6、風車
恐いと思っていたおじいちゃんだったけど、
大好きになる時もあった。
それは時折、あの自動ドアを出て、
散歩に連れていってくれることがあったから。
おじいちゃんについてゆき、一生懸命に歩く。
そして、大きな病院がある通りまで行くと、
そこではたまに、リヤカーで売り出しに来ている
色とりどりの風車を見ることができた。
見ているだけでも楽しかったのだが
ある日おじいちゃんは、
そのひとつを買ってくれた。
当時のわたしには、唯一の綺麗で大好きな、
自分だけのおもちゃ。
風車を買ってもらったわたしは、
施設に戻ったあと、ずっと、
あの地下の部屋の前の廊下で
風車が回るように走りまわり、
「おじいちゃん、大好き」
わたしは何度もそう言った。
その時 おばあちゃんは、
「ごめんね、おばあちゃん、ののちゃんに
何も買ってあげられなくて」
と、悲しそうな目で、わたしに謝った。
「ふうん、おばあちゃん、きらーい」
と呟き、そしてまた、
「おじいちゃん、大好きー」を繰り返し、
ひたすらに風車を回す為だけに走った。
この、何事もない日々から数ヶ月後、
わたしは突然、
あの大きな病院に連れて行かれることになる。
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