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地域のパブリックな組織の参加単位が「世帯」であるということの意味

 先日、とある講演でご一緒したゲストの方がやっている仕事の話を聞いて感銘を受けた話をするのだけどね。

 その方は地震の被災地の復興を手伝う建築の人で、地域で復興のプランを決めたり利害の調整に関わっているということだった。これは住民参加のまちづくりの分野ではオーセンティックというかクラシックな意味での専門的な仕事で、神戸なんかでもまちづくり協議会制度っていって、地域代表組織を作ってそういう話し合いをするんだね。そこに関わる専門家だという。僕みたいに、ゼロ年代以降にまちづくりを始めたような亜・専門家とはちょっと性格が違う。

 さて、氏の話で興味深いと感じたのは、そこで地域の合意をとっていこうとすると、専門家は所謂パブリックな会議だけでは足らず、その組織を構成する世帯の中に入り込み、話し合いを作っていく必要があるという経験則で。

 これ、さらっと「世帯の中に入る」って書いてるけど、それってつまり「家族会議に参加する」ってことだ。すげー。いや、まじですごいと思うんだ。なんていうか、頭が下がる。

 で、なんでそうしなきゃいけないかっていうとね。

 まず、まちづくり協議会的な地域代表組織というのが、町内会などの地域組織をベースにしているんだね。で、その町内会が、世帯を単位に構成されているんだね。参加の単位が個人ではなく世帯なんだ。

 なので、協議会のパブリックな話し合いの場には、世帯主ないし、世帯の代表者が参加することになる。当然ながら、世帯代表者は、世帯の声を代表して発言するというのが建前だ。だけど、そのとき、世帯の声を代表するための手続きを、世帯代表者が、世帯の中で踏んでないケースがあるっていうんだね。要するに、家族の同意なく、世帯主が勝手にパブリックの場で発言しちゃうわけだ。

 当然、地域代表組織としては、構成メンバーである世帯代表は、世帯の合意は取ってるものとして進める。その結果、出来上がる復興プランが、地域の個々人のイメージと乖離したものになる。で、それではみんなの合意でまちづくりをすすめることをミッションとする専門家としてはまずいので、専門家は、世帯の中の会議にまで入って、合意形成のための介入をするっていうんだね。

 これ、こないだも書いた家制度の名残からくる問題だと思って。

 よく知られるように、明治以前の家制度では、世帯の長、つまり家長には強い権限が国から与えられていたんだね。これが「家父長権」であり、家父長権をコアとして運営される秩序を「家父長制」という。

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