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【50代の大学生日記 第55話】2月も終活旅行(中編 土肥金山の巻)

 前編で清水港から駿河湾フェリーで伊豆半島に向かった私、わずか70分で半島西海岸の土肥港に着きました。
 前編で書き忘れてましたが、清水港は日本三大美港のひとつだそうです。「日本三大○○」は往々にして、「三大大仏」が奈良、鎌倉ともうひとつのように2つ目までは誰もが納得できるけど、3つ目を名乗る大仏が明らかに2つ目より格下だったり、われこそが3つめだと名乗る大仏が全国にいくつもあったりとしがちですが、「三大美港」は全国どこで聞いても神戸港、長崎港、清水港で統一されており、「清水港より横浜港のほうが美しいじゃないか!」という反論もないようです。清水港は富士山が見える風光明媚な立地ゆえ今も海外の豪華客船の寄港地になっています。

三大美港に数えられるのも納得の風景
土肥港から見た伊豆の急峻な山々

 土肥(とい)は山と海の間に旅館が点在する静かな温泉街です。しかし、「こいつ」のおかげで、かつては大変な賑わいだったそうです。

土肥金山

  こいつとは、土肥金山! 金!金!金! ゴールドだ!
 この金山は、1370年代に足利幕府により開発され、1600年代に伊豆の金山開発に注力した徳川家康「金山奉行」に任命した大久保長安のマネジメントにより、西洋から取り入れた採掘方法や水抜き方法の改善により産金量が大幅に増大。佐渡に次ぐ産金量を誇り、隆盛を極めたとされています。長安の没後、金山は衰退し1625年にはいったん休山となりますが、明治から昭和にかけて再び住友三菱といった財閥の力で採掘され、昭和40年に鉱量枯渇により閉山するまでに、トータル40トンもの金を産出しました。この間に掘られた坑道の総延長は約100kmにも及んでいます。
 話は脱線しますが、金山の開発で異例の大出世をした大久保長安の生涯もなかなか興味深いものだったです。長安は大和の猿楽師(今でいう能楽師)を稼業とする家に生まれ、全国を流れているうちに父が武田信玄のお抱え猿楽師になります。信玄は長安の非凡なマネジメント能力を見いだし、猿楽師にしておくのはもったいないと、彼を家臣に取り立て、やがて鉱山開発の仕事を任せるようになりますが、長安37歳のとき、武田家は長篠の合戦に敗れ、織田・徳川連合軍により滅亡させられます。しかし、家康も長安の非凡な才能に目を付け、敵軍一味であった彼を家臣に取り立て、全国にあった徳川直轄領の金山や銀山の経営を任せるなど、長安は異例ともいえる大出世を果たします。人生の絶好調期を迎えた長安は、私生活では無類の女好きだったらしく側室を70~80人抱え、金銀の茶道具を作ったり、自分が死んだら黄金の棺に入れてハデな葬式をするようにと遺言を残したりと、贅沢三昧な暮らしぶりだったようです。
 しかし、人には寿命があります。彼が69歳で亡くなると、家康は彼の葬式を急遽中止させ、大久保家の経理監査を実施します。すると長安の不正蓄財ばかりか、朝鮮や諸大名に財を送って手なずけて、徳川幕府を転覆させようとしていた謀略までが明るみに出ます。激怒した家康は大久保家の一族郎党を切腹させ、大久保家は滅亡してしまいます。一説には、家康は長安の悪事をうすうす知っていたけれど、仕事ができる長安を失うのは惜しいため、彼が死ぬのを待って一気に大久保家を叩きにいったとされています。抜け目のない家康のことだから、きっとこれが真相なのでしょう。

 閑話休題、一般的な金鉱は岩石1トンあたり5g前後の金しか含まれておらず、鉱量枯渇によりこれが2gを切ると採算が取れなくなると言われているようです。ちなみに日本唯一の現役金鉱である鹿児島県の菱刈鉱山は岩石1トンあたり20~40gもの金が含まれる良質の金山であり、商業的に十分に採算が取れることから、現在も稼働しています。いや、たとえ40g取れたとして、金は重量比0.004%でしかないんですよ。ほんまにちょびっとしか金が含まれていないんですね。

金山の坑内

 欲に駆られた男たちがえらい勢いで掘り進んだであろう坑内。水を手回しポンプで汲み上げ、人力で穴を掘って岩土を運び出す大変な労働だったでしょう。ガイドさんの説明によると、地球ができる過程で金はほとんどがマグマに溶けこんでしまい、地表にはほぼ存在しないのですが、火山活動により地表岩盤の割れ目に入りこんだマグマが冷えて固まった部分に金が析出し、これがいわゆる金の鉱脈になったそうです。なので、鉱脈といっても岩盤に金が含まれる岩石が点在するだけで、金の塊がゴロゴロと掘り出されるわけではありません。
 このように金鉱と火山活動は密接な関係にあり、かつ火山の近くには温泉が湧くことが多いので、金山には温泉がセットになっているようです。
 土肥金山も採掘中に温泉が湧き出したので、坑内に浴場が設けられ、仕事を終えた坑夫が温泉で一日の疲れを洗い流したそうです。その様子を再現した展示があったのですが、温泉でくつろぐマネキンの、下写真のような幸せそうな顔がたまりませんでした(笑)

仕事のあとのひと風呂 はぁ~極楽

 土肥金山にはギネス認定「世界最大の金塊」が展示されています。その重量250kg! 時価26億6800万円!
 
この金塊の展示が始まった2005年には時価4億円だったそうですが、金の値段は上昇を続け、いまや26億円超! 直近では私が訪問した2月14日まで取引価格が下落していましたが、この日を底に上昇に転じ、2月25日には27億円を突破したとニュースになっています。近いうちに30億円突破はあり得るのでしょうか?

ギネス認定 世界最大の金塊

  こちらは金の鰹節(笑)金はとても延性に富んだ金属であり、わずか250g(上の金塊の1000分の1)の金でこれだけの金箔ができるようです。

金箔の海

 おっと忘れるところだった、私が伊豆までやってきたのは、金鉱を見物して勉強するためではなかったのだ。そう、忘れてはいけない砂金取り
 砂金取り体験コーナーは、下写真のような大水槽の底の砂から、砂金取り専用の「パンニング皿」を使って、30分間砂金取り放題です。金は砂に比べて比重が大きいので、パンニング皿で砂を掬って、水中で皿を車のハンドルのように回してゆすることにより金を皿の底に沈め、皿の上のほうの砂を捨てるといった作業を何度か繰り返し、最後の砂を捨てると皿の溝の部分に重い金が引っかかって残るという手筈です。(比重選鉱と呼ばれる方法です)
 説明員のおねえさんに教えてもらいながら挑戦してみたら、早速1粒の金が取れたのですが、ひとりでやってみるとなかなか思うように金が見つからない。

一攫千金を狙うゴールデンカムイたち(HPより)
パンニング皿
一攫千金を狙って

 一攫千金を狙って、下のように金塊を宅急便で送ってもらおうと算段していたのですが・・・・・・(気は確かか?)

宅急便で送っといて

 最終的に30分で取れたのは下写真のように7粒ぐらい。ちなみに、去年の年間チャンピオンは30分で124粒取ったそうです。

今日の収穫

 私の取れ高はどのように評価されるのだろう?
 ざっと見積もったところ、1粒の大きさは1mm角ぐらいで、厚みは0.1mmぐらいと見積もると、体積は0.1㎣=0.001㎤。この金は純度がそれほど高くはないはずなので18金程度の純度と仮定して、比重が15と考えると、1粒の重量は15×0.001=0.015g。これが7粒だと7×0.015=0.105g
 本日の18金買取相場価格は7,980円/gなので、私が取った金の価格は、0.105×7,980=838円体験料750円の元は取れているようだ。(ほんまかいな?)
 私が30分の間にパンニング皿で掬った砂を100kgと見積もると、平均的な金含有量(岩石1トンあたり金5g)より、金は0.5gぐらい取れると期待できるわけで、計算上は33粒ぐらい取れるはず。とすると、7粒しか取れなかったのは私の腕が悪いということか? (いや、そもそも私が掬った砂からすでに何人もが金を採取しているし、場所を移動できないので同じ砂を何度も掬っているのだから、期待どおりにゲットできるはずはないのでは?) 
 もし、期待通りに30分で0.5g取れたら4,000円ぐらいの稼ぎになるわけで、時給8,000円? そう考えると、ゴールデンカムイや西部劇のように一攫千金を狙って砂金を取りに行くヤツがいるのもごもっともだ。(金が絡むと計算が早くなる、珠算2級の私)
 30分間腰を曲げて砂を掬ってゆすり続けたので、身体のあちこちが痛い。まあ、とりあえず私も温泉に入って、あのマネキンのような極楽気分を味わいたいと思います。旅行2日めは後編(韮山反射炉の巻)へつづきます。ではまた。

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