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カジノではない。IRだ。

今月のテーマは「IR」である。

「IRってカジノ?」「統合型リゾートって何を統合しているの?」言葉は聞いたことがあるが、詳細を知らない場合も多いのではないだろうか。全4回の初回である今回は、IRについての概要をまとめた。

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結論から言うと、
・IRはカジノではない
・しかし、IRにとってカジノは重要な役割を果たしている
・統合することがIRには重要である
・今、日本にIRが必要なのは人口が減少する中で民間主体で経済を回すことができるからである
・悪影響としてギャンブル依存症が挙げられるが、対策によってギャンブル依存症の数が減っている国もある。

である。ここからはそれぞれについて詳しく掘り下げる。

■IRの概要

■IRはカジノではない

IRはカジノではない。確かに、IRというとカジノを連想するが、そもそもIR施設の中のカジノの割合は少なく、日本での規制では全体の3%未満しか建設することができない。カジノはIRの一部という認識の方が正しい。ここまでIR=カジノのイメージがついたのはメディアがIR法を報道する際にカジノ法と報道したからという理由が挙げられる。

では、IR施設とは何なのか。IRはゲーミング施設とノンゲーミング施設に分類することができる。カジノはゲーミング施設に分類され、IR全体に占める床面積が制限されている場合が多い。国際会議場やホテル、劇場、ショッピングモールはノンゲーミング施設に分類され、IR施設の大部分はこのノンゲーミング施設によって構成される。国際会議は参加者や同行者向けに観光ツアーが組まれており、国際会議に参加する訪日外国人やその家族、高齢者夫婦など幅広い年齢層の人たちが訪れるという仕組みなのである。

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・IRとカジノの関係

統合することは他にも目的がある。ゲーミング施設ににとっては複合化することによって集客が上がり、売り上げにつながる。ノンゲーミング施設にとってはゲーミング施設が稼ぐことによってその利益を再投資でき、魅力の向上につながるのである。さらにMICE施設の集客は平日中心であるのに対して、カジノの集客は休日の方が多い傾向がある。統合することで、平日休日関わらず周辺施設の需要も安定する仕組みになっているのである。

シンガポールのIR施設を例に挙げると、カジノはIR施設における床面積の割合は3%に満たないが、売上高は全体の78%となっている。なぜカジノがこんなにも売り上げを上げることができるのかというと①射幸性の高さ、②控除率の低さ、③複合施設による集客力を挙げることができる。パチンコ、競馬、競輪などはストーリー性、演出が求められるが、カジノのゲームの多くはシンプルで、ゲームを行う上での技術が介入する余地が少ないため多くの人が楽しむことができる。24時間営業していることも大きい。控除率とは「運営者取り分/賭け金」であり、宝くじが約50%、公営競技が約20~30%であるのに対して、カジノの控除率は3%となっている。控除率が低いほど参加者にとっては魅力的なゲームとなる。そして統合することが集客につながり、結果としてカジノが少ない床面積でも大きな売り上げを上げることができるのだ。

■IRの歴史

・IRの歴史

次にIRの歴史について掘り下げてみる。日本では1999年に当時の石原慎太郎東京都知事がカジノ開設に対して意欲を示したことで話題となったのが始まりである。その後2003年に5都府県による「地方自治体カジノ研究会」の発足や「ギャンブリングゲーミング学会」が発足するなど様々な動きが見られた。東日本大震災によって一時中断したものの、2016年にIR推進法が施行され、IR実施法案を閣議決定した。当面は全国で3箇所を上限にIR施設を整備することとなり、正式に候補地が決定するのは2022年ごろ、2020年代後半の開業を目指している。

・なぜIRが必要なのか

なぜ今IRなのだろうか。地域によって目的も異なるが、大きな理由としてインバウンドへの貢献と、民間主体で地域経済を安定させることにある。シンガポールを例にとってみると、実際に2009年の外国人旅行者数は968万人であったのに対して、IRを導入後、1557万に増加している。
IRは公的資金である税金を使わずに民間のお金で整備・開発・運営されるため、民間主体で地域経済の自立を目指すプロジェクトである。人口減少によって税収が減少している地域が、IRの誘致に向けて積極的なのはここに理由がある。例えば誘致に乗り出していた苫小牧(現在は撤退を表明している)を例に挙げてみると、2013年から人口は減少に転じており、さらにものづくりの出荷額も2015年から減少している。今後も工場が閉鎖したりすることによって従業員がいなくなり人口が減ることが考えられる。今IRなどの新たな手を打っておかなければ、地域経済が崩壊する可能性すらあるのだ。東京・大阪・名古屋といった大都市がIR誘致に積極的になっているのは分かるが、和歌山、長崎と言った地方の都市も誘致に名乗り出ているのは民間主体で大きく経済を動かすことができ、その地域にお金が落ちる仕組みとなっているからである。

・IR施設整備によるギャンブル依存症

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一方で反対論としてよく挙げられるのがカジノを開設することによって考えられるギャンブル依存症である。ギャンブル依存症とは簡単に言うとギャンブルにのめり込みすぎることで、金銭や人間関係に問題が出たとしてもギャンブルの歯止めが効かなくなる状態のことである。
日本は元々全国に1万店舗以上のパチンコ店があり、他の国と比較してギャンブル依存症が疑われる人の割合は高くなっている。韓国のカジノを備えたIR施設高原ランドでは、炭鉱労働者がカジノに殺到したことで、ギャンブル依存症の人が増加した。社会問題となった後にカジノ施設の営業時間短縮やテーブルの台数を減らすような対策売ったものの目立った成果を得ることができなかった。現在でも高原ランド周辺にはカジノ資金を借りるための質店、カジノで勝った人が利用する風俗店が立ち並んでいる現状がある。一方でシンガポールはカジノ開業後のギャンブル依存症を疑われる人の割合は低下している。カジノ開業前の2005年のギャンブル依存症の割合が4.1%だったのに対し、直近の2017年の調査では0.9%まで低下している。韓国は開業後ギャンブル依存症の問題に直面し対策を取ったが、シンガポールは開業前にしっかりと対策を取ったことでこの差が出ている。日本の対策はシンガポールを参考にしており、IR実施法で
①3回/1週間かつ10回/28日間の入場回数の制限
②6000円の入場料の徴収
③IR施設外での広告の配布の制限
などを義務付けている。

■IR候補地

2020年8月現在、IRの候補地として挙がっているのが東京都、横浜市、愛知県、大阪府、和歌山県、長崎県となっている。
大阪は2025年の万博×IRのセットでの誘致、人口島である夢洲(ゆめしま)を予定地として計画を進めている。
横浜は建築家山本理顕氏の提案が何かと話題になったが、山下埠頭を予定地として、計画を進めている。
長崎は住民支持率が高いことや中国・韓国とのアクセスが良いことが強みになっている。また予定地としてハウステンボスが計画されており、初期投資が少ないことも強みとなっている。
東京はお台場カジノ構想が再始動しており、IR誘致の復活の兆しを見せ始めている。
愛知は名古屋と常滑の2つが候補地として名乗りを上げている。

IR施設が取り上げられる際に決まってカジノの議論に焦点が当てられる。建築家である山本理顕氏が、カジノを常設施設として扱わない提案を行っているが、海外のIR施設の事例、ノンゲーミング施設を最大限に活用したカジノだけに頼らないIR施設の可能性やwith コロナ時代の新しいIR、IRの日本らしさなどカジノだけの議論ではなく、その他の施設も含めたIR施設全体としての影響について探っていきたい。

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参考
・「IR」はニッポンを救う! カジノ? それとも超大型リゾート?  渋谷和宏
IR〈統合型リゾート〉で日本が変わる カジノと観光都市の未来  ジェイソン・ハイランド
【政治年表】カジノ・IR推進法案 1999年~2014年の流れ
ウィキペディア「統合型リゾート」 
newspicks【3分スライド】解説:カジノが日本にやってくる
日本のカジノ有力候補地はココ!各都道府県のIR誘致状況まとめ【2020年8月最新版】
日本のカジノは、最大2.2兆円産業になる


(文責:西)

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