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詩日記

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2023年11月の記事一覧

穴

ああ、穴に堕ちたい。
誰にも気付かれずに自分でも堕ちたのかどうか分からないくらいひっそりと閑かに。
誰かに気付いてもらいたいとひっそりと秘めた想いを悟られない様に。
誰でもない自分が生きているのかそれとも生きていないのかきっちり自分で確かめる為に。
希望のない未来だから、穴底からうっすら見える朧月を希望の光として宿す。
ああ、自分で自分を穴に堕としてやりたい。

声にならない言葉

声にならない言葉

声にならない言葉の破片が湾に落ちて深く沈み

光の届かない暗闇拡がる深海で

青黒い光となって哀しく閑かに輝いている

帰りたくなくて

帰りたくなくて

帰りたくなくて、
帰りたくなくて、
何処か寄れる場所を探して、
夜の街を独り歩いた。

居酒屋やバーや喫茶店に、
独りで入る勇気も元気も無くて、
コンビニの横の道路にある石畳に腰掛けた。

少ししてから、
クロスバイクに乗った大学生と思しき二人組が、
すぐ横に居座って大きな声で話し始めた。

居場所が居場所で無くなった瞬間に立ち上がり、
また歩き始めた。

成る可く小さく、
成る可くゆっくり、

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錆び付いた嘘

錆び付いた嘘

鉄が酸化して錆びて赤黒く変色するみたいに、嘘が心の片隅に錆び付き時間と共に朽ちていく。嘘は朽ち果てることなくそのまま黒い塊となって消えず残り続ける。真っ新なキャンバスの端に黒い絵の具が小さくはっきり滲むみたいに、透き通った夏の海の水面に光の届かない深海へ続く道が浮かぶみたいに、澄んだ晩秋の朝の青空に暗く閑かに澱んだ昨日の夜が残るみたいに。

石に躓いた

石に躓いた

冬の寒い朝ポケットに手を突っ込んで
駅に向かって歩いていると石に躓いて転んだ。

誰がどう見ても転んだ、
自分で自分のことを見ても転んだのは確かで、
それでも何も無かったかの様に
すぐさま立ち上がり擦りむいた掌をポケットに
突っ込んではまた歩き始めた。

近くを歩いていた人は皆見て見ぬふりをしていたが、
恐らくマフラーやマスクに顔を隠して笑っていただろう。

声も上げず、倒れ込まず、怪我をも気にせ

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明日は休み

明日は休み

「明日は仕事が休み」

それだけで人は樹を登れる

それだけで人は空を飛べる

それだけで人は海を潜れる

それだけで人は暗闇を走れる

それだけで人は砂漠を歩ける

それだけで人は星屑を拾える

いつもと違う彼等がいつも通りの彼等になり変わる

休み行きの銀河鉄道が明日休みの人間を乗せて発車する

頑張り過ぎて倒れるまで

頑張り過ぎて倒れるまで

頑張って頑張り過ぎて倒れちゃって

少し頑張りながら休んで

とことん頑張って頑張り切ってまた倒れて

また少し休み休み頑張って

頑張れば頑張る程頑張っていつの間にか倒れて

頑張って倒れて少し休んでを繰り返して繰り返す

頑張る自分と休む自分が

時に殴り合い

時に語り合い

時にすれ違い

時に肩を組み

頑張ったり休んだりする

今は頑張りたいから頑張る

いつか頑張りたくなくなるまで頑

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後姿

後姿

両手に買い物袋を抱えた母と

公園で走り回って息を切らした子が

公園の駐輪場で待ち合わせ落ち会う

一言二言会話を交わして帰路に向かう

子が母に何かを見せて母が笑う

母が子に買い物袋を渡して子が持つ

また一言二言交わして帰路を進む

二人の後姿が見えなくなった所で

反対方向で紅く燃える晩秋の夕陽の方へ自転車を漕ぐ

刹那

刹那

柿や栗
銀杏や団栗
米や芋
赤葉や黄葉
温もりや閑けさ
爛漫や豊穣
愉快や刹那

秋が落としたものをひとつひとつ拾う
拾いきれず抱えきれず幾らか落とす
遥か先を行くそれでも薄ら視える秋を追い掛ける

街を過ぎ
山を登り
谷を折り
湖を廻り
河を渡り
街を歩く

秋が曲がり角を曲がるのが見えて
見失わないように走ってゆく

曲がり角を曲がると北風が一瞬強く吹き
腕で顔を覆う
顔を上げて見てみると秋の

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ごみを纏めるついでに

ごみを纏めるついでに

窓をほんの少しだけ開けて澄んだ空気を吸い込もう

洗濯機を回そう

薬缶に水を一杯入れてお湯を沸かそう

お湯が沸くのを待つ間ごみを袋に纏めよう

ついでに洗面台に洗剤を少しかけて磨こう

ついでに歯磨き置き歯を磨くように磨こう

ついでにお風呂の排水口の水切りネットを替えよう

ついでに台所の排水口のネットを替えよう

ついでにシンクを磨こう

ついでにお湯が沸いたらお湯をシンクにドバッと掛けよ

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砂時計

砂時計

砂が全部下に落ちる迄に君は帰ってくるだろうか

と二回三回四回とひっくり返しては又ひっくり返す

砂が落ちるのをよく観ていると

すっかり重くなった瞼は瞳を閉じてゆき

遂に君が帰ってくる前に眠りに就いてしまった

夢の中で砂の落ちる音が未だ遠くから聞こえている

今日一日が終われば

今日一日が終われば

今日一日晴れたのか雨が降ったのか

今日何を話して何を聞いたのか

今日何時に何をどうやったのか

何も分からない何も覚えていない

長針があと一周すれば今日が終わる

今日一日が良かったのかそうでなかったか

今日一日が幸せだったのかそうでなかったのか

今日一日が何を為したのか何もなしていないのか

それらは最早どうでもいい

兎に角今日一日を終わらせることが最も重要である

今日一日が終われ

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バタートースト

バタートースト

一年前と同じような日も
昨日と全く違う日も

ピンチが度重なった日も
ほとんど何も無かったような日も

何かができるようになった日も
何かができなくなった日も

色々な毎日がある
地球が廻り続けるように世界は変わり続ける

小さなこの手で世界の変化は止められないから
昨日部屋干しの臭いが溜まった部屋で
台所のお湯が沸く音を聞きながら
トーストを食す
昨日より少し多めのバターを乗せて

泳いでゆけ

泳いでゆけ

青い空を翔べない

白い浜を歩けない

羽も足もない魚は

灰色の海を泳ぐ

暗く

冷たく

静かな

海を独り泳げ

波に飲まれたり

光を見失ったり

敵に襲われたり

しながら海を独り泳いでゆけ