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一生勉強し続ける食材の鮎や鱧に、今年も向き合いはじめる
関東地方は梅雨入りし、ジメジメとした日々が続いています。湿度が高くなったと思ったら、急に冷え込んだりと体調管理が難しい時期です。スッキリしない毎日で気分もすぐれない日もあるかもしれませんが、あまり無理をしないように、体調に気を付けてお過ごしくださいませ。
こんにちは、東京・乃木坂にある日本料理店「乃木坂しん」の店主・石田伸二です。
料理人としての心構えを正してもらえる食材
僕自身も梅雨は嫌だなと思いますが、食材を見ると夏を迎える準備が始まったように感じます。食材も鱧や鮎が6月から始まるなど、水無月(6月)の献立は、先月に比べてガラリと夏の食材に変ってきてます。
鮎は8月の献立まで、鱧は10月ぐらいまでの献立に使いますので、思い入れも強い食材の一つです。とくに使い始める6月は、毎年気持ちを改め「今年もよろしくお願いします」という気持ちで向き合っています。
鱧や鮎については、新しい料理を考えるというよりも、むしろ変えずに同じことを毎年しています。僕らの仕事は日々の積み重ねです。去年よりも、鮎を上手に焼きたいとか、鱧をおいしくしたいとか、ちょっとした仕事を惜しまず続けていきたい。誰もがわかるわけではなく自分だけにしかわからない違いかもしれませんが、深めていきたいと思いますし、自分の技術の定点観察であったり、料理人としての心構えを正してもらえる食材でもあります。ですので、毎年6月に再び向き合えるのを楽しみにしています。
鮎や鱧のように毎年同じように料理をする食材がある一方で、アズキハタやカジキマグロといった、乃木坂しんではこれまで扱ったことのない魚も使い始めています。
乃木坂しんの季節の定番料理と新しい料理、どちらもお客様に楽しんでいただけるように、しっかりと準備をしてご来店お待ちしております。
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水無月(6月)のおまかせコース(22,000円)を紹介します。
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先附|蛸ちり、トマトゼリー、
新生姜甘酢漬け、たたき木ノ芽
おいしく蛸を食べていただきたいと思い考えたお料理です。蛸をやわらかく食べようとすると、時間をじっくりかけて炊いたり、圧力鍋で炊いたりする必要があります。しかし今回は、表面に包丁目を入れてから火入れすることで、やわらかく感じたり、味の感じ方が変わります。「切る調味」を包丁でするのが、日本料理の特徴です。
先月から、愛知県の知多半島の先端に浮かぶ日間賀島の蛸を使っています。さっと出汁でゆでた蛸に、茨城県のNKKアグリドリームさんのスーパーフルーツトマトから作ったトマトのゼリーをかけてあります。
蛸は、ヌメリをとってから皮と吸盤を取り除いてから、じゃばらに包丁目を入れてから、やさしくゆであげます。蛸は一気に火を入れると硬くなってしまうので、沸いてから弱火にして水面が落ちついてきた頃に入れるのがポイントです。
包丁目を入れているので、火が入ると表面が開いてきます。湯から揚げたら氷水に落として、しっかり水分をとるようにしています。
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前菜|鮑の炙り、長芋素揚げ、
肝ダレ、刻み茗荷
鮑を二番出汁で蒸し煮にしてから、それを切り出して表面を炙って盛り付けてあります。長芋の素揚げと刻んだ茗荷、鮑の肝で作ったタレ、シャリ(飯)を盛り合わせてあります。
鮑と長芋を肝ダレにたっぷりつけて食べるのがおすすめです。それでも肝ダレは残ると思いますので、シャリに絡めて余さず食べていただくとよいと思います。
鮑を食べていただきたい料理ですので、鮑の味わいと食感を活かすことを考えました。鮑は、生で焼いてもおいしいのですが、個体差があったりして、食感にバラツキがでてしまいます。そこで鮑を蒸し煮にしてから切り出して炙ったほうが、食感が均一になり、おいしく食べられると思っています。
アワビの肝ダレは、酒と醤油、味醂で味付けをしています。65℃から70℃位でゆっくりと加熱していくのがポイントです。強く火を入れると、肝がボソボソになって口当たりがわるくなってしまうからです。ぜひお召し上がりいただく際には、肝の香りとうま味を残しながらなめらかな食感に仕上げた肝ダレにも注目していただきたいです。
鮑に合わせた長芋は、岩手県の大久保農園さんの長芋です。やわらかいアワビと口当たりの良い肝ダレがある中で、食感のアクセントが欲しいと思いホコホコとした食感の長芋が思い浮かびました。切り出した長芋に葛粉をうって素揚げにしたものを添えています。揚げた長芋の食感や香り、油脂分が、肝ダレや蒸し煮にして炙った鮑の組み合わせに加わることで、ひと皿としてほどよいボリュームを生んでいると思います。
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椀物|鱧、蓴菜
水無月の献立の椀物は、毎年鱧をお出ししています。シーズンの始まりは、見た目も大きくて迫力がある、鱧らしい料理で始めたいと思っているためです。
お出汁は昆布と鰹節でとった一番出汁、蒸し器で蒸した蓴菜(じゅんさい)、試作段階の写真には青柚子がのせてありますが、柚子のわずかに残る苦味やエグみが邪魔に感じてしまいのせるのをやめました。
鱧碗で使う鱧は、700gから800gの大ぶりな鱧を用意しています。基本的に骨抜きではなく骨切りにしています。YouTubeでも解説しているこのおろし方は、修業時代に同僚たちと何度も試行錯誤して編み出したおろし方でして、フランス料理などのシェフの方々から鱧のおろし方を教えてくださいといわれると、必ずその骨を外すことをお伝えしています。
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造り|マコガレイ、アオリイカ、
イタドリの天ぷら、塩天だし
塩で締めたマコガレイに、包丁目を入れたアオリイカのお造り、少しヌルっとした独特な食感が生まれるイタドリの天ぷらにケシの実、オキオリーブを和えてお造りの上に盛り付け、その上から塩天だしをたっぷりかけて食べていただきます。
マコガレイは、塩で締めてありますのでしっかりとしたうま味が感じられると思います。アオリイカは、包丁目を深く入れることで甘味を感じやすく、ひと口目からおいしさを感じられるようにしています。最初の蛸ちりと同じように「切る調味」です。
ちなみに、試作の写真から少し盛り付けを変えています。2種類のお造りをイタドリの天ぷらと塩天だしで食べていただくという構成は変わっていませんが、写真よりも平たく盛り付けて、天ぷらと塩天だしと合わせて食べていただきやすくなっています。
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漬け|カジキマグロ燻製醤油漬け、
地辛子、山菜のお浸し
数日熟成させて少しネットリとした食感になったカジキマグロをサクのままで軽く漬けにしてから切り出して、福井県の地辛子と山菜のお浸しと一緒に盛り付けてあります。
カジキマグロにほんのりと燻製のような香りがするのは、藁で燻した醤油で作った漬けダレの香りです。濃口醤油に藁の香りをつけてから同量の二番出汁で割って作っています。試作当初は、切り身を漬けにしていましたが、味が強くなりすぎてしまったので、サクのままで漬けにするようにしています。地辛子や山菜のお浸しと合わせてお召し上がりください。
カジキマグロは、乃木坂しんではあまり扱う機会がありませんでした。乃木坂しんも5年目を過ぎて、深めていく料理とともに新しい挑戦もしていきたい。そんな話を支配人の飛田としていたなかででてきたのがカジキマグロでした。
乃木坂しんではあまり熟成させた魚を使いませんが、カジキマグロは数日寝かせて、ややネットリとした食感を狙うようにしたり、漬けダレを工夫したりと、試行錯誤をしながら新しい料理を作っています。
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焼き|鮎の塩焼き
長野県から愛知県、静岡県を流れる天竜川のなかでも長野県で獲れた鮎の塩焼きです。頭と腹、尻尾を3口に分けて召し上がってみてください。同じ鮎ですが、一口ひと口の印象が違うことに気付いていただけると思います。
というのも、鮎を串打ちし焼き台で焼き始めるときに、頭の方を下げ、しっぽを上げて斜めにして焼き始めます。こうすると熱を加えてできた脂が、頭の方に溜まっていくことになります。ですので、頭は油の揚げ焼きのように火を入れています。
真ん中の胴の部分は、炭火を当てて塩焼きにしていますが、それと同じ火力で尻尾を焼くと焦げてしまうので、炭火ではなく熱風を団扇で当てて乾かすようにして火を入れています。つまり1尾で、揚げ物、焼き物、干物と3つの調理法を施していくようなイメージで塩焼きにしています。
器は、織部の大皿です。2021年6月11日の開店5周年にあわせて開いた山口真人さんとの「器の会」のために制作したもので、昨年も鮎の塩焼きを盛り付けていました。今年もダイナミックに盛り付けています。
鮎の塩焼きは、炭の火加減や調節で決まる料理です。とくに焼き台に鮎を置く前、炭を焼き台のどこに置くかが重要で、それ以降も鮎を焼いている間の焼き台の状態を把握していることも必要です。
毎年、毎回、その状況把握をしながら「今日は良かった」「なぜか昨日と違う」といった結果とともにデータを蓄積していくようにしているので、毎回毎回真剣です。
「こういう風に鮎を焼きたい」というゴールは見えているのですが、そこに至る方法はまだきちんとした答えがでていません。そういう意味で鮎は、一生勉強し続ける食材なのだと思います。今は、80点は出せるようになってきたのなら、コンスタントに100点や120点を出せるように努力をしていきたいですし、そうした心構えはすべての料理にも通じることですので、1回1回を大事にしていきたいです。
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八寸|馬肉たたきに赤味噌ダレ、
グリーンアスパラ白和え、
白ダツのお浸しとタタキオクラ、
バチコ、鳥貝炙りにスダチと山菜キンピラ、
新丸十甘露煮
「乃木坂しんの味をいろいろ楽しんでほしい」という思いを込めて作っている八寸。今月もいろいろな食材をとり揃えました。
メインは、福島県会津若松市産の馬肉です。フタエゴという、あばら骨の周りで身と脂が一緒になっている部位を炭火で炙り、赤味噌ベースに卵と醤油などを合わせて練り上げた赤味噌ダレで食べていただきます。
会津若松では、辛い赤味噌で食べるそうですが、辛みがあると他の料理に影響を与えてしまうため、代わりに実山椒をくわえています。
北海道のジェットファームの長谷川博紀さんのグリーンアスパラガスを白和えに。バチコは、ナマコの内臓の塩辛「このわた」を干した珍味で、三味線などを弾く撥のような形をしていることからその名がついたといいます。そのまま炙っただけですが、お酒のアテにぴったりの味わいです。
トリガイの炙りは、酢橘の果汁を搾ってからお召し上がりください。丸十は、薩摩藩の家紋を意味しておりサツマイモのことを指しています。
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強肴|甘鯛と賀茂茄子揚げ浸し、
焼き万願寺唐辛子
僕自身大好きな野菜の一つであるナスがおいしい季節になりました。
葛粉をまぶして揚げた甘鯛と、素揚げにしてから味を含ませた賀茂茄子を揚げ浸しのようにしてあります。甘鯛もおいしいのですが、火が入ってトロンとしたナスもメインとしておいしく食べていただけれるようなひと皿になっていると思います。
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蒸物|アズキハタ酒蒸し淡々餡掛け、
冬瓜、小松菜
酒蒸しにしたアズキハタと、出汁で炊いた冬瓜、小松菜と盛り合わせ、アズキハタのアラでとった出汁に味付けをし、葛を加えて餡にしたものをまわしかけてあります。
とてもシンプルな料理ですが、シンプルだからこそ、魚自体に味がないと全体がぼやけてしまいます。酒蒸しにする前にアズキハタに塩をふるのですが、餡に味があるからと、塩をあいまいにふってしまわずに、うま味を引き出すイメージでしっかりと塩をふることが大事だと思っています。
アズキハタは、沖縄や小笠原諸島などの南日本のサンゴ礁域で獲れる希少な魚で、関東ではあまりみかけない魚だと思います。ハタ型の長い楕円形で側扁しているほか、表面に小豆のような斑点があることからアズキハタと呼ばれるそうです。
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食事|枝豆と空豆の玉子とじ
または、鯛の滋味造り
または、そば米雑炊
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【お食事】
①枝豆と空豆の玉子とじ(月替わり)
②炊き立て白米 鯛の胡麻ダレ
③そば米雑炊
①月替わりの玉子とじは、「枝豆と空豆の玉子とじ」です。
今月の玉子とじ、ゆでた枝豆とさやから外して皮を剥き、出汁で炊いた空豆を二番出汁の丼のベースで玉子とじにしました。焼き空豆を使うのもいいですが、炊いた方がきれいな緑色が出ますし、味もいいと思っています。
枝豆も空豆もやわらかめに炊くことで、ふんわりとした玉子とじにホクホクとした豆の食感が合うと思います。豆類のうま味と甘味が楽しめるお食事です。
なお、毎月の玉子とじと同じ考え方でご家庭でも再現しやすい親子丼の作り方をYouTubeで紹介しています。ご興味ある方はご視聴いただき、ぜひ作ってみてください。
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菓子|水ようかん、宮崎マンゴー、
阿波番茶アイス
竹筒に入っているのが水ようかんです。水ようかんには僕の故郷の発酵茶・阿波番茶の香りが合うと思っています。阿波番茶とヨーグルトで作ったアイスクリームを一緒にお召し上がりいただけるようにしています。
宮崎のおいしいマンゴーも合わせてお召し上がりください。
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今月も、魅力的な様々な食材を取り揃えながら、みなさまのご来店を心よりお待ち申し上げております。
「乃木坂しん」店主 石田伸二
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乃木坂しん
東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1F
☎︎03-6721-0086
【2021年11月1日よりコース料理の金額が変更になりました】
ランチ(水〜土) 12:00〜15:00(13:00LO、*前日までの予約制)
おまかせ 10,000円、18,000円、22,000円
ディナー(月〜土) 17:30〜23:00(21:30LO)
おまかせ 18,000円、22,000円、30,000円
※消費税、サービス料10%別
※緊急事態宣言中などは、夜の営業時間を変更して営業しておりますので、店舗までお問い合わせください。
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構成・文・撮影=江六前一郎
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