20210130 花束みたいな恋をした
とてもいい邦画を観た。
麦くんと絹ちゃんの2人が共に生きた5年間。同じ時代に日本で生きてきたからこそ感じ取れる時代感・カルチャーがたくさん散りばめられていて「私はこういう邦画が観たかったんだよ!」と鑑賞中に誰か(誰?坂元さんかな?)に言いたくなるほどだった。劇中に流れるいくつもの音楽で「あぁこの曲が流行った時期あったな」「この曲選曲する人ってこうだよね」となるし、登場人物の好きな本や映画、ファッション、家電などからも多くの情報を得ることができる。いつも海外の映画やドラマを観てもどかしく感じていたやつ。海外の人にはわからないだろうなぁ~となんだか誇らしい気分。やっぱり時代感とカルチャーがリアルに映し出されている作品は面白いな。
「花束みたいな恋をした」は、脚本:坂元裕二、監督:土井裕泰の「カルテット」コンビの作品。そして菅田将暉と有村架純が主演。情報解禁された時から「絶対好きなやつ!」と確信して映画が公開されるのをずっと楽しみに待ってた作品だった。期待感たっぷりで劇場公開2日目に念願の作品鑑賞。自宅近くの映画館の約150席ほどのシアターがほぼ満席で、私と同じようにこの映画の公開を待っていた人たちがたくさんいるんだなぁと感じ妙な仲間意識を覚えた。ちなみに、計画性のない私は当日の昼頃にチケットを取ったのだけど、その時点で4列目までは空きが1つもなくて、残り少ない空席の中から3列目の真ん中あたりの席で鑑賞した。予告編を観てる時はやっぱり前すぎたかなと思ったけど、本編が始まったらそんな違和感を感じることは全くなく、作品の世界にどっぷり入れて正解だったと思った。
期待感たっぷりに観た結果、見事に期待を超えてきたよ。124分の映画の中でちゃんと5年間の時が流れていた。2人の日々をずーっと近くで見てきた感覚。学生時代の麦くん(菅田将暉)のリアルさがすごい。実際に私の周りには彼みたいなタイプはいなかったはずなのに、まるで麦くんのような彼氏がいたかのように記憶が塗り替えられてしまう。時の流れや置かれている環境によって彼が徐々に変化していく様子も、自然でありながらきっちり演じ分けていて、やはりすごい俳優なんだぁと感じた。麦ちゃんと絹ちゃんの2人のバランスがとても素敵だったなぁ。私は2人のカラオケの場面がすごく好きだった。歌のうまさもちょうどいいし、選曲で対比を効かせてるところもいい。あとはファッションのリンクの仕方も程よくてかわいいかったな。麦くんのファッションが所々ツボ。若い2人は互いに色んな変化があるけど、物語の後半でも2人が部屋着として履いている青地チェックのズボンだけは変わらずリンクしているのを見て、なんだかホッとするような切なくなるような。
そういえば私も大学生の時、2人と同じ白のジャックパーセル履いてたな。仲良くなった男の子が履いていて、コンバースとはちょっと違うところがいいなと思って真似して買ったんだった。私が大学生として生きてきたのはもっとずっと前の時代なのになんだか不思議。
麦くんと絹ちゃんの大学生時代を見ていて強く感じたのは「自分の”好き”をしっかりわかっているのがすごく羨ましい」ということ。2人はいわゆる”サブカル系”という感じで、好きな本や好きな映画が偶然にも一致していたことから互いに惹かれていく。一方で、学生時代(つい最近までかも)の私は自分の本質に気づけていなかったような気がする。昔から読書は好きだったけどそれを共有できるような友達はほとんどいなくて、文化系とは対極のところに所属してきた。”オタク”は自分と縁がない人種だと思っていたし、どちらかというと”爽やかスポーツ系”のような。もちろんガッツリそっち系の人間ではないので、中途半端に色んなグループをフラフラしつつではあったけど。30代後半となった今では、私はどちらかというと文化系の方に所属していた方が楽しいし、安心感があるとちゃんと自覚している。今は映画と音楽の面白さに目覚めて遅い思春期のような感じで楽しんでいるし。今のように気軽に色んな映画や音楽に触れられる時代に学生時代を過ごしていたら、私の人生けっこう違っていたかも・・なんて考えても仕方のないことを考えさせられた。今の若者たちうらやましい!
ラブストーリーの映画ということでカップルで観に来ている人たちも多かったようだけど、この映画を観た後どんな会話をするんだろう。前列のカップルの彼女は映画が終わった後に「男の人だと菅田将暉に共感しながら観るのかな?私は有村架純に共感だった」と言っていた。彼氏の答えを聞く前に通り過ぎてしまったけどなんて返事したのかな。私は麦くんに共感したり絹ちゃんの気持ちもすごくわかると思ったりで、2人の間を行ったり来たりしていた感じ。そういえば、帰りのエスカレーターで後ろに立っていた大人な夫婦も何やら意見交換をしていたようだし、私も誰かと意見交換してみたいものだ。
脚本家の坂元裕二さんの書くセリフがほんとに素敵で、きれいなだけでなく皮肉っぽさも存分に感じられるところが秀逸だった。何かのインタビューで「劇中に出てくる固有名詞などはあくまでも物語の主人公たちの好みであって自分の趣味は作品に入れない」と言っていたし、麦くんと絹ちゃんに対しても愛がありながらもどこか皮肉な視点を持っていそう。そんなバランス感覚がとても好みだ。少し時間が経ったらもう一度観に行くのもいいかもしれない。それまでは映画のプログラムと坂元裕二特集の「ユリイカ」を読んで作品の余韻を楽しもう。
途中途中、私には全く理解できないタイミングで笑う観客が2人いて(後ろのほうのおじさんと左隣の女子)不愉快になったけど、それはそれで自宅鑑賞では味わえないいい思い出かな。1月最後の良き土曜日となりました。
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