📘️ Book Club：人のためのデザイン － この地球でみんなが快適に、サステナブルに、地球への影響を減らす生き方を提供してくれるナイチンゲールの取り組み

Build Less, Give More

メルボルンのブランズウィックを拠点とするNightingale Housing(ナイチンゲール・ハウジング)は、社会的、経済的、また環境的にサステナブルなアパートを提供する非営利団体です。彼らのコンセプトは最小限の建築、「Build Less, Give More」です。

画像：Nightingale Housing (Nightingale1ブランズウィックのテールハウスの例）

Nightingale Housingが意図するアパートは、最低限の機能を備えたサステナブルな住宅です。Nightingale Housingはミニマリストを目指しています、そしてそれは非常に合理的で現代的なものです。彼らは、建物に使う資材を極力減らして、素材感を大切にしています。そしてこれこそが、これから人間がこの地球環境でサステナブルに暮らすための方法だという理念のもとに活動されています。

私がNightingale Housingについて知ったのは一年ほど前のことでした。ブランズウィックに住む友人宅に遊びに行った際に、たまたまNightingale Housingのアパートの前を自転車で通り過ぎたのでした。アパートの第一印象は、とてもモダンで素敵な印象を受けました。でも、すっごく高いんだろうなぁ〜。と、ふとため息をつきました。

でもその時に、その近くで立ち話をしていた住人何人かがとても楽しそうで、幸せそうに見えたのでした。そして、Nightingale Housingについて調べてみようと思ったのがきっかけになりました。

彼らのプロジェクトのプレゼンテーションを何度か見学させていただきましたが、いつも彼らのコンセプトや、アイデアには驚きと感動を覚えます。私はものを個々に所有するのではなく、シェアをするという考え方や、皆で地球や環境に優しい生き方をしていくという考え方がとても素晴らしく思えます。

今回は、そんな私たちの夢を叶えてくれたNightingale Housingのサステナブルな暮らしの提案、また彼らの考えるコミュニティのあり方をご紹介したいと思います。

画像：Nightingale Housing (オーストラリア・メルボルン近郊、ブランズウィック、アーダーンNZ首相が描かれた穀物サイロ)

アイデアが生まれた理由

メルボルンの住宅はとても高額で、長年続いている住宅価格の高騰は、初めて住宅の購入を検討している方々のに大きな打撃になっています。私にとって家を所有するという考えは達成不可能な夢のように思えます。

過去20年の間、税制変更によってリッチ層がより多くの不動産を購入するようになりました。最近では、特に若い人たちが都市部で住居を手に入れるのがとても難しくなりました。

ABCによると、メルボルンの住宅の平均価格は約100万ドル（日本円で約8,500万円）です。アパートの購入は確かに安価ですが、それでも安くはなく、1ベッドルームユニットの平均価格は50万ドル以上です。

そして、新しく建てられつつあるマンションやアパートは、デザインも悪く、建て付けも不十分で、人のためというよりも、お金のために作られた粗悪なアパートが増えつつあります。

メルボルン市議会の調査によると、15階建て以上の市内で最も高いアパートの55％は粗悪あり、とても窮屈なレイアウトとなっており、自然光の欠如などの一般的なデザイン上の欠陥が多くあります。例えば、調査された新しい住宅開発のほぼ4分の1に「窓のない寝室」が存在します。

オーストラリアで最も受賞歴のあるサステナブルなデザイン会社のBreatheの創設者、レジェレミー・マクラウドとタマラ・ヴェルトレはそれがもっと良くなる可能性があることを考えました。彼らは将来的な保証のため、すべての人が持ち家にアクセスする機会を提供したいと考え、2014年、Small Giants Academyの助けを借りて一番最初のプロジェクトに取り組みました。

💡Small Giants Academyは、より公正でサステナブルな社会への移行を目的としたメディアおよび教育イニシアチブです。 共通の価値観とビジョンへのコミットメントによって団結する多様な個人のグループで成り立っています。

画像：Nightingale Housing
ジェレミー・マクラウド。タマラ・ヴェルトレとともにNightingaleHousingを設立した共同創業者

－タマラ・ヴェルトレ
Nightingale Housing共同創業者。ジェレミー・マクラウドと2000年、Breathe Architectureを設立し、サステナブルな建築を志向。14年に独立、15年にNightingale Housingを設立。
－ジェレミー・マクラウド
Nightingale Housing共同創業者。メルボルンのBreathe Architecture共同創業者、デザインディレクター。デザイン性の高さと持続可能な建築を提供することで高い評価を得ている。

BreatheによってデザインされたThe Commonsは、Small Giants Academyによって引き継がれました。

The Commons、物質的な還元主義から共有施設の社会的影響まで、ナイチンゲール・モデルに固有の多くのアイデアのプロトタイプとして機能してきました。 The Commonsのユニークなアプローチは広く注目を集め、全国的な賞を席巻し、ナイチンゲール・モデルとナイチンゲール・ハウジングの基盤を築きました。

画像：Nightingale Housing (The Commons)

また、このThe Commonsのプロジェクトを目にした多くの人々はとても関心を持ち、大きな反響を得ました。そうして、Nightingale Housingが誕生しました。

Nightingale Housing

Nightingale Housingは利益ではなく人々のための家を作ることを意識的に考えています。彼らは非営利団体として「利益を求めない」ことを表明して、原価で住宅を販売しています。カーボンニュートラルでサステナブルな住宅を安価で買えるとあって、購入希望者は殺到しています。

Nightingale Housingのアプローチ

→ サステナブルであること：

地球環境に配慮した設備が、追加料金も発生することなく標準装備されています。アパートは、エネルギー効率が高く、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させてカーボンニュートラルに保たれています。屋上にはソーラーパネルと雨水槽、屋上庭園、コミュニティスペース、全住人が使用できるランドリーが設置されています。雨水槽で雨水を収集し、浄化した後タンクへ貯水して、植物への水やり、またトイレの洗浄に再利用するシステムとなっています。これで 限りある水資源を有効活用できます。また住人は、屋上庭園で育てた野菜などをシェアできるようになっています。

画像：Nightingale Housing (The Commons ブランズウィック)

建物にしようされている素材にも拘っています。セラミックタイルではなく撥水加工コーティングで済ませてあり、水回りの金具は真鍮製で、クロムメッキのものは使われていません。二重ガラスや断熱材など気密性の高い建物構造と換気システム、サンシェードや壁面緑化などによって、エアコンの使用を抑えることもできます。

→ 支え合うコミュニティ：
Nightingale Housingが行っているのは、近代化の過程で都市のスプロール化が進み、寸断されてしまったコミュニティを取り戻すための活動ともいえます。人々がお互いにつながり、楽しく暮らせるサステナブルな場所を提供してくれています。

住民たちはサステナビリティやコミュニティに対する価値観を共有していて、ダイバーシティかつインクルーシブで、お互いの面倒を見て、互いを大切にするコミュニティとなっています。

屋上にある共用スペースには、ランドリーや物干し場、菜園、屋上庭園が設置されており、グランドフロアには、カフェやレストランなどの店舗が立ち並んでいます。これらの共有設備は、コミュニティを構築する機会を提供しています。

画像：Nightingale Housing (菜園、屋上庭園)

画像：Nightingale Housing (共用スペース)

Nightingale Housingは、またアボリジニと文化を尊重しています。彼らのプレゼンテーションには必ず先住民の方が参加され、先住民視野を中心としてプロジェクトを進める努力を続けています。例えば、新しいアパートには全てアボリジナル言語がしようされています。

ラーク (雲) 、ウルウル (空)、ナーワン (太陽)、ヤンブック (月)

画像：Nightingale Housing (ラークとウルウル)

→ 生活費を削減させる：
Nightingale Housingの建物は利益ではなく人のために建てられているため、長期的な所有コストの削減に時間と労力を費やすことに力を入れています。例えば、屋上ソーラー、埋め込みエネルギーネットワーク、ガス供給の回避、共有の超高速商用インターネット接続などは、継続的なコストの削減を意味します。その他、Nightingale Housingでは、駐車場を取り除き、その代わりにカーシェアリングとしてしようできる自動車が２〜３台設置されています。住人、またそのアパートの周りに住む方々が共同で使用するサービスになっています。

画像：Nightingale Housing (フェアフィールドのアパートNightingale2)

→ お手頃価格：
Nightingale Housingではプロジェクトにあたり、社会的意義の高い投資に関心のあるファンドや慈善団体、個人投資家らに呼びかけ、資金を調達しています。リターンの上限を15%と設定して、投機目的の投資家ではなく、実際に暮らす住民たちのための集合住宅を建設しています。Nightingale Housingの住宅は市場平均より20%ほど安価な価格設定となっています。

例えば、「Teilhaus」と呼ばれる単身向けの物件がNightingale Housingの各物件のうち一定の割合を占めています。約30m2の部屋が215万オーストラリアドル（日本円で約1,800万円）からと、市場平均と比較すると40%近くも安い戦略的な価格設定となっています。

→ 購入資格：
アパートは、投資家には提供していません。住宅の20%はエッセンシャルワーカー（私たちの日常生活における、必要不可欠な仕事を担う労働者という意味です。）やアボリジニら先住民が優先的に購入できる権利を得られ、もう20%はオーストラリアの住宅供給会社に割り当て、社会的弱者（ socially vulnerable）と呼ばれる、一社会集団の成員でありながら、大多数の他者との比較において、著しく不利な、あるいは不利益な境遇に立たされる方々、また慈善活動が盛んになっている方々に賃貸物件として提供されます。そして、最後に居住目的者また、コミュニティ住宅プロバイダーに提供されています。だが購入できるのは、各プロジェクトで行われる抽選で当選した人のみとなっています。

Nightingale Housingの工夫

→ 便利なロケーション
メルボルンにあるNightingale Housingのアパートは全て、公共交通機関の近くに建てられています。最寄駅や、トラム、公園、お店、マーケットなどの近い場所に建設されています。主に、メルボルンの北エリア、ブランズウィック、プレストンなどクリエーティブな方々が好んで住んでいる地域にに多く建築されています。

画像：Nightingale Housing (The Commons ブランズウィック)

→ 予約制で使えるゲストルームやお風呂

新しいアパートや、タウンハウスの設計図にはオンスイートのベットルームをよく見かけますが、そんな複数のバスルームは１戸につきひとつに集約されています。その代わりにアパートには大きく快適に使えるお風呂が用意されています。そのお風呂は住人が予約制で使えるようになっています。

画像：Nightingale Housing (Elwood Hose by Splinter Society)

また、Nightingale Housingのアパートは最大2ベッドルームまでしか用意されていませんが、アパートの一角にゲストハウスが用意されていて、来客がある場合はそのアパートを予約して使えます。

画像：Nightingale Housing (ゲストハウスの例)

まとめ

Nightingale Housingのウェイティングリストは1.4万人を超えています。Nightingale Housingがメルボルンの住宅ベンチマークを引き上げてくれました。彼らの取り組みに注目が集まっていることで、ほかの建築会社も対応を余儀なくされています。メルボルンの郊外にはいま、カフェや屋上庭園があり、住宅エネルギー評価が7.5つ星以上の「Nightingale Housingのような」集合住宅が増えてきています。

Nightingale Housingの利益を求めないビジネスモデルは当初、投資家にまったく相手にされなかったと言いますが、彼らのビジョンに共感し、住民だけでなく出資を希望する投資家も年々増加しています。

私もこのような集合体にいつか参加できることを心から望んでいます。

［参考資料］

Nightingale Housing

人間的な暮らしを取り戻すサステナブル住宅 — ナイチンゲール・ハウジング | WORK MILL人間的な暮らしを取り戻すサステナブル住宅 — ナイチンゲール・ハウジング - WORK MILL

Nightingale Housing five years on

Nightingale Housing Wants You to Own a Great Apartment

Nightingale Housing wants you to be able to afford sustainable housing

Nightingale Housing

Nightingale Housing - Impact Investing Australia

私も、色々勉強中なので、皆さまの、ご意見・ご感想をお聞かせください。お読み頂きまして、ありがとうございました。

メルボルンを拠点にプロダクトデザイナーとして働いています。 主にデジタル・プロダクトの制作に携わっています。