ゆるゆるゆるむ、ゆるんでいく

宮古島に足を踏み入れた瞬間、ふわっとやってきた懐かしい島の匂いに、心底心がゆるんだ。

ゆるむ、というより、こわばっていたことに気づいた、が感覚的に近いかもしれない。あれ、いままでどうやって呼吸をしていたっけな、と戸惑いを覚えるくらいに、わたしの吸い込む呼吸は、浅く浅くなっていたようで。

見慣れた島の、見慣れた海が目の前にひろがってきたときに、ふっと体が軽くなった。どうやら、呼吸が浅くなってしまっていることにすら、気づけなくなっていたらしい。

久々に吸い込む空気はなんだか甘くて、やわらかくて、やさしかった。

”ずっと同じ場所に停滞していると、思考もいっしょに、どんどん鈍ってくるんだ” と言ったのは、わたしの旅の先輩。

ゆるゆる、ゆるゆる。
頭のなかに、ゆるく結ばれたちょうちょ結びが描かれる。


ゆるゆる、ゆるゆる。
インドで静かに神様に祈ったときの記憶が、どこからか舞いおちる。

そういえば、わたし今すぐ君に会いにいきたかったっけな。
そういえば、あのアクセサリーすごくほしかったっけな。
そういえば、必死に本屋であの本、探していなかったっけな。

そんな取り留めのないものが、頭の奥底から外側に、あふれ出てくる。

「もう今すぐどこかに行かなきゃ、死んじゃう」
そんな言葉を旅のなかまに吐いた日。

たぶん、どこかに行かなきゃ、じゃない。どこにも行けなくなって、停滞してしまったものたちに、押しつぶされそうになっていたんだ。

島の中を、1歩足を進めるごとに、そんな停滞して、わたしの中でどす黒くなってしまったものたちが動きだす。
めぐる。循環する。くるくるまわって、また私の中に、かえってくる。
少しだけ、形を変えて。

深呼吸をしてみる。おなかがぐっと膨らんで。
すこし甘みをおびた空気が私の細胞を、ゆるゆると、循環した。


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