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「サヨナラstay with me」

どこまでも続くかのように思えた砂漠だったが、大きな砂丘を越えた時、向こうにオアシスが見えた。どうやら賑やかな町があるようだ。

大陸を渡る薬売り商人。堂々とした風貌の「シマダ」
若手の薬売りの「カズミ」
小柄の無口なおとうと弟子の「ユウキ」
それと、ロバとラクダを合わせたような荷役動物ロクバ
一行は町へ向かうことにした。

大きなオアシスで、大通りの市場には異国人たちが買い物を楽しんでいる。
これだけの物とヒトが集まるのなら、相当な富が生まれているだろう。

薬売りは必ず割符を首から下げている。
手のひらほどの大きさで、2つ合わせると正方形になるようなでこぼことした板。まるでパズルのピースのようだ。その中心付近には丸い水晶のような玉がはめこんである。そして、板からは棒が出ており、人が握りやすいように加工されている。

その割符を見ると、すぐに町の人が集まる。
こんなに広い市場でも、薬は手に入らないのだ。
なぜなら、王が許可した者でないと薬を精製、販売してはならないからだ。
割符は、その許可証でもあった。

忙しく販売をする3人に高貴な佇まいの女性が近づく。
シオリは3人に、屋敷へ来てほしいと言った。
ここのオアシスの支配者、エリカの屋敷である。

広大な屋敷へと通された3人。長い廊下を渡り、いくつもの部屋を通り過ぎた先の、1番奥の部屋へ。
その部屋の中央には大きなベッドがあり、その周りに数人が立っている。

呪術師「サユリ」は鳥の羽を無数につけたマントを羽織って、呪術用の祭壇の前に立ち、
科学医療師「サクラ、ハルカ」は、全身白の服で点滴や高価そうな先端医療機器の前に立っている。

この時代、医学は大きく3派に分けられていた。
呪術の力で病魔を消すというサユリ、
先端医療を駆使して延命実験を許されているサクラ、ハルカ
そしてカズミたち薬売りは、治癒のための薬の調合を許されている。だが、止められない死を無理に止めることは許されていなかった。

まるで異なる3派が集められたということは、このベッドにいる患者は相当の病いなのだろう。
カズミはそっと患者の顔を覗きこみ、目を見開いた。
シマダもベッドに近づく。
「これは、、、!」

ベッドに横たわるのは「アスカ」
意識が無いようだが、なにより恐ろしいのはその首から下がドス黒く変色しているのだ。
この病から復帰できた者はいない。数日のうちに死に至る、恐ろしい病であった。

カズミはアスカを見つめて動かない。それを心配そうにシマダが見ている。
なぜならカズミは、以前母親「マナツ」をこの病で亡くしているのだ。

それで薬売りを目指したのだ。

カズミは知っている。
今は静かに寝ているようでも、数日のうちにもがき苦しみ、苦悶の表情のまま死んでいくことを。

もうこの病で人が死ぬのを見たくない、、、
「絶対、治してやるからな」
カズミはつぶやいて薬箱から薬草など取り出して調合を始める。

しかしカズミ達の医療はあくまで治癒薬の処方であり、治らない病には処方してはならない。
無理に治そうとすると、かえって患者を苦しめたまま死なせてしまうという考えがあるためだ。

「ならぬぞ!治らぬ病いだ!効かぬ薬の処方は死ぬまで苦しめるだけだ!」調合をしようとするカズミを、シマダはいさめる。
ユウキはオロオロとしている。
「これで死なせたら、お前は死罪だぞ!」
カズミは、シマダの声には耳を貸さない。

横では呪術師サユリは何やら祭壇に激しく祈りを捧げ、
科学医療のサクラは延命のための点滴や管を体にいくつも入れようとし、ハルカは機材に投影される波形をメモしている。

床に置いた調合器の前に座り大粒の汗をかきながら、カズミは一心不乱に調合している。
「やめろといっているんだ!」
シマダがカズミの手を引っ張り上げ、激しく頬を打った。
倒れ込むカズミ、それでもシマダは打つ手をやめない。何度も何度も、、、
それでもカズミは、這いながら調合器へ向かう、、、

「いい加減にしろ、もう助からないんだ、わかるだろう!」
シマダが調合器を取ろうとするカズミの手を蹴り上げようとした時、
ユウキがシマダの足に飛びかかった!
「ヤメロ!」ユウキはそう叫びながらシマダの足にしがみつく。
「ヤメロ、ヤメロ、ヤメロ、、」普段感情を出さないユウキが、涙を流しながらしがみついている。

カズミはヨロヨロになりながら調合を続けた。

薬が完成した。

カズミは薬を紙に移し、立ち上がった。

「祈りを、やめろ!管を外せ!」

カズミが叫んだ。

何を調合したのか、、、

カズミが調合した薬とはまさか、、、、
そこにいた者はみなそう思った

サユリ、サクラ、ハルカは怯えたように動きを止めた。
カズミはゆっくりと眠っているようなアスカに近づく。
サクラはゆっくりと管を外し始める。

アスカの母エリカはその成り行きをじっと見ている。大粒の涙を流しながら、。
シオリは顔を伏せたまま上げることができない。

カズミはアスカの唇を少し開け、薬をそっと注いだ。
そして、首から割符を下ろし、アスカの左手に握らせた。カズミはその上から両手で包み込むように握り、そのままベッドの横に座り込んだ。手は握ったまま。
額を握った手に当て、
「お願い、お願い、お願い、、、、」と何度も繰り返す。
シマダの足から離れたユウキが、カズミの背中に抱きついた。

祈りをやめたサユリがおもむろにアスカの右手を包み込んだ。
管を外し終えたサクラがその手の上からさらに包み込んだ。
機械を止めたハルカはアスカの右肩にそっと触れた。

涙をぬぐいながらエリカはベッドに近づき、アスカの頭を何度も何度も撫でていた。
動けないままのシオリが顔を上げたとき、何か見つけたように「あ、、」とつぶやいた

アスカが握っている割符にはめられている玉が、激しくひかり出したのだ!
白く、激しく、そして優しく温かいようなその光はどんどん大きくなり、
そこにいる全ての者を包み込んだ。

その光の中、カズミはアスカの瞳がゆっくりと開いたのを見たような気がしていた、、、、、

町の玄関口に、カズミ達3人は立っていた。
そばではエリカとシオリが何度も何度も頭を下げている。

唇の横に絆創膏を貼り付けたカズミが、照れ臭そうに笑っている。
ユウキはカズミをじっと見つめていた。

シマダはエリカに軽く礼をして、ロクバの手綱を引き、町の外へ歩を進めた。
それにならうようにカズミも礼をし、シマダに続いた。
ユウキが振り返り、「バイバーイ」と大きく手を振る。
それを背中で感じたカズミとシマダは、目を合わせて少し微笑み、
また前を向いて歩き始めた。




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イメージ楽曲
乃木坂46「サヨナラstay with me」
2020年発表「しあわせの保護色」収録

楽曲参加メンバー
秋元真夏、生田絵梨花、遠藤さくら、
賀喜遥香、久保史緒里、齋藤飛鳥
松村沙友理、与田祐希

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