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延藤 直也
2023年11月30日 06:52
ああ、穴に堕ちたい。誰にも気付かれずに自分でも堕ちたのかどうか分からないくらいひっそりと閑かに。誰かに気付いてもらいたいとひっそりと秘めた想いを悟られない様に。誰でもない自分が生きているのかそれとも生きていないのかきっちり自分で確かめる為に。希望のない未来だから、穴底からうっすら見える朧月を希望の光として宿す。ああ、自分で自分を穴に堕としてやりたい。
2023年11月29日 09:11
声にならない言葉の破片が湾に落ちて深く沈み光の届かない暗闇拡がる深海で青黒い光となって哀しく閑かに輝いている
2023年11月28日 09:04
帰りたくなくて、帰りたくなくて、何処か寄れる場所を探して、夜の街を独り歩いた。居酒屋やバーや喫茶店に、独りで入る勇気も元気も無くて、コンビニの横の道路にある石畳に腰掛けた。少ししてから、クロスバイクに乗った大学生と思しき二人組が、すぐ横に居座って大きな声で話し始めた。居場所が居場所で無くなった瞬間に立ち上がり、また歩き始めた。成る可く小さく、成る可くゆっくり、成
2023年11月27日 00:40
鉄が酸化して錆びて赤黒く変色するみたいに、嘘が心の片隅に錆び付き時間と共に朽ちていく。嘘は朽ち果てることなくそのまま黒い塊となって消えず残り続ける。真っ新なキャンバスの端に黒い絵の具が小さくはっきり滲むみたいに、透き通った夏の海の水面に光の届かない深海へ続く道が浮かぶみたいに、澄んだ晩秋の朝の青空に暗く閑かに澱んだ昨日の夜が残るみたいに。
2023年11月26日 08:27
冬の寒い朝ポケットに手を突っ込んで駅に向かって歩いていると石に躓いて転んだ。誰がどう見ても転んだ、自分で自分のことを見ても転んだのは確かで、それでも何も無かったかの様にすぐさま立ち上がり擦りむいた掌をポケットに突っ込んではまた歩き始めた。近くを歩いていた人は皆見て見ぬふりをしていたが、恐らくマフラーやマスクに顔を隠して笑っていただろう。声も上げず、倒れ込まず、怪我をも気にせ
2023年11月25日 07:29
「明日は仕事が休み」それだけで人は樹を登れるそれだけで人は空を飛べるそれだけで人は海を潜れるそれだけで人は暗闇を走れるそれだけで人は砂漠を歩けるそれだけで人は星屑を拾えるいつもと違う彼等がいつも通りの彼等になり変わる休み行きの銀河鉄道が明日休みの人間を乗せて発車する
2023年11月24日 07:48
頑張って頑張り過ぎて倒れちゃって少し頑張りながら休んでとことん頑張って頑張り切ってまた倒れてまた少し休み休み頑張って頑張れば頑張る程頑張っていつの間にか倒れて頑張って倒れて少し休んでを繰り返して繰り返す頑張る自分と休む自分が時に殴り合い時に語り合い時にすれ違い時に肩を組み頑張ったり休んだりする今は頑張りたいから頑張るいつか頑張りたくなくなるまで頑
2023年11月23日 08:12
両手に買い物袋を抱えた母と公園で走り回って息を切らした子が公園の駐輪場で待ち合わせ落ち会う一言二言会話を交わして帰路に向かう子が母に何かを見せて母が笑う母が子に買い物袋を渡して子が持つまた一言二言交わして帰路を進む二人の後姿が見えなくなった所で反対方向で紅く燃える晩秋の夕陽の方へ自転車を漕ぐ
2023年11月22日 08:33
柿や栗銀杏や団栗米や芋赤葉や黄葉温もりや閑けさ爛漫や豊穣愉快や刹那秋が落としたものをひとつひとつ拾う拾いきれず抱えきれず幾らか落とす遥か先を行くそれでも薄ら視える秋を追い掛ける街を過ぎ山を登り谷を折り湖を廻り河を渡り街を歩く秋が曲がり角を曲がるのが見えて見失わないように走ってゆく曲がり角を曲がると北風が一瞬強く吹き腕で顔を覆う顔を上げて見てみると秋の
2023年11月21日 08:23
窓をほんの少しだけ開けて澄んだ空気を吸い込もう洗濯機を回そう薬缶に水を一杯入れてお湯を沸かそうお湯が沸くのを待つ間ごみを袋に纏めようついでに洗面台に洗剤を少しかけて磨こうついでに歯磨き置き歯を磨くように磨こうついでにお風呂の排水口の水切りネットを替えようついでに台所の排水口のネットを替えようついでにシンクを磨こうついでにお湯が沸いたらお湯をシンクにドバッと掛けよ
2023年11月20日 07:59
砂が全部下に落ちる迄に君は帰ってくるだろうかと二回三回四回とひっくり返しては又ひっくり返す砂が落ちるのをよく観ているとすっかり重くなった瞼は瞳を閉じてゆき遂に君が帰ってくる前に眠りに就いてしまった夢の中で砂の落ちる音が未だ遠くから聞こえている
2023年11月19日 07:47
今日一日晴れたのか雨が降ったのか今日何を話して何を聞いたのか今日何時に何をどうやったのか何も分からない何も覚えていない長針があと一周すれば今日が終わる今日一日が良かったのかそうでなかったか今日一日が幸せだったのかそうでなかったのか今日一日が何を為したのか何もなしていないのかそれらは最早どうでもいい兎に角今日一日を終わらせることが最も重要である今日一日が終われ
2023年11月18日 08:13
一年前と同じような日も昨日と全く違う日もピンチが度重なった日もほとんど何も無かったような日も何かができるようになった日も何かができなくなった日も色々な毎日がある地球が廻り続けるように世界は変わり続ける小さなこの手で世界の変化は止められないから昨日部屋干しの臭いが溜まった部屋で台所のお湯が沸く音を聞きながらトーストを食す昨日より少し多めのバターを乗せて
2023年11月17日 08:08
青い空を翔べない白い浜を歩けない羽も足もない魚は灰色の海を泳ぐ暗く冷たく静かな海を独り泳げ波に飲まれたり光を見失ったり敵に襲われたりしながら海を独り泳いでゆけ