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まちづくりが「楽しくないとできない」時代はいつ始まったか?〜浅石裕司、吉村輝彦『「楽しさ」概念による「住民主体」の捉えなおし地域福祉・まちづくり分野における文献レビューをとおして』

よく知られる通り、従来の地域組織においては、どこでも担い手不足と高齢化が慢性化している一方で、子ども食堂などの新しい活動が出現し、地域で活動してもいる。

普段、従来の地域組織に関わっている立場からすれば「どうせ活動するんやったら子ども食堂もええけど、従来の組織に参加してくれてもええんちゃうの」と思いがちだ。しかし、そうはならない。ということは、なんらか理由、メカニズムがあるはずだ。

ではそのメカニズムとはなにか。そんな疑問にヒントを提供してくれる論文が、浅石裕司、吉村輝彦『「楽しさ」概念による「住民主体」の捉えなおし
地域福祉・まちづくり分野における文献レビューをとおして』
である。本論文は社会福祉をテーマとしたものであるが、地域社会を取り扱っていてまちづくり論としても参考になる。

まず、これまでの地域福祉の論調では、主体性の形成は福祉教育という視点から進められてきたと捉えられるそうである。しかし、本論では、福祉教育の必要性には同意しつつも、福祉教育だけで住民の主体性の醸成を行うことは難しいのではないかと指摘する。(P32)

その上で、複雑化する課題に対応するためには、ボランティアや住民活動等の多様なアクターの存在や、その役割が求められるようになっており、福祉教育に限らない、多様な参加や主体性の醸成のあり方があってもよいという。(P32)

ではどんなあり方なのか。そこで提案されているのが「楽しさ」概念を中心に据えた在り方だという。

本論では「活動に参加・参画することで、気持ちのよさを感じ、充足感を感じながら活動を継続したいという気持ちになるという心の状態」を「楽しさ」と定義し、「教える」「巻き込む」「無理やりつくる」という従来からよく知られている教育的な生成・醸成のあり方ではなく、「自然体な参加」「気づいたら一緒に取り組んでいた」「主体性はあるけれど発揮できない状態から変化し、発揮されるようになった」というナッジ的なあり方に着目しようという。(P33)

その上で、本論では既往研究のレビューを行っている。「楽しさ」概念に触れている文献数は、地域福祉分野が138、まちづくり分野が3,892となっていることがわかったという。どうやら、まちづくり分野で多く注目されていることが読み取れそうである。

さらに比較として,「楽しさ」は2,468 件,「面白さ」は1,562
件が該当したそうで、「楽しさ」の方が多く扱われていることが読み取れたという。(P34)

次に年代でソートすると、最も古い文献は1992 年の住民主体のまちづくりに関するもので、最も新しいものは2023年のもので、有志で地域づくりに取り組む合理性の内容だった。細かく見ると、1990年代の文献が4 件、2000 年代が4 件、2010 年代が11 件、2020 年から2023 年が3件であったそうである。2010年代に急激に「楽しさ」概念がキーワードとして注目され始めたトレンドが見える。(P35)

ではこじみた変化はなぜ生じたのか。

本論文によれば、まず1990年の福祉八法改正によって社会福祉サービス提供システムが従来の公共セクターを中心とする一元的福祉サービス提供システムから市民参加型の民間活動等の多元的なシステムに変化したことの影響があるという。ここで地域福祉計画がつくられるようになり、福祉において住民参加のまちづくりとコミュニティがクローズアップされてきたことと、多領域間の連携が必要となることが影響しているという。(P38)

そうした状況では、地域活動者にはさらに多くの役割が期待されることになるが、住民自身の意識としては現在でもかなり頑張って参加しており、これまで以上の参加を促すことは困難で、義務感だけでこれ以上の参加は難しいろう。そうした状況においてなお参加のきっかけになるとすると、「楽しさ」が必要になるという。(P38)

なるほど、義務に基づく全員参加の論理が通用しにくくなった時、ボランタリズムに基づく有志参加の論理で集合行動を進めようとすると、「楽しさ」が必要になる、ということだろうか。

他にも、「楽しさ」概念に関する記述がいくつも紹介されている。

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