見出し画像

「欲望のリインカーネーション」

夕暮れを迎える頃、花奈は空を突くように高い塀にもたれて立っていた。
手にはヒメジョオンの花が一輪。

画像1

花奈はこの花をこよなく愛していた。
指先でその茎をつまむようにして持ち、ゆっくりと、くるくる回すのが好きだった。

「花奈さん」

花奈が声のする方へ顔をむけると、そこには同じ練習生のまあやがほっぺたを赤くしてこっちを見ていた。
手には運動会の玉入れ競技で使うようなカゴを抱えている。中にはタオルがたくさん入っていた。

「あ、練習の時間だね」
2人は高い塀に背を向け、町の真ん中の方へ歩いて行った。



木でできた、まるで城門のように大きな扉を2人は両手で押して開けた。
きしむような音がその中の部屋に響き渡る。扉の至る所に鉄製の金具が据え付けられ、大きな錠前とカンヌキもある。

「遅いよ!」陽菜(ひな)は汗ばんだ顔で花奈を見た。
申し訳なさそうな顔をした花奈の後ろからカゴを抱えたまあやがぴょんと飛び出して陽菜のほうへ近づく。
「陽菜は次の選考会、狙ってるからねー」まあやはそう言ってカゴからタオルを取り出し、陽菜に手渡す。
にこりとした陽菜は、また練習を始めた。

周りにはいく人かの少女が陽菜と同じようにダンスの練習をしている。



練習所の壁に、いくつも写真が飾られていた。その綺麗に着飾った少女たちはみな笑みをうかべている。
陽菜は練習の手を休め、その中の一枚を見ていた。

「もうすぐ一年だね。」花奈がそばにより、陽奈の肩にポンと手を置いた。


毎年、「選考会」と呼ばれるイベントが開催される。
少女たちはその日に、「選考」されるべく、毎日練習をしている。「選考」されたなら、幸せな人生が約束されると大人たちは言う。最高の名誉だと言う。
幼い頃からそう教えられた少女たちは、いつか自分が「選考」され、幸せになることを願うのであった。

去年、「選考」されたのは、陽菜が愛してやまない、麻衣という可憐な少女だった。
自分も早く「選考」され、麻衣に会いたいと願っていた。ハルジオンの花をこよなく愛していた麻衣、陽菜もいつしかハルジオンの花を愛でるようになった。

画像2


その日は朝から花火が上がり、屋台など立ち並び、お祭りのような騒ぎになっていた。

「選考会」だ。

花奈、陽菜、まあやは更衣室へと急ぐ。途中、花奈は忘れ物をしたと言って1人来た道を戻った。

途中、あるものを拾う。

見たことがない。手のひらくらいの長方形の薄い板のような物体。花奈が手に取り、その面に触れると、そこが全面光りだした。浮かび上がった文字を見て花奈は目を見開く。

「食用人肉選考会」

ガシャン!
思わずその板のようなものを落としてしまう。呼吸が荒くなる花奈。
誰かがそれに気づいたのか、近寄る足音がする。花奈は板をそのままにしてその場から走り出す。

地面に落ちた板を拾うものがいた。選考委員の真洋、ちはるである。2人は目を合わせ、まずいなという表情を浮かべてその板を操作する。トントンと軽く数回叩き、耳に当てた。

練習所にあるステージではもうすでにダンスが始まっている。大音量で音楽が流れ、ステージでは一生をかけた少女たちがダンスを披露している。

普段、練習しているステージ下には観客がひしめいている。椅子も置けないほどだ。その観客は練習所の外まで広がっており、整理がつかないほど。観客は音楽に合わせ、声援を送り、拍手をおくる。中には踊り出すものもいる。

花奈がここまで走ってきた頃には中に入れるような状態ではなかった。
花奈は叫ぶ。しかし、観客の声援や拍手、大音量の音楽などでかき消されてしまう。
泣きながら叫ぶ、しかし誰も気づかない、気にも留めない、、花奈は膝から崩れ落ちた。

「陽菜!まあや!」
助けなきゃ、助けなきゃ!

後ろにはもう選考委員の真洋とちはるが立っている。ちはるは手にした板に話しかけている。
ちはるのあとから、豚の仮面をつけた「選考会」の審査員が数人ついてきていた。

毎年、選考されるのは1人だけ。

そうだ、助けるなら、、、、


花奈は涙を拭い、すっと立ち上がり、姿勢を正して「選考会」委員と審査員に体を向けた。


欲望のリインカーネーションのクライマックスが流れる、、、、、


花奈はその場で妖艶で華麗なダンスを始める。
何かを決意したかのような、鬼気迫るダンス。
真洋はゴクリと生唾をのんだ。
ちはるは、手に持った板を落としたことに気づいていない。
審査員は瞬きもせず見ている。

花奈のダンスは続く。汗がほとばしり、宙に舞う。
ターンのたびに花びらが舞う。
その呼吸は歌のようにも聞こえ、
いつしか花奈は微笑みを浮かべながら舞っていた、、、


空を突くような高い塀の隅に、扉がひとつあった。
こんなところに扉があることなど知らなかった。
真洋ら「選考会」の面々に囲まれながら、花奈は扉を出た。真っ直ぐ、真っ直ぐ、歩かされた。

ふと振り返る

高い塀は、大きな町をぐるりと囲むようにそびえていたことを知る。
花奈は睨むようにそれを見たあと、何かを決意したかのように前に向き直り、「選考会」委員たちと歩き出した。



今年もまた、ハルジオンの花が咲き始めた。

「そういえば、花奈さん、ハルジオンよりヒメジョオンの方が好きだったね」まあやが言った。
「ヒメジョオンは夏の花だよね、、でも、見た目はほぼハルジオン。姉妹のようだね。」陽菜が応える。
塀が無くなったおかげで、花壇の花がよく育つようになっていた。そして、遠くを見ることができるようにもなった。

陽菜は少し顔を上げた。何かを見つけたようなその視線の方へまあやも顔を向けた。



もうすぐ、この花壇にもヒメジョオンの花が咲くことだろう。




画像3


イメージ楽曲
乃木坂46
「欲望のリインカーネーション」
2016年発表
「ハルジオンが咲く頃」収録


楽曲参加メンバー
川後陽菜、川村真洋、斎藤ちはる、斉藤優里、中田花奈、中元日芽香、能條愛未、樋口日奈、
和田まあや

この記事が参加している募集

こんな私に少しでも興味を持って頂き、本当にありがとうございます😊あなたにも笑顔が届きますように⭐️