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【不登園記録#3】3歳4ヶ月登園拒否。周囲への相談

子どもは恐ろしく敏感だ。だからいつも通りにできるだけ務めていたつもりだった。


◇ 100円寿司

保育園へお迎えに行く頃には気力はほぼ残っていない。夕方保育の部屋にはいつもの顔ぶれが残っていた。「あ!〇〇くんのママ〜」と毎回見つけてくれる子が私に手を振り、彼にママがきたよ。と声を掛ける。

遊んでいたおもちゃを箱に入れ、棚にしまう。リュックを背負って、ジャンプをしながら駆けてきた。とびっきりの笑顔で「会いたかったよ。」と抱きついてくる。

「今日も1日元気でした!」と夕方を担当しているパートの先生に言われ、保育園を直ぐに後にする。

ここ2週間、平日の夜は1回くらいしか自炊ができていない。今日も作る気力はない。チャイルドシートに彼を座らせる。
「ママ!お腹すいたね。僕、100円寿司に行きたいな」と突然の提案がきた。「ママも賛成!そしたら二人で食べに行っちゃおうか!」

彼は家が大好きだ。何処かに行きたいという提案が稀だからとても嬉しかった。車を走らせるハンドルが軽い。

寿司屋の駐車場に付いた。ここ最近は急に日が伸びて、19時前でもまだ明るい。視界に入った空はピンクと曇ったブルーのマーブルな夕焼け。

店内は家族連れが多かった。平日のこの時間に家族揃って御飯が食べられるのは幸せだよなぁと横目で見て、彼の手を洗いに行く。すぐ横にあるウォーターサーバーで水を入れ、テーブル席に隣同士で座る。

[コーン軍艦]、[茶碗蒸し]、[ポテト]、[たまご握り]、[マグロのささみ揚げ]を注文する。タッチパネルを操作するのが楽しい彼はニコニコしている。勝手に流れ始めるガチャガチャコイン付きのメニューは今日はだめよと言いながら、私は柚子塩穴子と海老アボカドを頼んで押してもらう。

押したと同時にベルトコンベアーで穴子が運ばれてくる。一口食べた。ゆずの香りがしない。あぁ、そうだ。ここ数日嗅覚が無くなっていたんだ。朝コーヒーの匂いを感じなくて気付いた。

柔らかい食感を確かめながら口を動かすと、また次の皿が届く。忙しい。
次々にくる皿を両手を使って机に並べていると、目から涙が溢れた。ポロポロ落としながら、さっき口に入れた穴子を飲み込む。

茶碗蒸しを冷ますために、蓋に少量を移しておく。
彼の手が私の背中にあった。優しくさすってくれている。
こんなのは初めてだ。背中をさすられて、ガヤガヤとした店内が無音に感じた。彼の手と私の背中だけの感覚になった。小さな手がとてもあたたかい。

そのうち、背中に抱きつかれた。おんぶのような格好になりながら茶碗蒸しにフーフーと息を吹きかける。

ひと通り彼が食べたら残り物を急いで口に詰め込み、おんぶでレジに行く。

◇ 上司に告げる

次の日の朝、マネージャーとの週時1on1を早めにもらった。
半期の営業数字が締まるまで、残り1ヶ月弱。案件管理をするために資料を整えた。最後に一言、家族のことで。という項目を議事録に加える。

私の上司は、数字で詰めてこない。対話を楽しみながら、いつも営業という仕事の面白さに気づかせてくれる。モチベーション管理に長けているとても尊敬するビジネスマンだ。

子育ての悩みは相談したことがなかった。登園拒否が激しくなる3ヶ月の間、仕事上はいつも通りに振る舞った。

150人以上いる組織には、ワーママが3人。そもそも8割くらいが子どもの居ない生活をしているメンバーだ。
フルフレックスの職種で、数字を達成していれば勤怠の乱れは問題ない。その働き方ができるから突発的な休みが多い子育てと、キャリアの両立ができると考えて必死に食らいついていた。

その必死さは自分では止められない。毎月のノルマがある仕事に義務感を強く持ち、子育てよりも優先度が高くなっていた。そんな思いとともに子育てとの両立に悩んでいることを打ち明けた。

「俺は子育てをしたことがないから、分からないけどさ。長いキャリア今は一度仕事を休む選択も考えてみていい気がするなぁ」と優しい声で言われた。

私は過剰に期待へ応えたくなるタイプだ。「今期の数字、絶対に達成させましょうね!」と自分の意欲を見せないと、そこに居ていいのかいつも不安になる。

そんな一面を見せ続けていた私の告白に、上司からは直ぐにストップを提示してもらえた。本当に助かった。
「あと1ヶ月、今期のキリが良いところまでは頑張ってみよう!支えるからさ。」と言われていたら「ハイ!やってやりましょう!」と絶対に言っていた。

Zoomの画面には真っ赤な目の私が写っていた。

◇ 夫と私

1日1日が綱渡りをしている気分だった。助けて。と発することすらバランスを崩すキッカケになりそうで、必死に持ち直そうと戦っていた。

夫はここ数ヶ月、残業続きだった。夜中に隣の布団で寝ていなくて、湯船で溺れたんじゃないかと心臓が鳴り、飛び起きてお風呂場に行く。まだ夫は帰っていなかった。

平日の朝から寝かしつけまでは私が担当。会話はLINEがほとんどだった。
今日も帰宅の遅い夫にご飯を出しながら、「私ちょっとだめかも」とぼそっと言ってみた。「俺もダメそう。二人で無職になっちゃうね。」と小さく返ってきた。

3人とも疲弊していた。風邪が全然治らずに一ヶ月以上みんな薬を飲んでいた。「そしたらさ〜家族で南の島にでも行こうかね」と静かにおちゃらけて、さっと離れる。

家族が私の知らないところで壊れてしまうのがとても怖かった。自分が壊れる分にはそれを把握できるからいい。

出産の時を思い出す。産む側で良かったな。と新生児を横に置きながら思っていた。いつも隣にいる人がすぐ横で拷問を受けるような痛みに悶絶している姿を、何もできずに支える自信がない。

夫の好きなところの一つは、自他境界線がはっきりしているところだ。かといって感受性は豊かで、愛情は深い。
横で誰かが辛くなっていたって乱されない。ちゃんと自分のペースでいつもの日々をこなす。

でもそのペースに、外部から無理やり侵入してしまうと簡単にバランスが崩れてしまう。かれこれ10年以上の付き合い。何度も壊した事がある。

いつも穏やかな夫、感情的になった姿は一度も見たことがない。
夫に相談をしてやって欲しいことを伝えるといつも「分かった。やる。」と短い返事をする。でも次の日には大きなヘルペスに唇を占領されて、弱々しく「おはよう。」と言うか、高熱を出して数日動けなくなる。

とても繊細な人だ。でも今の私の状態でそれをされると家族が崩壊してしまうと思い、1人で乗り越えることを決めた。

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