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石に躓いた

冬の寒い朝ポケットに手を突っ込んで
駅に向かって歩いていると石に躓いて転んだ。

誰がどう見ても転んだ、
自分で自分のことを見ても転んだのは確かで、
それでも何も無かったかの様に
すぐさま立ち上がり擦りむいた掌をポケットに
突っ込んではまた歩き始めた。

近くを歩いていた人は皆見て見ぬふりをしていたが、
恐らくマフラーやマスクに顔を隠して笑っていただろう。

声も上げず、倒れ込まず、怪我をも気にせず、
黙って転んで、黙って立ち上がり、黙って歩き始めた。
それが如何に滑稽なことか、冷静である今は分かるが、
その瞬間はそんな簡単なことも分からなくなった。

駅に近づくにつれて、
転んだ場所から歩みを進めるにつれて
恥すがしいという気持ちが芽生え湧き出して、
駅に着いた時には、恥が火照った冬の頬に着火して激しく燃えた。

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