「春玄鳥」 -3月のお守り-

「春」という季節自体は好きだ。
穏やかで過ごしやすい気候。花も好きなので、空を見上げると視界に飛び込んでくる桜や、地面を黄色く彩る菜の花。
薄手のコートやニットを羽織って、春の温かい風を纏いながら、のんびりお散歩をするのも好きだ。

花が好きで、寒いのも、暑いのも苦手な私だから、春は一年の中で一番楽しみな季節だ。


だけど怖い。好きだけど、怖い。
苦手ではなく、怖い。春は失うものが多すぎるから。



卒業、異動、新年度、クラス替え…春は別れと出会いが多すぎる。
別れが辛いという方は多いだろう。でも私は、新しい出会いもセットで辛くて怖いのだ。

学生時代は、一年かけてやっと仲良くなれたクラスの友達とバラバラになってしまうクラス替えや、中学、高校と、着実に将来と向き合う時間が近付いていく進級が憂鬱だった。
社会人になり、保育士の仕事を始めてからは、大好きな子どもたちが卒園、退園してしまうのが悲しい。一年担任を勤め上げても、翌日からはまた新しいクラスに気持ちを切り替えなくてはいけないのがしんどい。

当たり前にあった存在を失う苦しさ、積み重ねたものがリセットされる感覚は、毎年経験しても同じだけ怖い。

テレビなどの業界で、番組の入れ替わりの時期を指す改変期の多くも春だ。いつも欠かさず見ていたテレビやラジオの番組が、改変期によって終了してしまうのも悲しい。長く続いていた番組ほど、思い入れもあり、悲しみも大きい。

自分の好きなものや、安心できる場所が、失くなってしまったり、変わってしまったりするのが怖くて堪らない。



だけど、二年前、お守りのような大切な曲に出会った。
「Hey! Say! JUMP」の『春玄鳥』。

『はるつばめ』と読むこの曲は、当時のテレビアニメ「ラブオールプレー」の主題歌に起用されており、楽曲提供は「sumika」の皆さん方。

迷い、傷付きながらも、自分の進む空へ向かって懸命に飛び続ける主人公の様子を、ツバメが飛ぶ姿に例えた爽やかな歌詞。
直接的に聴く人を応援するようなフレーズは出てこないが、聴く度に心がふんわりと救われる。
MVでは、Hey! Say! JUMPの8人が、優しい歌声と弾ける笑顔で包み込んでくれる。

頭と拳をぶん回しながら、"「やればできるさ」 喧しいよな"と歌うメンバーが愛おしい。

二番のサビに出てくる「燕子花(カキツバタ)」が何なのか気になり調べると、花の名前だった。花言葉は、「幸せは必ず来る」。ツバメが羽を広げたような形の花びらで、ツバメは幸運を運んでくれる縁起の良い鳥ということから、この花言葉になったと言われているそうだ。

フラフラと傷付いた羽でも、自分の進む空へ懸命に飛んで行った先には、幸せが私たちを待っているのだ。

来年の春には、今よりもなりたい自分になれているだろうか。誰かのために頑張るのは疲れてしまうけれど、自分の夢や理想に向かって努力するのは格好いい。幸せになるための失敗や苦労は、我慢できるようにならないといけない。

自分の好きなものや、安心できる場所が、失くなってしまったり、変わってしまったりするのは怖いけれど、失うと同時に得るものも必ずあるし、環境が変わる度になりたい自分に近付けているのだろう。



「春」という季節自体は好きだ。でもやっぱり、出会いや別れは好きになれない。
だけど春玄鳥に出会えてからは、ほんの少し楽しみにしている、かもしれない。春が来る度に、毎年この曲をお守りにして生きている。私にとって春は、なりたい自分を思い描く季節。

一年で一番、特別な季節かもしれない。

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