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【展示レポート・インタビュー】欠けているものは美しい。教祖まりんとHAM384による写真集『Halfmoon I』

アーティスト教組まりんと写真家HAM384による写真集『Halfmoon Ⅰ』が、2024年3月11日に発売された。
教祖まりんをモデルに、HAM384が撮影したこの写真集は、無加工・無補正のフィルム写真のみを使用しており、各写真に教組まりんとHAM384による手書きの文字が添えられている。

今回は、写真集製作における二人のコメントと、写真集発売に際して3月9日・10日にデザインフェスタギャラリーEASTにて行われた「『Halfmoon Ⅰ』展示&お渡し会」のレポートをお届けする。


ひとりの女の子"まりん"としての、等身大の美しさ

名前に「教祖」を冠する教祖まりんだが、この写真集には「ひとりの女の子」としての、等身大のまりんの美しさが詰まっている。

【HAM384 コメント】
写真で簡単に嘘がつける時代になってしまったから、全部真実の写真集を作りました。
Photoshopの生成AIやエフェクトやフィルターなど、写真に写ってないものを出現させたり補正したりそんなことが簡単にできるようになってしまったから、全て無加工無補正のフィルム写真を手書きの文字と一緒に並べました。
まりんに出会ってから一年間、一緒に過ごして本当に感情が揺れ動いた瞬間だけにシャッターを切り続けました。その中から厳選した40枚ほどを写真集にしました。
写真集の写真は時系列順になっていて、ドキュメンタリーが進んでいく形になっています。

来場した「信者」ひとりひとりにメッセージを書くまりん

まりんは、HAM384との関係について「お互いがお互いの必要な部分を持っている存在」であると表現する。

写真集の各ページには、HAM384(上)とまりん(下)の手書き文が掲載されている

HAM384のまっすぐな言葉に対し、一歩引いたところから語るようなまりんの言葉が、まさに二人の関係性を物語っている。


展示の様子

写真集が時系列順である一方、展示は時系列とバラバラに並べられている。
来場した「信者」だけが対比を楽しめるのも、オフライン展示の醍醐味だ。

まりんは「見栄えを意識して並べてみたら、上段が躁状態、下段が鬱状態の写真になった」と言う。実は、精神状態の起伏を引き起こす原因の一つとして、昨年大きな出来事があった。


【教組まりんインタビュー】「自己免疫性脳炎」とたたかう

見本誌に添えられた、まりんによる二人の似顔絵

写真集『Halfmoon I』の発売日である2024年3月11日は、まりんの誕生日だ。この日を発売日に決めた理由は、単に「誕生日だから」というだけではない。
ここからは、まりんのインタビューとともに、写真集発売までの一年を振り返る。

──事の始まりは、昨年の誕生日である2023年3月11日に遡ると聞きました。

まりん 去年の3/11〜3/12、中目黒で展示をしました。その前日の夜、搬入を終えて友達と中目黒の交差点を歩いている時、突然吐血し、そのまま倒れてしまいました。お友達と周りの人がすぐに救急車を呼んでくれたそうで、誕生日になる瞬間は、救急車の中で過ごすことになりました。

──その時は検査などされたのでしょうか?

まりん もともと貧血気味で、高校生の頃から時々倒れることがあったので、特に気にせず、展示も予定通り行いました。
でも、7/20に大学の校舎で再び吐血し、倒れました。
倒れたのは、HAM384くんと通話している最中のことで、HAM384くんは私の返答がないことや、衝撃音、周りの叫び声が聞こえたことで状況に気づき、遠方から新幹線に乗って病院まで来てくれました。

──倒れることが続いて、怖かったのではないでしょうか。

まりん 倒れた時に顔を怪我して、初めて顔を縫うことになったので、ワクワク感がありました。また、HAM384くんだけでなく、私のお母さんとお友達も、病院の待合室で待っていてくれて、嬉しくて車椅子に座ってヘラヘラしていました。でも、私が笑っても、みんな下を見ていました。
今思えば、「強がり」だったのだと思います。心配かけたくないし、「まりんは強い」と思われたくて……。

展示中の書き置き

──大変な時に周りの支えがあって、本当によかったです。

まりん 治療が終わってお母さんとHAM384くんと車で帰る時、お腹が空いたのでコンビニに寄ってもらいました。お母さんとHAM384くんに、たまごのサンドウィッチと煙草を買ってもらうよう頼み、車内で一人になった時、また発作が起きて意識を失いました。
数分で起きたことだったので、お母さんは「少しでもこの子から目を離したらまずい!」と思ったそうです。

その後、救急車の中で「ごめんなさい」と泣き叫ぶ自分の声で目が覚めました。汚いところを見せたくなかったし、嘔吐恐怖症も持っているのでとても辛かったのですが、気持ち悪さに我慢できず何度も嘔吐しました。「死んでしまうのではないか」と、とても怖かったです。
この時「自己免疫性脳炎」と診断されました。

 自己免疫性脳炎は、自己免疫学的機序を介し、髄膜・脳・脊髄が障害される中枢神経疾患である。急性・亜急性に進行する意識障害、精神症状、認知機能障害、痙攣発作、運動異常症等多彩な神経症状を呈する。

出展:日本内科学会雑誌第110巻第8号

まりん 記憶にないのですが、入院か自宅療養か選ぶように言われたそうです。お母さんとHAM384くんが「入院したらまりんは寂しくて死んじゃうよ」と言ってくれたそうで、自宅療養できることになりました。
HAM384くんはその日一睡もせず、私の寝息を横で聞いていてくれました。

直後に予定されていた展示では、オンライン在廊の形をとった


欠けているものこそ美しい

展示・お渡し会にて、写真集購入者にはポストカードのプレゼントも

『Halfmoon I』というタイトルについて、名づけたHAM384は以下のように語る。

まりんと初めて会った日、月が真っ二つに割れたような半月でした。
僕はその月を見て「とても美しい」と思ったと同時に、何となく腑に落ちる感じがしました。僕が好きになる人は友達でも恋人でもどこか欠けている人で、僕はその欠けている部分を美しいと思っているからです。
欠けている部分を、他人や何か他の能力など、いろんなもので補ってる姿を見て「美しい」と感じるんです。だから満月より半月の方が好きで、美しいと感じる。それで『Halfmoon』という題名をつけました。
『I』とつけたのは、この先も続けて行けたらいいなと思ったからです。

次々に来場する「信者」に誕生日を祝われるまりん

今年の誕生日は救急車の中ではなく、暖かい仲間に囲まれて過ごすことができた。まりんは現在、自己免疫性脳炎の療養中に失われた体力を回復すべく、リハビリに励んでいる。

無事誕生日を迎えるまでの紆余曲折と、半月のような「真実の美しさ」が存分に詰まった写真集『Halfmoon I』、ぜひお手にとってみてはいかがだろうか。

【販売ページ】※受注生産は3/17締切です。お急ぎください。
教組まりん BASE:https://311marin.base.shop/items/84097890
HAM384 BASE:https://ham384.base.shop/items/84114786

写真集の最終ページにあるHAM384の手書き文


教祖まりん(きょうそまりん)
静岡県生まれ。うお座。アウトサイダー・アート(正規の美術教育訓練を受けていない者による作品)を制作している。

Instagram:@311marin
Twitter:@kyoso0311
YouTube:まりんちゃん

HAM384(ハムサハシ)
1996年生まれ、横浜市出身。ラッパーgummyboyやwho28のMVやアートワークを手掛けるクリエイティブディレクター。今回、写真家に転身後初の写真集『Halfmoon I』を発売した。

Instagram:@ham_384_
Twitter:@ham_384_
YouTube:HAM 384

【その他の写真】

展示された写真の中の1枚。写真集では、二人のコメントを読むことができる
表紙にも使われたこの写真、実は撮影時ハプニングが起きていた
マリン
来場者が自由に文章をつなげていくコーナー
来場者のいない時間に、二人が交互に書いて完成させた漫画
色鮮やか
長時間に渡るお渡し会のお供にRed Bull
二人の足元にはヒーター
まりんちゃん、HAM384さん、ありがとうございました!


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