玉響『老いた獅子と金の囲い』その悲劇~アンリ2世とノストラダムス

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6)砕けた槍の先に

1559年6月20日午後 パリ 祝賀の馬上槍試合 
仏蘭西の王女とスペイン王の婚姻
仏蘭西のヴァロア朝の王女 王、アンリ二世の妹

スペイン王であり当時の神聖ローマ皇帝の婚姻フェリペ二世
まだ血の絶える事ない 繁栄の中にいるスペイン系ハプスブルグ

国同士の安寧の為、政治的な結びつき
長年の戦争への一応の終止符のはずだった。

祝祭のような賑わいの中で
前日、その前の日の槍試合も問題などなかった。

槍の穂先はただの棒‥

だがそれが勢いで砕け散り、兜で守られたはずの顔面 僅かな隙間へと突き刺さる 悲鳴、それに血飛沫‥

老いたる獅子 フランス王 アンリ二世の顔に


7)祝祭の歓声 悲鳴に変わる

血の祝祭と変わってしまった 悲劇
馬から落ちた王の身体、彼の兜からは血が溢れる

祝祭の賑やかな歓声は 一瞬の沈黙の後で
つんざくような悲鳴へと‥

西ローマ帝国の滅亡、次なる欧州の王国 ゲルマン、フランク・サリカ族
フランク王国のクロービス王から傍系として繋がり その名の由来
仏蘭西、フランス王国 ヴァロア王朝の王
ノストラダムスの書斎で 彼はハッとして顔を上げた。


8)二つの宗教 次なる婚姻の祝い 血塗れの祝賀 祝祭 
サン・バルテイミーの大惨劇

「王様!」「陛下」人々は悲鳴を上げ、混乱の極み
まだこの時は息はあった‥顔面の大きな傷が死因となるが・・
それは彼の死 その後、しばらく事であった。
 

サン・バルテルミ―の大惨劇 
これまた婚姻の祝いが数万人が殺される血の祝祭‥悲劇

彼、アンリ二世の娘マルグリット、マルゴ王女と
同じ名を持つブルボン家のアンリとの婚姻の時の起こった惨劇
虐殺事件

仏蘭西‥フランスの元となったフランク王国
その始祖たるゲルマンのフランク・サリカ族の王クロ―ヴィスは
アタナシウス派(カトリック)に改宗してローマ教会と結びつく
当時、異端を決して認めない教会

魔女とされた者達、違う宗派などは悪くすれば火刑の運命に
激しい弾圧

特にこの時代に始まったともいえる 新たな宗派プロテスタント‥
ユグノー
宗教争いに大貴族達の争いまで加わる。

王の死は次なる悲劇へと‥

アンリ2世の跡継ぎはまだ幼い子供フランソワ2世
彼の摂政はカトリーヌ・ド・メデッチ

そうして、王女マルグリットとブルボン家のアンリ 
彼女の次なる婚姻の祝いでは大いなる惨劇が待ち受ける

王の死から
1572年 8月に結婚式で行われたサン・バルテルミーの大惨劇 
数万人のユグノー(プロテスタント)が虐殺された。

やがてヴァロア朝の滅亡へとつながってゆく

ヴァロアの王家の王は世継ぎを残さずに
王女マルゴ、マルグリットは世継ぎを産まない

仏蘭西の王家は 傍系のブルボン家へと引き継がれるから



9)黒衣の女王と麗しき金の髪の寵姫

「では、王の愛妾デイアーヌ 貴方の栄華は王と共にあったもの
お分かりね」喪服の黒衣に身を包んだ 王妃カトリーヌ・ド・メデイチが言い含める。

「…はい、王妃さま」
王より20歳年上で彼にとって妻のような存在であり母でもあった麗しき公爵夫人
デイアーヌ・ドポワチエが静かに述べた。

美しく、金の髪をした愛妾
彼女の華やかな栄華は王と共にあったもの 
少なくとも彼女自身の命に 住まいの城に領地からの税収などは確保されたのだ。
カトリーヌ・ド・メデイチ 

カトリーヌ王妃として 王家の者としての立場を王妃はようやく手にして
それは長年の嘆きの対価でもあるかも知れない。

名家に生まれながら 幼くして両親を亡くし
10代の少女時代には領民の反乱で命の危険  その時には馬に乗せられて晒しものされた過去  
高い教養を得る事が出来たが、政治の駒だったカトリーヌ王妃

取り上げられた遺産‥数々の危険…
政略結婚だったが 恋した王、アンリ二世の心は愛妾デイアーヌのもの


10)予言を終えて 終わりなき夜に

沢山の詩の形をした預言 
それらは難解な予言 暗号めいた予言を残して
・・自らの死さえ知って、それを書き起こすノストラダムス

終わりなき夜が続いてゆく 朝には太陽が上り、夕暮れには月が現れる
人の世は何処までも続く 

多くの内乱、多くの悲劇 狂気
例えばサンバルテミの惨劇 

嘆きと喜びにと人の世はタペストリーを描くかの如く
紡がれてゆくのだった。

FIN


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