見出し画像

おむすび通信 #5 私の-doudou-(渡部真理子)

第5回担当の渡部真理子です。
学生時代、私は信頼できる同期と一緒に演奏会を行えたらなとぼんやり思い描いていました。
Nodusの旗揚げ公演がやっと実現でき、とても嬉しかったことが昨日のことのようです。


第一回公演は大学院の修士論文を書いているころでした。
私は人が作曲をしたり絵を描いたりする際に、人の感覚機能がどのように働き、そこからどのような表現が生まれるのかを自分なりに考察し続けています。
人は五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を持っています。まれにもう一つ持っている人もあるようですが。私はそれらの内で特に視覚と触覚に大変興味をもち続けています。自身の作品としては、東山魁夷の緑色、フェルメールが好んで使用したラピスラズリなどの様々な色からくるイメージや、クラクリュール(とくに年月を経た古い絵画の表面に見られる非常に細かい特徴的なひび割れ)など、美術から発想を得た作品を多数発表してきました。

修士論文と並行して書いていた「《あるいは赤と青で...》管弦楽のための(2016/世界初演)」(藝大21 創造の杜2017「藝大現代音楽の夕べ」)ではその中でも触覚に焦点を当て、色彩の心理から五感の中で触覚と関係が深いとされている紫をイメージして創作していました。


ではNodusの第一回公演は何を書こうかと考え、アプローチの方法を変えよう!今までとは全く違ったタイプのものを書こう!と意気込みつつ書き始めましたが、無意識のうちに求めてしまったというか・・・今までの自分を脱却しようとしても私のは私になってしまうというか・・・
イメージから入る作曲というのは無限のようでいて限定されていて、私が私である限り結局はいつも同じようになってしまうのか・・・。うまく言い表せませんが、この辺りは今も模索中です。


- * - * - * -


Nodus作品のことを考えながら進まない論文への私的ストレス解消法は、姪と遊ぶことでした。

小さな姪の一日を見ていると面白いことの連続です。何か物を見つけるとただそればかり触れているときもあれば、違う何かを見つけた途端突然前のものを投げ捨てて・・・その別のものに興味を奪われてしまうなど予測不能な動きが多くとても面白い!姪にとっては毎日が新たな発見に満ち溢れているようです。

そんな時半ば遊びながら書いたのが「-doudou-Ⅲ」で、フルートで幼児の不思議なイヤイヤ期を、チェロで幼児に優しく寄り添うオモチャやお人形、孫と一緒に遊ぶおじいさんの姿を表現した曲です。


冒頭の和音やリズムの素材が挿入される別素材と相互に影響しあいながら異なる方向へ発展し、さらに新しい素材との融合離反を繰り返していきます。
何かを確認する動きや、一生懸命歩くコミカルな動きなど、飛んだり跳ねたりする幼児(フルート)に跳躍進行やトリルが多く現れ、それを追いかけ回るおじいさん(チェロ)もぐるぐる目が回りながらも寄り添います。
また、自分の思い通りにならないと地団駄を踏む幼児を見放すことなく寄り添うぬいぐるみなど、フルートとチェロは同じ動きを模倣していたり、前の動きを思い出したかのように、これまでに出てきた素材があちこちで行われます。
予測不能にくるくると舞う様子を、例えば3連符、5連符・・・とだんだん拡大したアルペジオで現したり、姪の愛くるしい姿を想像しながら作る曲はとても楽しい時間でした。


-doudou- Ⅲ(2016)   渡部 真理子

Fl:山本 葵 Vc:山根 風仁

画像1


ここで自分なりに試してみたことは、昨年それぞれ委嘱を受けた「《Choreography 〜5人のチェロ奏者のための》(2019/世界初演)」(Point de Vue vol.13)、「《まほし》(2019/世界初演)」(アンサンブル室町+人形浄瑠璃 ※1にも繋がっていて、嬉遊的性格を持ったある種の舞台作品を意識して作るきっかけにもなったと思っています。

(※1 渡部作品は59:20辺りからです)

- * - * - * -


「doudou」とはフランス語で小さな子供がいつも肌身離さず持っているオモチャやお人形のことです。
私たち誰もが経験してきたdoudouの時代。

私のdoudouは小さな茶色の犬のぬいぐるみでどこへ行くときも何をするときもいつも一緒でした。
仙台から上京して初めて一人暮らしをするときも迷わず抱えてきて、今では部屋の片隅にちょこんと座っています。
どんなときもいつも私のそばにいてくれたのはこのぬいぐるみでした。

画像2




執筆者プロフィール:

渡部 真理子

宮城県仙台市出身。仙台白百合学園中学・高等学校を経て、東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。同大学院音楽研究科修士課程作曲専攻修了。2013年「奏楽堂モーニング・コンサート」、2017年「創造の杜〜藝大現代音楽の夕べ」において、オーケストラ作品が藝大フィルハーモニア管弦楽団により初演。学内にて長谷川良夫賞、卒業時にアカンサス音楽賞、修了時に大学院アカンサス音楽賞受賞。作曲を喜久邦博、八島秀、小島佳男、北村昭、山本純ノ介、安良岡章夫の各氏に、ピアノを澁谷由起、安田里沙、手塚真人の各氏に師事。
現在、桐朋学園大学音楽学部、桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部附属子供のための音楽教室仙川教室非常勤講師。21世紀音楽の会会員。合唱伴奏や受験生指導など、後進の指導にあたる。

Facebook | https://www.facebook.com/comarimari59

- * - * - * -


次回 #6 は対談記事で、特別ゲストにお越しいただく予定です!(10/31更新予定)。
お楽しみに!






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?