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「やりたいことを実現するために戻ってきてほしい」守本憲弘南あわじ市長に聞いた「帰ってきたくなる街づくりと南あわじ市のこれから」

霞ヶ関から淡路島へ。
元・経済産業省の官僚だった守本憲弘さんが、故郷である兵庫県・南あわじ市長へと就任したのは2017年のことだ。
兵庫県南あわじ市は、淡路島の南に位置し、特産品の玉葱をはじめとした食と自然に恵まれた街だ。一方、市民の高齢化、事業の担い手不足など全国の地方都市と同じく、多くの問題を抱えている。今回は、故郷の地方創生に尽力する決断をした、南あわじ市長・守本憲弘さんに「帰ってきたくなる街づくりと南あわじ市のこれから」についてお話を伺った。

氏名:守本憲弘(もりもと かずひろ)市長
生年月日:昭和36年1月21日
学歴:
昭和59年 東京大学法学部卒業
平成3年 米国ノースウエスタン大学経営大学院卒業
職歴:
昭和59年4月 通商産業省(現 経済産業省)入省
平成18年2月~平成20年8月 経済産業省産業人材政策室長
平成23年4月~平成24年9月 資源エネルギー庁参事官(原子力損害対応室長)
平成24年10月~平成25年6月 中小企業庁経営支援部長
平成25年7月~平成28年6月 東北経済産業局長
市長任期:
平成29年2月13日~令和3年2月12日(1期目)
令和3年2月13日~令和7年2月12日(2期目)

高齢者の自立と都会でも淡路島を感じられる取り組み

-- はじめに、経済産業省を退官後、故郷の南あわじ市長へ転身したきっかけを教えてください。

僕が経済産業省の産業労働問題を担当する部署で働いている時に、「日本が超高齢社会を乗り切るためには、定年を先延ばしにするのではなく、55歳から新しい選択をするような仕組みにすべき」という本を出版しました。その後、僕も55歳になり、巡り合わせのように南あわじ市長交代の時期がやってきたので、立候補を決意しました。

守本市長の出身地・南あわじ市福良地区の港

-- 出版された内容と同様に、南あわじ市は3人に1人が65歳以上というデータがあります(参照:南あわじ市 高齢者等元気活躍推進事業 )。高齢化と人口減少の課題を解決に導いていくためには就職で地元に戻るUターン人材は必要不可欠だと感じます。

もちろんです。Uターン後に生活基盤を築ける人が増えれば人口減少はしません。そのためには要素がいくつか必要です。
まず、「仕事」、「利便性」、「子育てしやすい環境」があるのは当然。さらに、もっとも重要なのは、高齢者が自立していることです。

--「高齢者の自立」について、もう少し具体的に教えてください。

実は、南あわじ市は全国の市の中で、65歳以上の就業率が3位と非常に高いんです。つまり、自立している高齢者が多いということです。そこで、私が着任してから、「高齢者元気活躍推進事業」で、高齢者の就職活動などをサポートしてきました。ここに力を入れることで、Uターンした方や地元の若い方が、高齢者の世話をするケースが減るのではないでしょうか。高齢者と若い方の共存が、市が発展していくうえでポイントになると感じています。

守本市長の母親が一人で切り盛りしている「鳴門わかめ」販売店

-- 高齢者が自立し、若い世代と共存することが、人口減の解決へ向けた第一歩ということですね。次に、Uターン人材を増やすための取り組み内容を詳しく教えてください。

南あわじ市では、シティプロモーションに力を入れています。インパクトのある動画で、街の様子や市の取り組みなど「今の南あわじ市の魅力」をわかりやすく伝える工夫をしています。また、22年度には、南あわじ市が運営しているECサイト「南あわじマルシェ」を通して、南あわじ市出身の若者へ特産品を送り、地元を感じてもらう取り組みも行いました。23年度もこの取り組みを続ける予定です。南あわじ市と、都会でがんばる南あわじ出身者を繋ぐきっかけになればと感じています。

自分を活かす道を自分で見つける

-- 実際にUターンで淡路島に戻り、仕事や生活を続けていくために大切なことは何だと思いますか?

自分を活かす道を自分で作っていくことが大切だと思います。
都会には、自分を受け入れてくれるコンテンツやコミュニティがいくつもあり、選択できる。一方で、地方は受け入れてくれる居場所は少ないかもしれない。でも、裏を返せば「自分が受け皿を作っていけるチャンスが多くある」ということです。少しハードルは高いかもしれませんが、仕事や私生活の中で「居場所」を求めるのではなく、自ら作っていく意識が大切だと感じます。

南あわじ市福良地区の街並

-- なるほど、地方で自ら居場所を作ることができる人が増えれば、街に活気が生まれて人口増加にも繋がるということですね。

そうですね。最近では、僕の住んでいる福良地区でも、散歩しているときに子どもに会うことが少なくなってきて、とても寂しく思います。
南あわじで育った子どもたちに戻ってきてもらえるように、新卒採用にも力を入れていきたいですね。特に、島内の高校を卒業して就職を考えている方たちに情報共有やサポートをしていく必要があると思います。「島内にどんな理念の企業があるのか?」「どんな仕事内容なのか?」を、学生の皆さんに認知してもらい、選択の幅を広げてもらう重要性も感じますね。
例えば、南あわじ市で第三セクターの観光施設を運営する会社「株式会社うずのくに南あわじ」は、若い社員が主体になり、新しい取り組みをするおもしろい会社です。

「株式会社うずのくに南あわじ」の象徴「おっ玉葱」

また市の人口増加に繋げるために、Uターンはもちろん、移住する方へのサポートも行なっています。
南あわじ市は観光で来る方が多いからか、移住された方は、飲食店や観光ツアーなど自営業を始める傾向にあります。そこで、空き家改修、起業補助金などで移住者の方が新規事業を始めやすいようサポートしています。実際に補助制度を利用した移住者の方からも「助かりました」という声をいただいています。

-- まさに、「自分を活かす道を自分で作っていくサポート」ですね。すばらしい取り組みだと感じます。

ありがとうございます。

戻ってきたくなる魅力的な市へ

-- 南あわじ市はUターンをはじめ、Iターンや新卒採用にも力を入れていくということですね。そういったことを含めて「魅力ある街だ」と認知してもらうためにもっとも必要だと思うことを教えてください。

日本が戦後に復興して高度成長していった時代と比べて、地方自治体に必要とされるモノは目まぐるしく変わってきています。淡路島には多くの方が豊富な観光資源に惹かれて訪れてくれる。この観光資源を活かして発展することが必要だと感じています。そのために、まず人材を大切にしなければなりません。Uターン人材などを受け入れる側の我々が色々な工夫を施してサポートする。そして、共に魅力ある市にしていければと感じています。

-- では最後に、南あわじ市出身で将来Uターンされるかもしれない方たちへメッセージをお願いします。

若いうちに広い世界で見識を広げ、何事にもチャレンジして自信をつけることは大切です。やりたいことを見つけて、実現するためにUターンしてきてもらえたら嬉しいです。そして、この地で実現して発信していくことで、夢を形にできる土地として次世代に繋げていって欲しい。これが地方で夢を実現する先進的な形だと僕は思います。
安心して戻って来てください。私たち「南あわじ市」が可能な限りサポートします。

-- ありがとうございました。

守本憲弘市長は市長着任後、市の成人式典で「いつでも帰ってきてください。僕たちが責任を持ち、帰って来たくなる街づくりをしていきます」と新成人を前に必ず挨拶をしているそうです。

課題に背を向けず、いつかここへ帰る人たちの希望になるために。誰もが住みやすく、新しい挑戦ができる街へ。今年も南あわじ市に「出会いの春」がやって来ました。

編集:片岡由衣


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