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「仁義」と「礼儀」を知り尽くした名脇役俳優の「コミリョク」の魅力!!

「仁義なき戦い」という映画を久々に観た。

1973年~1976年に深作欣二監督作品で、菅原文太さん主演の言わずと知れたヤクザ映画であり、戦後間もない頃から30年程続いた「広島ヤクザ」の闘争を題材にしたシリーズ作品である。

引き込まれるのは、ストーリー性や広島弁で繰り広げられるセリフ響きの
カッコよさ、語り出したらきりが無いが昭和生まれの僕にとっては何よりキャストの素晴らしさである。

菅原文太さんを中心に松方弘樹さん、金子信雄さん、梅宮辰夫さん、 田中邦衛さん、小林旭さん・・・・
紹介仕切れない程の俳優の方々が、若き日の個性あふれる演技と情熱的な役柄で出演されている。

面白いのは僕が幼少の頃、TVドラマやCMに出演していた役者さんがちょい役で出演していることである。

その中でも名脇役俳優として、若き日の「川谷拓三さん」が出演されている。

当時大部屋俳優と呼ばれていた川谷さんは、このシリーズに子分役で何度も出演され、記憶の中では2回殺されている。

その演技が素晴らしく、唯一セリフのある「ドジな組員」を演じ切っている僕の大好きなシーンがある。


場面は広島県呉市のスクラップ工場で、菅原文太さん演じる「広能 昌三(ヒロノ ショウゾウ)は、工場の警備をシノギとして小さな組を構えている設定で、川谷さん演じる組員(西条)がスクラップを横流し、広能に木刀でシバカれているところから始まる。

広能 「泥棒の番しちょるもんが、オドレで泥棒したら誰がケツ拭くんじ   ゃ!!」

広能 「盗んだスクラップはなんぼで売ったんじゃ!」

西条 「20万とちょっとです・・・」

広能 「くそ馬鹿タレー!! この手に出さんか」
(手とは広能に金を返せとのこと)

西条 「女がTVが欲しい言うたんで昨日、買うちゃって・・・・」

広能 「外道が!!」
(また木刀でシバかれる)

(場面は変わり数日後の出来事)

他の組員 「指つめ、言うちゃったら2~3本じゃ足らんやろー言うて・・・」

(無造作に新聞紙に包まれた、足らん指の代わりにつめた「左手首から上部」を見せる)

広能 「くそバカ!! こげんしくさって! 喧嘩の時は何もって飛ぶんじゃ!!」

西条 「道具ならもてますけぇ・・・・」
(痛みと情けなさで、震えながら右手でピストルを出す)

(まだまだ、怒りが収まらなずワナワナする広能に)

女 「すんません!!ウチが我がまま言うたもんですけん!
こん人が無理してスクラップを・・・」

広能 「もうええ!! 早よ連れて帰れよ!!」

(ポケットからしわくちゃの札を出して)

広能 「ちゃんとした医者に診せとけよ!!」

シーンとしては1分程であるが、組長として「ドジな組員」を持った不甲斐無さと怒りの隙間に垣間見える男の優しさ、女に格好をつけたくてスクラップ泥棒をし、手首まで失った川谷さんの情けなさ、恐怖と想像を絶する痛みに耐える中での鬼気迫る演技の掛け合いが素晴らしく、大好きな場面である。


 最近、使用頻度も減って来た「仁義」という言葉の意味は、大まかには
「人としての正しい道」となるらしい。

たまにビジネスでは「仁義を重んじる」と使われるが、現代のイメージとしては、ビジネスパートナーやクライアントに対する信頼や誠実さを伝える言葉として表現される。

社会的には守るべきルールや良識であり、人間関係に例えると義理や恩義、約束を守る等の「道義的な意味」「精神論」の意味合いがが強い。

仕事をしていると常にこれらを重んじる場面に接しているが、はたして実行できているのか疑問である。

「仁義」とよく似た言葉で日常的に使われるのが「礼儀」である。

「礼儀」とはビジネスの場合、接する相手に敬意を表す態度・言葉遣いや実際の行動で、挨拶や感謝の言葉のように人に対し最初と終わりを丁寧に接したいそんな所作が「礼儀」なのだろう。

これらの分別は微妙であるが、「仁義」「心の中で実践したい想い」で内に秘めたもので「礼儀」はそれを「実行する行動」であり、ビジネスでは両方を兼ね備えていることが評価されている。


もう一つ思い出したが、これらに似た言葉を現代風にすると
「コミュニケーション能力」いわいる「コミリョク」である。

時代と共に人との接し方も変わるものだが、今風の「コミリョク」には
古ボケた「仁義」「礼儀」を兼ね備えた厳しさも求められているのだろう。

情報量が多くなっている昨今、仕事の場で人に伝える方法やツールもメール、SNS、ライン等、それぞれの場面とスピード感に対する選択が必要となり、それぞれのスキルが必要となる。

それら全てを含めて「コミリョク」と呼ばれる時代であり、それだけに
「人を理解する力」「人の話を聞き取る能力」「臨機応変な対応に優れている」「人に伝える力」等、ビジネスでは「仁義」「礼儀」の時代より人との関りに求められるキャパシティーが広くなっているように感じられる。


話は「仁義」に戻り30年以上前の話である。

コンサートのミキサーとして、あるロックバンドのツアーを回っていた頃
ボーカリストが俳優業もやっていた関係で、友人関係であった川谷さんがコンサートを見に来られ、打ち上げから翌日の新幹線の移動まで同行された。

翌日は移動日でメンバーと川谷さんは東京に帰り、スタッフは近郊で開催されるコンサートの準備で途中下車した。

何気なく下車しホームに降りると、なんとそこにはあの笑顔でスタッフ一人一人に深々と頭を下げ、仕事に向かう僕たちに挨拶をする川谷さんの姿が・・・・

大部屋時代から「仁義」「礼儀」を磨き上げた川谷さんからすれば、自然な行動であろうが、忘れられないのは川谷さんの何気ない
「お辞儀」と「笑顔」である。

コミュニケーション能力には「非言語コミュニケーション」(表情や身振り手振りで人に伝える能力)が重要視されるが、まさに川谷さんの所作には人を引き付ける謙虚さと礼儀正しさがあった。

「仁義なき戦い」のドジな組員は本当に魅力的で、「仁義」「礼儀」を知りつくした誰にも真似できない「コミュニケーション能力」を体にしみ込ませていた。

大部屋役者から這い上がった一流俳優からすれば、今風の「コミリョク」を表現すること等、容易い事だったのかも知れないが、今になっても心に残る
シーンである。

30年以上前の話、こんな表情ができる男になり、仕事をしてみたいと思った一瞬であった。

#仕事での気づき



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