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ピンクの星型の付箋につづった既読のつかないメッセージ

木曜、夕方。

「ただいま!!」
娘が小学校から帰ってきた。
慌てた様子でランドセルを下ろす。

「ママ、今日遊びにいってもいい?」

娘は同じマンションに住む同じクラスの男の子と仲が良い。
今日はその子と遊ぶ約束をしたようだ。

「うん」
「でも、遊べないかもしれないんだ~」
「??」

遊ぶのか、遊ばないかのか・・事情が分からず娘に尋ねた。
お友達に、今日病院に行く予定があるけど、その後遊べたら遊ぼうと言われたらしいのだ。

こういう時、親同士が仲が良いと話が早いのだが、残念ながらその子の親の連絡先は知らない。

連絡手段がない中で、なんとも曖昧な約束をしてきたものだ。

「私は遊べるから、病院から帰ってくるの家で待ってるねって言ってくる!」

娘は部屋を飛び出し、2階上に住んでいるその子の家に向かった。

・・・

「ピンポンしたけど誰もいなかった」

残念そうに帰ってきた。

もう、今日は諦めたら?と言いかけたその時、
娘は「そうだ!」と何か閃いた様子で、自分の机の引き出しを開け、ピンクの星型の付箋と鉛筆を取り出した。

あぁでもない、こうでもないと書いては消してを繰り返している。

「できた!お友達の部屋のドアにこの付箋を貼ってくる!!」

娘の書いた付箋を覗く。

「私は遊べるよ。病院から帰ってきたら私の部屋のピンポン押してね!娘より 」

たったこれだけのメッセージに随分時間をかけたものだ。

「いってきます」

ピンクの星形の付箋を持って再び家を飛び出す娘。

・・・

「ただいまー!!」
満足気な声が聞こえてきた。

「付箋貼ってきた!これで遊べるぞー」
そううまくいくかな・・と思ったが、その気持ちは胸にしまっておいた。
娘は遊ぶ気満々で、ゲームやお菓子を鞄に詰め、遊ぶ準備をはじめている。

もうすぐ16:00になる。

待ち遠しそうに玄関とリビングをウロウロする娘。

遊ぶ時間は17:00までだ。

刻一刻と過ぎていく時間。

そして、ついに17:00を知らせるチャイムが夕暮れ空に響き渡った。
その日我が家のインターフォンが鳴ることはなかった。

すると、外を眺めていた娘が呟いた。
「付箋、風で飛んでいっちゃったのかもしれないな。見てもらえなかったんだろうな・・・・」

私はお友達はメッセージを見たけど、遊べなかったんだろうなぁと思っていた。
しかし娘は、そもそもあのメッセージ自体が届いていなかったと考えていたのだ。

紙でのメッセージのやりとりは、相手がそのメッセージを受け取ったのか、受け取っていないのかはわからない。
LINEのように「既読」とつくことはないのだ。

伝えたいことがあれば、ネットワークを介してタイムリーに相手に届けることができる時代だ。

「メッセージが届いてない」ということはまず考えない。

そんなことが当たり前の時代に、ピンクの星型の付箋を「風で飛んでしまった」と「そもそもメッセージは相手に届いていなかったのだ」とした娘の優しく美しい発想に、私は心が温かくなった。


私も単身赴任中の夫に手紙でも書こうかな。
LINEもろくに返信してこない夫はどんな反応をするだろうか。

たとえ夫から手紙の返事が来なくても、私の手紙は風で飛んでいっちゃったんだと思えばいいかな。

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