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想いが結ばれた5月のある日

そろそろ、あのお話のつづきを。

続編をご希望される方がたくさんいらしゃったので、ちょっと恥ずかしいですが、書こうと思います。



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私は、7年前のバレンタインデーの夜、彼に告白未遂をした。

未遂に終わったのは、私と彼の言葉不足のせいである。


私が告白未遂をした後、彼に呼び止められ、

「まだ状況がうまく飲み込めないけれど、ももこちゃんはぼくと付き合いたいの?」

と聞かれた。


私は、気が動転していて、穴があったら隠れたい、早くこの場から立ち去りたいとしか思っていなかった。

それに、彼は、他の男の人を私に推薦するくらいだから、私のことが眼中になかったのは明らかで、ここでうんと頷いても付き合ってもらえるわけがないと思った。

「付き合おうか。」

と言われても、やさしい彼が私に気を遣っているのだろうとしか思えず、

「いえ、いいです」

と断って、私は改札の向こうへと歩いた。

これで、気持ちが伝わるわけがない。

彼にしてみたら、告白されたと思った子にフラれたような、変な気分だっただろう。



そのひと月後。

部活の4年生を送る会があった。

部活は、3年生で引退だったが、卒業するときに、もう一度送る会をする。

ちなみに、彼は、大学院進学予定だったから、卒業しても別に遠くに行くわけではなかった。


その会で、私と彼はひと月ぶりに会った。

その会は、サークル棟の一室で行われた。

卒業生たちがたくさんお酒を飲まされている中で、彼は紅茶花伝をちびちび飲んでいた。

「ずいぶんかわいらしいのを飲んでいますね」

と私は彼に話しかけた。

「ビール飲んで、ゲフゲフするのイヤだもん。」と彼は言っていた。

みんなが酔い潰れていくなかで、そのころお酒に強かった私と、紅茶花伝しか飲んでいなかった彼は、最後の後片付けまできちんとこなした。


会がお開きになる間際、バレンタインのお返しに、と彼から紅茶と飴のセットを手渡しされた。

「バレンタインしか予定が空いてないなんて、嘘だよ。」

と言われた。

それってどういう意味だ?と考えているあいだに、会はお開きになった。


バレンタインに私に会いたかったの?


私は、数日間悶々と過ごした。

たぶん、バレンタインのあと、彼も悶々と過ごしただろうけれど。


そして、悶々と考えることに疲れた私は、気づけば、会いたいですと彼にメッセージを送っていた。

次の瞬間、ふと我に返り、何か言い訳をしなければとアタフタしている間に、彼から、「ぼくも会いたい」とメッセージが来ていた。


私たちは、お花見をすることにした。


お花見の日。

駅で待ち合わせをして、枝垂れ桜で有名な公園へと歩いた。

公園に着くなり、彼は、「おいしそうだね」と言う。

なんの屋台がおいしそうなのかな、と彼の視線を辿ると、彼の視線の先には、枝垂れ桜がある。

「桜の花って、ポップコーンみたいでおいしそう。」と言っていた。

なんだそのかわいい感性は、と思っていると、前から犬を連れたおじさんが歩いてくる。

彼は、犬が好きなので、犬にキラキラと視線を送っていた。犬の飼い主さんのおじさんから、触っても大丈夫ですよと言われ、彼はそのワンちゃんを撫でさせてもらって満足そうだった。

私には、犬よりも彼が喜んでいるように見えた。


お花見会場をぐるりとしても、まだお昼過ぎで、これからどうしようかと思っていると、彼は映画を見に行こう!と提案してくれた。

そのとき流行していたアナ雪を観ることになった。

ちょうど観たいなと思っていた映画だったし、なんだかデートっぽいぞ、と私はひとりで盛り上がっていた。

映画館に着いて、私は、なぜ映画館に行こうと彼が提案したのかわかった。

彼は、ポップコーンが食べたくなったのだろう。


映画を観ている間、オラフが面白いことを言うたびに、彼はクスクス笑っていた。

私は、あまりどこでも声をあげて笑わない。

どこにいても素直に笑える彼は、やっぱりすてきな人だなぁと思った。


映画館から帰る途中の地下鉄の中で、彼はぽつりと言った。

「ももこちゃんは、あまりしゃべらないね。」

退屈させちゃったかな、と思い謝ろうとすると、

「静かだけど、気まずくなくて、不思議だ。居心地いいみたい。」

と話す彼は、本当に不思議そうな顔をしていた。

私は、あまり話すスピードがはやくなく、言葉を紡ぐのに時間がかかってしまうから、どうしても沈黙が多くなる。
それを肯定的に捉えてもらえることがうれしかった。


その日は、付き合おうとは、二人とも言い出さなかった。

けれど、二人の距離が近づいた日だったと思う。



そして、5月のある日。

私たちは、また待ち合わせをした。


その日は、午後から授業があったから、早めの時間にランチを食べた。

ランチのあとも、まだ授業までには時間があった。


彼は、ちょっとお散歩しようかといって、歩き出す。

彼が案内してくれたのは、公園だった。

街中にある、小さな公園。

新緑に彩られた公園は、緑色が眩しくて。

さらさらと心地よい風が吹いていた。

小さな子を連れたお母さんたちがいて、子どもたちのかわいらしい声もする。

「この公園好きだから、よく通るんだ。」と彼は言っていた。

この場所が好きだという彼が、私は好きだと思った。


ベンチに座って、彼が話しだす。

「ももこちゃんから、バレンタインに言われたことをずっと考えているんだけど。ももこちゃんは、ぼくと付き合いたいのかな?ぼくは、これから研究が忙しくなるし、なかなか構ってあげられないかもしれない。ももこちゃんのことしあわせにできるかどうかも自信がないし…」

とゴニョゴニョ言っていたが、私は、ズバッと言い切った。

「付き合いましょう!」

と。

「なんだか、ももこちゃん、勇ましいね。」

と彼は、私の迫力に気圧されながら、笑っていた。


私と彼は、その日から付き合い始めた。


今年の5月で、7年が経つ。


7年間、彼のおかげで、私はいつもしあわせだった。

苦しいときも、つらいときも、彼がいたから私は乗り越えられた。

彼と一緒だと、なにをしていても楽しい。



このまえ、短い間だったけれど、彼と一緒に暮らした。

彼と一緒にいる間も、彼の帰りを待っている間も、すごくしあわせだった。


私のお仕事のために1年間離れて暮らすことになったけれど、私の帰る場所は、彼のいる場所だ。



そして、今日。

私たちは、家族になった。

前から、この日と決めていた。

今日は付き合った日ではないのだけれど、縁起のいい日を彼が選んだら、今日になった。


私は、彼と家族になれたことがとてもうれしい。

ずっと夢見てたから。

いまも夢の中にいるみたい。


私たちは、離れていても、家族だ。

離れていても、私はいつも彼の愛情に包まれている。

しあわせいっぱいの家庭をこれから築いていきたい。



本当は、今日までに、絵を完成させたかたのだけど。


予定外にお仕事が始まったりして、まだ完成できていない。

というか、3日前にようやく着手できた。

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塗りはじめたばかりのキャンバスは、まだ理想とはかけ離れていて。

でも、いろんな可能性に満ちている。


なんでこんな絵なの、と訊かれても自分でもよくわからない。

描きたいイメージを描いていたら、こうなった。


これは、私から見た、彼の肖像かもしれない。

美しい心の持ち主。

一緒にいると、心に慈雨が降り注ぐような、そんな人。

目標に向かってすくすくと成長しながら、立ち止まる私にそっと手を差し伸べてくれる。


…と思いながら描いたのに、彼には、コダマ(※もののけ姫参照)がいっぱい棲んでそうで怖いと言われた。

たぶん、大幅に画面は塗り替えられることになるだろう。


このキャンバスのように。

未完成で、未熟な私だけど。

これから少しずつ、この絵と一緒に理想に近づけていきたいなって、思ってる。



いつもnoteを読んでくださっている皆様

未熟なふたりではございますが、これから私たちは、あたたかい家庭を築いていきたいと思います。

今後とも、ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます。