.学ぶこと自体が尊いから
勉強をしようという内容でした。
勉強ができて、よい高校に行けば、将来の可能性が広がるのでしょうか? 親として答えは出ませんでした。
皆さんは人は何のために勉強するのだと思いますか?
2.英語の長文読解で知らない国に行った気分に
自らの過去を振り返ると、勉強がとても好きな子どもでした。勉強を何かの役に立てたいというよりは、勉強すること自体が楽しかったのです。特に好きだった勉強は英語の長文読解でした。
受験対策で読んでいた英文で印象に残っているものがあります。アメリカの難関大学に通う黒人学生が、他の白人の学生達が黒人のことを馬鹿にしたような発言をしていた時に、自分は黒人なのに、エリート集団の仲間に入れたと思い上がり、いっしょに黒人をあざけってしまったことを悔いて書いた回想記が、今でも心に残っています。
英語を読むことで、ネガティブな側面であれ、ポジティブな側面であれ、自分の知らない世界、言語も文化も異なる別の社会でどんな生活が営まれているか知ることができる。英語の長文読解の勉強をしていると、旅に出れた気がして、受験のためだけでなく、ずっとこうしていたいと願ったものでした。
なので私が思う勉強をする理由は、
4.知らない世界について知るため
です。
3.サイエイ・スクールの英語の授業――rain like cats and dogs
私が主に勉強を好きになったのは小学校中学年から通っていたサイエイ・スクールという塾の英語の授業が好きだったからかもしれません。ある英語の先生が、英語圏に留学していた時に、”It rains like cats and dogs”とネイティブの友だちに言ったら、笑われたという体験談をしてくださいました。”rains like cats and dogs”という言い方は、土砂降りが降るという意味で間違ってはいないようですが、先生いわく、口語で余り使われなくなっている古い言い回しで、例えるなら日本に住む外国人が突然「拙者は~」と言い出すようなもの、という説明でした。
今ではその説明が正しいのか分からないのですが、当時、ほとんど紙の上だけで見ていた英語というものが実際のコミュニケーションに使われるツールであるのを知れた気がしました。私が通っていたサイエイ・スクールという埼玉の塾には英語のネイティブの先生も来ていて、英語を実際に使って少しでも通じるととても嬉しかったのも覚えています。
4.朝会で英語を貫く英語の先生
さらに記憶に残っている先生がいます。中学校の時の英語の先生です。先生は中学校の朝会で、話をする時に、他の先生達が不慣れであるからか居心地悪そうにする中でも、英語でのスピーチを貫きました。身振りや手振りを交え、できるだけ分かりやすい単語を選び、英語で話すのが普通じゃない環境の中で、ちょっぴり好奇の目にさらされながらも、ひるまず英語で話し続ける先生が私には輝いて見えたのでした。
5.大人になっても勉強がつまらないと思ったら、ステーキを奢ってやる
もう1人覚えている先生がいます。その先生はサイエイ・スクールで中学校の時にお世話になった英語の先生でした。先生は、皆に、大人になったら勉強できるのがどんなに贅沢で、面白いことなのか痛感するようになると言いました。「嘘だー」と叫ぶ生徒達に向かって先生は、「大人になっても勉強がつまらないと思ったら塾においで。ステーキを奢ってやる」と言いました。
今の私には先生の言葉の意味がよく分かります。学べるってとっても贅沢なことです。人は本質的に学び、成長したいと望む生きものなのではないかと思うのです。成長の可能性が断たれ、絶望してしまいそうになる大人達が、社会にはたくさんいるのではないでしょうか。私もその1人です。私が娘に強く勉強しなさい、勉強したら素晴らしい未来が待っているよ、と胸を張って言えないのはそのためです。日本は個人が社会を変えられると思っている大人が不思議なぐらい少ない国でもあります。
参考:社会を変えることを諦めがちな国、日本
参考:日本は大人になっても学び続けられる社会か? 企業の人材育成の国際比較
6.北欧発、学ぶことの面白さを伝える本
娘は塾の説明会から戻ると、夏期講習の時間割を張り切って立てはじめました。塾の先生のプレゼンテーションは、娘の心に届いたようです。
頭が痛いのは高い夏期講習料・・・・・・。高校授業料無償化・就学支援金支給制度など進歩はありましたが、日本はまだまだ親の経済状況によって、子どもの受けられる教育に差が出てしまう国なのだ、と痛感させられました。学びたい子どもに、親に経済的な負担をかけさせてしまう、申し訳ないと思わせたり、諦めざるをえなかったりする、そんな社会を変えるのは、私達大人の責任です。
最後に、私は一応北欧語の翻訳者なので、北欧発の本で学ぶことの面白さを伝えている本を紹介したいと思います。
(数学)
スウェーデンでよく読まれている子ども向けの数学の本です。数学は言葉なのだと作者は言います。数学の本質的な考え方、日常の中に数学がどう隠れているのか、私達の生活と数学がどう繋がっているのかが書かれた素晴らしい本で、日本でも何度も増刷されています。
(社会)
自分は何のために生きているんだろう? 生きる意味って何なんだろう? 自分は一体何者なのだろう?
まわりの友だちが頑張っている中で、やる気が出ない、自分が何をするべきか分からない、何に向かって生きれていけばよいか分からない。そんな悩みを抱える子どもにぜひ読んでほしい哲学の本です。
少し古い本ですが、日本でも大ベストセラーになったスウェーデンの社会科教科書。国家の仕組みについて知ることができます。
親が失業したり、お金がなくて困っていたり・・・・・・。親の経済状況は、子どもの生活に直接影響を及ぼすのに、お金について学校では半ばタブーのように多くは教えてくれないのではないでしょうか。どうして貧乏であることを人は恥ずかしいと思うのだろう? どうして世の中には貧しい人と豊かな人がいるんだろう? お金を使うのは無駄遣い、悪いことという印象を持つ子どももいるかもしれませんが、世の中によい影響を及ぼすようなお金の使い方をすることもできることなどが書かれた本です。
(理科)
宇宙には何があるんだろう? 海や山はどうやってできたんだろう? 温暖化の問題はどうして起きるんだろう? なぜ多くの生きものが絶滅してきたのか? お金持ちや有名人になるためにはどうしたらいいんだろう? そんな子どもの抱く疑問に科学の観点から答える本。
私が訳した本の中で、わが家の子ども達に最も評判のよい本です。
スウェーデンの児童書作家が書いた子ども版のサピエンス史です。人類史について知ることができます。
(勉強全般)
塾の説明会でも、スマホとの付き合い方についてお話がありました。皆悩んでいるテーマですね。
『スマホ脳』がベストセラーになったスウェーデンの精神医が子どもにも分かるように書いた本。どうしたら集中力や記憶力を養うことができるでしょう? どうしたらストレスから脳を守ることができるのかが書かれています。
デジタル先進国デンマークでは日本以上に子どもの(大人も)デジタル依存が深刻です。電子機器の誘惑にどう打ち勝つか、悩んだらぜひこちらで具体的な克服法を親子で学んで下さい。
7.勉強法の北欧発の本は邦訳されていない?
今韓国の『勉強が面白くなる瞬間』という本が人気のようで、わが家も買いました。
実は勉強法についての北欧発の本はほとんど邦訳されていないように思えます。以下の本ぐらいでしょうか。
日本のような受験がない国ですので、考え方のずれがありそうですが、その違いが新鮮に思えるような面白い本が出てきたらよいなと思いました。
企業内で大学研究、学びをどう生かすのかを研究している研究者もいて、日本に必要な考え方に思えます。
(文責:枇谷 玲子)
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