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つかの間の幻影

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志稲です。結社誌等への既発表作品をまとめています。
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#短歌

未来2018年7月号掲載6首

未来2018年7月号掲載6首

変はりばえせぬも四月は新しき靴の硬さを支へに歩む

六点の触れて解るといふ光「メ」の目に似たる総凸を撫づ

司書資格三十円の上乗せを積みて美しき歌集を買はむ

寄り添ひたし酢飯を抱ける寿司種の寂に耐へつつ生身のままに

花すべて風に与へてここからが本番だらう樹木のいのち

バスが来る行き先示す真つ白な文字はつきりと近づいてくる

「未来」に投稿した最後の歌です。国会図書館に納本されているものを閲覧

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自選約30首+α

自選約30首+α

2014年2月14日の大雪の日、ふと、みそひともじをブログの雪景色の写真に添えたのがきっかけで短歌を作るようになりました。

懐かしいのから最近のものまで、あまり深く考えずに選びました。お読みいただければ幸いです。初出と()内は作歌時期です。

高いのとすごく安いのしかなくていつもアイスが駄目なコンビニ(しぃな)
 うたう☆クラブ賞(2014.11)斉藤斎藤選

中央線に乗って窓から見ていたら吉祥

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未来2018年5月号 掲載7首

未来2018年5月号 掲載7首

だぼだぼとこんな地上に落ちてきたのに雪明り 安堵のやうな

まだ呼吸(いき)をしてゐるものの明るさに出迎へられてスーパーに入る

サワークリームオニオン味のを手に取つて戻す おほかた判つてしまつて

「あの人も図書館のひと?」少年の指さす窓が鳴る 風もなく

母親のだといふコートがしつくりと馴染んで あなたは年下の兄

この感情はおそらくは水 漏れ出だせば滴となりて底ひを穿つ

だが今は波立つのみ

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未来2018年4月号 掲載8首

未来2018年4月号 掲載8首

なぜそんな姿になつた左手にかぼそく立ちつぱなしの心

報酬につり合はぬゆゑ肩が凝る板金のやうな責任を負ひて

降りやまぬ雨を知らない者たちがやまない雨は無いなどと言ふ

忠実にならむとすれば何もかも手放したがるわが欲望は

就活のご縁てなんだ歯車に稲の一把が腰ふかく折る

志にしたごころありそれが何 胸を張らねば背筋から病む

枯れ木とは呼ばせぬ気迫 神木の欅に倣ひて凛と立つべし

地下道のポスト

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未来2016年7月号-笹の葉ラプソディ-

未来2016年7月号-笹の葉ラプソディ-

   

   笹の葉ラプソディ

はるのひのかすむ渡り廊下からひかり ではない黄色信号

既視感(デジャヴ)とは違和感でなく笹の葉の向こうに南の星座がうるむ

親のいない設定という宇宙(コスモス)に向かい合えばなお寂しいふたり

全力でエンターキーを叩くのはきみの名だけがコマンドだから

変わる気がしたんだ夜の校庭に石灰の匂いぶちまけたなら

きみの指が「禁則事項」とささやいた天の川(ミルキーウ

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未来2016年8月号掲載 -五月に-

未来2016年8月号掲載 -五月に-

   

   五月に

坂道に音が光をつれてくる今のは五月の自転車だった

葉のうらにおもてにひざしは濯がれてささる 破片が裸眼にささる

眼にうつるものの確かさ鼓膜からなだれこませているサカナクション

忌まわしいのは安っぽさDМ7くらいで泣けてしまうよ

はつなつは発熱に似て遠足にひとり居残る窓辺の翳り

やすらかに舟浮かびたり逝くときの貌もかたちも人は選べず

「なゐ」という和語を教えてく

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未来2016年10月号掲載8首

未来2016年10月号掲載8首

自転車のしきりに過ぎる水たまりに映ればなんて清らなポスト

さて曝書はじめる朝に同僚の私服はつるんと肩を見せをり

タグ読みの音呼び合つて図書館は海原となる曝書の夏に

匂ひたつ夏くさはらに目瞑ればここは真昼のオリオン直下

まぶしくて未来が見えぬと言ひし歌手の現実的な病の告白

こんな字だつたかなあと子は以上の以をいくつも書き損じの履歴書に

はみ出したスピンの先を挟みこむ 擦り切れなくていいよ

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未来2016年11月号掲載8首

未来2016年11月号掲載8首

武蔵野の雑木林は炎天に銀と硝子を削りつづける

灼熱の道を濡らしてゆく雨のにほひは街の季語となるべし

てのひらが不可算名詞になりさうなそれは賞賛なの?プラタナス

思ひ切るために大きく吸つたのにグラスの底で執着が鳴る

水色がみづのいろではないことを受け容れながら母語を紡がむ

葱の香が油の熱に放たれて話すなら今だ泣きさうなんだ

東西に街をつらぬくメトロこそ星の青さのひとつと思ふ

星の声が届

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未来2016年12月号掲載8首

未来2016年12月号掲載8首

ふたりして言葉少なに見渡せる能登の棚田の青き風波

外海のあを内海のあをを識り双の眸はみがかれてゆく

断崖の浜昼顔をおびやかすズバット一体無事確保せり

渡るとは決意のひとつ橋上の走行音に風がかぶさる

削り氷に甘酒の香のほのかなり丸みやさしき木の匙のうへ

芽が出ると信じて撒いた頃もある西瓜の種はずいぶん減つた

かなしみに諦念といふ櫂を添へ手放せばおだやかにゆふぐれ

引き金を引くしぐさにて

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未来2017年1月号掲載8首

未来2017年1月号掲載8首

雨が降りだしたのだらう返却の雑誌の抱くやはらかな冷え

仕事場の壁が薄萌葱色なこと誰にも告げず二年が過ぎぬ

渡された鍵ひとつぶん硬くなる体が下りる急な階段

水音に擬態しきれぬわがしとの流れて残る音あどけなし

モンスターボール投げ続けて薄暮 富士なき三保を友とたゆたふ

きみはさみしい歌ばかり選んでた涙の跡をぬぐふみたいに

増えすぎの秘密も傷もスマホごと水に沈めば溶けますやうに

ふくらみて

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未来2017年2月号 鎌倉吟行二〇一六秋

未来2017年2月号 鎌倉吟行二〇一六秋

   鎌倉吟行二〇一六秋

看板を杜のみどりに装ひてファミリーマート由比ヶ浜店

晩秋の雨消えなづむ径のやう文学館の信綱の手蹟は

はなびらにはなびらの影深くまで紅き薔薇は「流鏑馬」といふ

長谷寺のフランス人の団体が旗の代はりに振るこひのぼり

藤袴のひとつひとつの白ひかる土産物屋の金平糖に

相模沖にけむる伊豆大島の影あるいは巨大な〈しつぽ〉持つもの

水際までの近さを言へば青年はかつての恋の

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未来2017年3月号 あを

未来2017年3月号 あを

   あを

浅漬けを三つ頼んだ二次会にからあげ好きなあの子の不在

やきとりが串を抜かれてだれてをり誰がはじめた不作法だらう

安酒にしづめた梅はなじむとふやさしい浸みに侵されてゐる

やくそくの誤断活用やけくそにちぎりては知る夜の深さを

焼き尽くすことは浄化と覚えたりはるか東に震ふ天狼

丑三つの祈祷 トムヤムヌードルの緋色の粉にそそぐ熱湯

乾ききる風からからとわたくしの喉に枯れ葉の吹き溜

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未来2017年4月号掲載9首

未来2017年4月号掲載9首

群鳩のしづもる都立公園を囲む団地に底冷えの色

チェロバスの開放弦の響きもて暖房入りぬ始業の刻に

「ここでCDレンタルしてると聞いたの」にハイと即座に言へざりわれは

相槌を よりふさはしい否定語をさがしあぐねた結末として

鶏の絵を求むる人に畜産と児童書架より鶏かきあつむ

スクープあり。黒地白抜きゴシックのされど無音の平原にあり

「音訳者(われわれ)は誤植もそのまま読むべき」と会長の声凛と

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未来2017年5月号 さくらと呼べば

未来2017年5月号 さくらと呼べば

   さくらと呼べば

遠足の小学生が乗つてくるああまぶたとは感情の蓋

大海に笹舟はなすかのごとく貸出票をシュレッダーへと

フィボナッチ数列状の混沌の収束までを年度末とふ

B4がうまくいかないコピー機の咬んだ紙ふつつりこときれて

まず何を護るのだらう八万の蔵書すべての崩れ落ちなば

はなびらは吸ひつくやうに重なつて合はせ鏡の果ての昏さよ

一冊の絵本の表紙の湛へたるひかりよ小さき手に差し出

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