見出し画像

問題6. アメリカンスタイルのホップブームはどうやって流行ったのか?

ホップは、ビールに苦味を与えモルトの甘味とのバランスを整えてくれる繊細さ、シトラスや様々なフルーティテイストを与えてくれる派手さも兼ね備えている。


さて、歴史的に見るとホップの役割の推移が分かる。

長い間、ホップは菌からビールの安全を確保するために使われてきた。長い航海でも腐らないように保存できるようにだ。

アメリカでクラフトビール文化がスタートした当時は、イギリススタイルのビールを真似て醸造されていた。イギリススタイルのビールは、しっかりとしたモルトを感じられ、ホップは主に苦味成分として使用されていた。


しかし、アメリカ人が革命的な新ホップを発明した。その名も” CASCADE : カスケード ”。かっこいい名だろう。

カスケードホップはそれまでのホップの常識を覆した。グレープフルーツの香りオイルをふんだんに含み、それは当初ヨーロッパで使われていたホップの香りとは全くと言っていいほど異なるものだった。


カリフォルニアにあるアンカーブリューイングが、その発明的なカスケードホップを使い始め、その様子を各地のクラフトビール醸造所が学び、持ち帰って自分たちのビールに使うようになった。彼らのホップ使用量はどんどんと増えていった。”ホップブーム”の到来だ。

1990年代、アメリカ各地の醸造所で、どんなタイミングでホップを入れるべきか何度も実験が行われた。覚えているだろうか?「問題3.どのようにビールを造るのか」で述べたように、麦汁を煮沸する段階でホップは投入される。

煮沸は通常60〜90分間行われるが、煮沸スタート時に投入するホップは”苦味”を、煮沸終盤で投入されるホップは”柑橘やフルーツのフレーバー”をビールに与えてくれる。もし、苦味を極力与えたくないのであれば、「Dry hop : ドライホップ」と呼ばれる手法で、発酵最終段階でホップを投入することもある。


2000年代、アメリカの醸造家たちはホップの虜になっていた。その時代は「bitter wars : 苦味戦争」と呼ばれ、各地のクラフトビール醸造所はとにかく”ビールの苦味”を最大にしようとホップの量をさらに増やしていった。それは、一般人には飲めたものでないほど苦いビールさえあったほどだ。


bitter warsは、アメリカのクラフトビールシーンに多大な影響を残していった。数年後、苦味を追求するのに疲れた醸造家は次なるスタイルを求めてあらゆる実験し、生まれたのが「Cascadian Dark Ale」と呼ばれる黒いIPAだった。
また同時期、アメリカ北東部の醸造所の間でユニークなスタイルの「Hazy IPA」が発明された。Hazy = 濁った IPAだ。

アメリカの他の醸造家は、サワービールや新たなラガービールの研究を始めた。たぶん、彼らはホッピーに疲れていたのだろう。


ホッピーでないビールが流行るときでさえ、ホップはいつでもビール醸造における重要な役割をになっており、毎年のように新たなホップが導入されている。近頃見かけるビールでよく使われているホップ、例えばMosaic, CitraやEkuanotはかなり最近になって発明されたものだ。

ホップ農家たちは、毎年新たなキャラクターのホップの栽培を試みており、最近では今までに聞いたことのないフレーバーオイルを持つホップが発明されている。strawberryやcoconut, chocolateフレーバーだってあるんだ。そのうちcurryフレーバーとかBBQフレーバーとかでてきそうだ。


日本にいる僕たちにとってワクワクするような発展は、日本の各地でもホップ栽培が行われていることだ。Sorachi Aceと呼ばれるホップが日本で発明されたのは世界的にも有名で、今でも日本のどこかでホップの研究が行われている。そして、新たな日本国産ホップが世に出たら、すぐに僕らの醸造所でも使い、いろいろな研究をしていきたいな。


文 Takumi Kaneko

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?