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松茸や天然キノコに鯛、秋の食材とともに器も秋の色合いに変ってきました

ここ数日、朝夕が本当に涼しくなってきました。秋の訪れを感じながらも、沖縄や九州では大型の台風が発生し、日本に近づくことも多くなる時期でもあります。すでに台風の影響を受けている地域の方々もいらっしゃるのではないでしょうか。どうか、今後大きな災害にならないことを願わずにはいられません。

こんにちは、乃木坂しんの店主、石田伸二です。

長月(9月)になり新しい献立では、食材や器がガラッと変わり、赤っぽい秋の色合いになってきてました。食材の切り替え時期、端境期ともいわれますが、天然のキノコや、鯛などの秋から冬の魚が出始め、さらには鱧や鰻など、先月から変わっていないものもあります。じつは食材がないわけではないのです。

とくに魚や山菜、野菜は、冬に向けて栄養を蓄えはじめ、味がしっかりしてきます。料理人として、やることは同じですが、そうやって食材の味が強くなる分、わずかな調理や味付けに気をつけないといけません。

9月に毎年出しているのが、牡丹鱧のお椀です。見た目も華やかで、みなさんもよく知っているお料理ではないでしょうか。夏のイメージが強い食材ですが、この時期の鱧は脂がのってきて、さらにおいしくなる食材です。そのおいしい鱧を、ぜひお椀で食べてもらいたい。そんな思いもあって、9月に鱧のお椀を出しています。

また、9月9日が五節句のひとつである重陽の節句でもありましたので、菊の花を散らして季節にあわせています。

ぜひ秋のはじまりを乃木坂しんの料理で味わってみてください。

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乃木坂しん 長月のおまかせコース(22,000円)を紹介します

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先付|揚げ胡麻豆腐と削りおろした栗
さつま芋、もって菊

胡麻豆腐と栗をいっしょに食べていただきたいと思い考えたお料理です。

少し甘く煮たサツマイモを胡麻豆腐といっしょに揚げてあります。その上から蒸した栗を削ってやわらかい甘味を加えました。

胡麻豆腐を揚げることでうま味が生まれますが、あくまで味わいは淡いまま。栗も身をそのままではなく、削ってあるのでほのかに甘味を感じる程度だと思います。

当初は、これに雲丹をのせたり、タレをかけたりすることも考えたのですが、胡麻豆腐と栗の淡い味わいを大切にしたいので、シンプルな仕立てにしました。

ただ、淡いだけですと味がぼんやりとしてしまうので、胡麻豆腐のわずかな塩味で全体をまとめて、料理の味を一本引き立たせるようにしています。その塩梅が難しいのですが、滋味深いひと皿になっていると思っています。

9月9日の重陽の節句に行われる菊の綿わたという風習があります。菊の花に真綿をかぶせて、翌朝の朝露で湿った綿で身を拭くと、長生きするといわれてきました。削った栗は、じつはこの菊の被せ綿を模しています。

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前菜|渡り蟹と翡翠茄子の白和え
梅酢蓮根と茶豆

渡り蟹はカニのなかでも、ほぐしたときの身質のやわらかさと肉感が特長です。翡翠のように透き通った緑色の茄子のお浸し「翡翠茄子」と、湯がいた蓮根に梅酢を合わせた梅酢蓮根をあわせて、白和えをかけ、新潟県のだだ茶豆をのせています。

渡り蟹や翡翠茄子、梅酢蓮根ともにやさしい味わいになっていますので、酸味とうま味がある白和えと、食感もある枝豆をのせてアクセントにしています

翡翠茄子は、焼いて皮を剥くことが多いですが、揚げて蒸し焼きのようにして皮を剥いています。焼くとどうしても焼けた香りが出てしまうのですが、今回の料理には、その香りが不要に感じたのと、揚げることで、茶色くならず仕上がりの緑色がきれいに出せると思ったからです。渡り蟹と白和えの白、梅酢のピンクに、翡翠茄子の透明な緑という色あいも大切にしました。

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椀物|牡丹鱧、菊花仕立て、青柚子

乃木坂しんでは、毎年6月と9月に鱧のお椀を献立に加えています。「同じ食材を2度も?」と思われるかもしれませんが、自分はまったく別の食材だと思っています。

というのも、鱧の脂ののりがまったく違い、この時期の鱧の方が、味に力強さがあると思うからです。多くのお客さまに、しっかりした鱧の味わいを感じていただけたらと思います。

9月は重陽の節句ということもあり、菊の花びらをあしらいました。菊の花びらには、ほのかに苦みがありますが、これが脂がのった鱧のお椀でアクセントになるんです。

鱧はおろしてから骨切りして、湯引きにします。鱧に粉を振ってから、まず塩を入れたお湯で表面を洗い流すイメージで最初の湯引きをします。さらに2回目の湯引きは、鰹節と昆布でとった二番出汁を使います。

2回目の湯引きを塩の入ったお湯でする場合もあると思うのですが、そうすると鱧の身に湯がどうしても残ってしまって、お椀にしたときに薄まって味がぼやけて感じてしまうんです。しっかりおいしく食べていただくためにも、2度目は、お出汁で湯引きをしています。

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造り|鯛のタタキ、塩山葵にすだちと山うに
独活けん、小芋蒸し揚げ

鯛のタタキは、乃木坂しんのオープン時からずっと作ってきているお料理です。

おろした鯛の身に塩をあてておき、藁の煙で燻します。藁の燻香をしっかりまとわせたら、藁の炎で反対の皮目を炙っていきます。燻した香りは調味料だと思っていますので、皮目だけを炙るのではなく、身もしっかりと燻していくのがポイントです。

とくに9月の鯛は、脂がのってきますよね。たたきにするならこの時期が好ましいなと思っています。

鯛のたたきには、これまで塩山葵をたっぷり塗ってお出ししていましたが、今月は2種類、鯛の背の部位には塩山椒を、腹の脂がのった部位には、福井県の伝統的な辛み調味料の山ウニを塗ってあります。

今年の夏に、髙島屋さんのお中元商品で、愛媛県の養殖真鯛を使った商品(すでに完売)を開発いたしました。そこで考案したのが、山ウニの鯛のタタキ。「定番に加えてもう1つ味を加えられませんか」という担当者さんのリクエストもあって考えたところ、これが手前味噌ながらなかなかおいしくできたので、さっそく今月の献立に採用しています。

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〆物|太刀魚の酢〆、鬼卸しみぞれ和え
(イクラ、スイゼンジノリ、三つ葉)
ふりスダチ

酢〆にした太刀魚に、おろし和えを合わせました。

乃木坂しんでは、酢〆のお魚をお出しするのはあまりないのですが、もともと自分の料理の”引き出し”にはあったものです。なかでも太刀魚は、徳島県生まれの自分にとって、じつは子どものころから馴染みのある魚だったりもします。

関東に集まるタチウオは大きいのが多く、高級魚のイメージがありますよね。そのため焼物にしたりすると思うのですが、実家では日常の魚で、今回のように酢の物にして食べていました。

おろした太刀魚に、多めに塩をあてて30分ほどおいて離水させます。酢は純米酢に1時間くらい漬けています。昆布を加えたり、砂糖を足して甘酢にしたりすることもあるとは思うのですが、魚自体の味で仕立てるのとは少し
違うかなと思うのでしていません。

その分、おろし和えに、うま味のあるイクラなども入っているので、全体で味のバランスをとっているイメージです。

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凌ぎ|鰻蒲焼
飯蒸し、蓮の実と実山椒

鰻の蒲焼の下にはほんの少し、蓮の実と実山椒あわせた飯蒸し(もち米)が隠れています。

順番は、八寸のあとにして、メインのお料理のようにお出ししてもよかったのですが、全体の構成で、この位置にインパクトのある印象的な料理があった方がいいかと思い、少量ですがお凌ぎとして入れています。

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八寸|松茸と銀杏フライ、
冷製とうもろこし豆腐と生ウニ、
ほおずき、南瓜蒸し煮、生落花生

乃木坂しんの味をいろいろ楽しんでほしい」という思いを込めて作っている八寸。今月もいろいろな食材をとり揃えました。

松茸のフライと大粒の銀杏の素揚げは、秋らしい組み合わせですよね。おそらく多くの方にとって今年初めての松茸になると思います。さまざま手をかけた松茸は、来月以降のお楽しみにして、まずはそのものの味わいと香りを感じていただきたいと思っています。

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焼物|赤ムツ炭火焼き、天然きのこ、煎り胡麻

焼物は、この時期においしい脂ののった赤ムツをシンプルに塩焼きで召し上がっていただきます。付け合わせは、シンプルに妙高高原の奈潟轍さんの天然キノコを添えてあります。

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温物|牛肉とアカヤマドリのすき焼き
小松菜、黒胡椒

神戸の「ゆさか精肉店」さんに届けていただいている和牛のクリ(ウデ肉)という部位を使ったすき焼きに仕立てています。

クリはよく動く部位なので、A5ランクにもかかわらず、脂のおいしさよりも赤身肉の味わいを楽しめる希少部位です。クリは、割り下にアカヤマドリを炊いた出汁を同量加えて火入れしています。キノコのアカヤマドリは奈潟轍さんです。

割り下は、アカヤマドリと牛肉それぞれの味を食べてもらえるようなバランスにしています。口のなかに嫌な重たさが残らない、素材を活かす味付けになっていると思います。

撮影では黒七味をかけていたのですが、黒コショウに変えました。黒コショウの方が、味わいとしてはピッタリでしたので、味を優先して採用しています。

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食事|子持ち鮎ご飯と、鮎出汁かき玉餡かけ
または、冷製そば米雑炊

①子持ち鮎ご飯(月替わり)のご飯は、料理長の石田の親戚が減農薬で栽培する「ヒノヒカリ」で。
②冷製そば米雑炊。料理長の石田の故郷・徳島県の郷土料理で、鶏でとったお出汁でいただく素朴な料理です。お食事は、以下の3つのなかから選んでいただけるようにしています。

【お食事】
①子持ち鮎ご飯と鮎出汁かき玉餡かけ(月替わり)
②冷製そば米雑炊
お食事は、上記の2つの中からお選びいただけます。1品でもいいですし、お腹に余裕があれば、少しずつ2品すべてお出しすることもできます。

毎年好評な子持ち鮎のご飯が今年も登場します。乃木坂しんでは、今年から旬の食材を使った玉子とじを用意していましたので、久しぶりの炊き込みご飯になります。

とはいえ、一度決めたことは都合よく変えないようにしようということで、例年でしたら、2杯目以降に鮎の骨でとった出汁でお茶漬けにしていたところを、かき玉餡かけにして食べていただこうと思っています。

鮎の骨でとった出汁に卵を加えて、かき卵のようにして玉子餡を作りました。普段玉子とじで使っている卵よりも、風味が弱いものにして、子持ち鮎の風味を消さないように注意しています。

なお、今月は、お造りで鯛をお出ししていることもあり、滋味造りのご用意はありません。

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菓子|巨峰の水蕨、
黒無花果とチーズスタンドのアイス最中

小さな小瓶に入れた水蕨は、今月は巨峰です。蓋付きですので、お持ち帰りしていただくことも可能です。

最中は、焼き無花果と、東京・渋谷のフレッシュチーズ専門店「CHEESE STAND」のリコッタと、リコッタサラータのアイスを挟んで食べていただきます。全体のコク出しで、最中生地にバターを塗ってあります。

リコッタサラータは、リコッタを乾燥して塩漬けにしたセミハードタイプのチーズで、程よい塩味がアイスクリームにぴったりです。

CHEESE STANDの藤川真至さんが、食べにきてくださったこともあり、CHEESE STANDさんのチーズを使いたいと思っていました。自分もチーズが大好きということで、日本料理店ですが、国産チーズであればお客様も違和感ないと思い、今回初めて使わせていただきます。

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今月も、魅力的な様々な食材を取り揃えながら、みなさまのご来店を心よりお待ち申し上げております。

乃木坂しん」店主 石田伸二

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乃木坂しん
東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1F
☎︎03-6721-0086
【2021年11月1日よりコース料理の金額が変更になりました】
ランチ(水〜土) 12:00〜15:00(13:00LO、*前日までの予約制)
  おまかせ 10,000円、18,000円、22,000円
ディナー(月〜土) 17:30〜23:00(21:30LO)
  おまかせ 18,000円、22,000円、30,000円
※消費税、サービス料10%別
※緊急事態宣言中などは、夜の営業時間を変更して営業しておりますので、店舗までお問い合わせください。

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構成・文・撮影=江六前一郎

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