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急性期の蛋白質投与

急性期の蛋白質投与について、代表的な3つの重症患者の栄養療法ガイドラインから紐解いていきます。

①米国を中心としたASPEN(American Society for Parenteral and Enteral Nutrition:米国静脈経腸栄養学会)の2022年のガイドライン

②西欧諸国を中心としたESPEN(European Society for Clinical Nutrition and Metabolism)の2019年のガイドライン

③日本で作成された日本版重症患者の栄養療法ガイドライン総論2016&病態別2017(J-CCNTG: Japanese Critical Care Nutrition Therapy Guidelinesです。

図2

最近では僕らの生活でも蛋白質がブームですね!

ちくわにも、パンにも、カップラーメンにも蛋白質が入っている時代になってきているようです。

蛋白質好きにはたまりませんねー。

図1

さて、急性期の重症患者さんにとってはどうでしょうか?

急性期の重症患者さんでは筋肉からの蛋白質の喪失がおこり、筋肉が萎縮していきます(1)。重症化すると1週間で13.2%–20.7%の筋萎縮をきたすと報告されています(2)。

このような筋萎縮の予防に対して蛋白質の投与が有効であることがメタアナリシスで報告されております(オッズ比 −3.44% (95% CI:−4.99 to −1.90)、p < 0.0001)(3)。


急性期の蛋白質投与は急激な蛋白質投与をせず、2,3日かけてゆっくりと蛋白投与量を増加させていく必要があります(4)。

実際にWjisらは非敗血症の重症患者においてICU入室4日目の1.2 g/kg/day以上の蛋白質投与が死亡率低下と関係していたと報告してます(5)。

それぞれのガイドラインにおける目標蛋白質投与量はASPENでは1.2-2.0 g/kg/day、ESPENでは1.3 g/kg/day、J-CCNTGでは1.2-2.0g/kg/dayが推奨されております。

図3

しかし、本邦での重症患者における蛋白質投与の疫学調査ではICU入室第3日目に0.2 g/kg/day、7日目には0.4 g/kg/day、ICU退室日には0.3 g/kg/dayと上記ガイドラインにて推奨されている蛋白質投与は行えておりません(6)。

そのため、今後の様々な取り組みが必要です。


蛋白質投与量に関して留意することは日本版の敗血症ガイドライン(SSCG-J)では急性期に1g/kg/day未満の蛋白質投与量を推奨しております(7)。

なぜ敗血症ガイドラインだけ推奨が異なるのでしょうか?

日本版の敗血症ガイドラインではメタアナリシスに含まれた6件の無作為化比較試験のメタ解析の結果、急性期の1.0 g/kg/day以上の蛋白質投与が病院滞在日数を2.36日(95% CI:-1.42 to 6.15)長くするなど望ましくない結果が得られたためです。しかし、それぞれの研究のアウトカムの一貫性に乏しく、エビデンスレベルは非常に低いとされております。また敗血症だけを対象にした無作為化比較試験がほとんどない、必要な研究がメタ解析に含まれていない、入院期間を主要アウトカムとしたが本当に正しいかなど様々な意見があり、賛否両論あります。

またその後も蛋白質投与に関する様々な研究が報告されており、急性期の蛋白質投与に関する今後のメタ解析の結果が待たれます。

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蛋白質投与に関してのもう一つの留意点は患者さんの特性を考慮して投与量を検討する必要があることです。

栄養リスクの評価が重要です。

栄養リスクがない患者さんで蛋白質投与が多いと人工呼吸期間が延長するという報告もあり注意が必要です(8)。

サルコペニアでの蛋白質投与では1.2-1.5 g/kg/dayの蛋白質を投与することで60日後、6ヶ月後の死亡率が低下すると報告されています(9)。

また重症外傷で入院している患者さんは蛋白の異化が強くICU入室5日間は0.3-0.5 g/kg/dayの追加の蛋白質投与が必要であり、治療が長期化する場合は15日間も高蛋白質投与を要することもあります。

一方では透析を要する重症患者さんでは1日10-15gのアミノ酸の喪失があり、蛋白喪失量を考慮して栄養を開始する必要があり、2.5 g/kg/dayの蛋白質が必要とする報告もあります(10)。

最後に蛋白質投与で最も重要な点はリハビリを併用することです。

蛋白質投与は十分なリハビリテーションを伴うことでさらに予後がよくなり、実際に高蛋白(1.49g/kg/day)でリハビリを強化した群で退院3ヶ月後、6ヶ月後の身体機能は改善したとされております(11)。

ESPENのガイドラインでもリハ栄養が重要であると記載されております。

図4

つまり時代は「リハ栄養」です。

栄養士さん、理学療法士さん、作業療法士さんなど多職種で協力して、最強チームで筋萎縮予防に努めていきましょう!

長くなりましたが、

急性期の蛋白質投与はとっても重要というお話しでした。

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参考文献

1. 原 加奈子, 堤 理恵, 中西 信人, 他. 重症病態における代謝変化とアミノ酸代謝の見解. 外科と代謝・栄養54:143-146,2020
2. Nakanishi N, Oto J, Tsutsumi R, et al. Upper and lower limb muscle atrophy in critically ill patients: An observational ultrasonography study. Intensive Care Med44:263-264,2018
3. Lee Z-Y, Yap CSL, Hasan MS, et al. The effect of higher versus lower protein delivery in critically ill patients: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Critical Care25:260,2021
4. van Zanten ARH, De Waele E, Wischmeyer PE. Nutrition therapy and critical illness: practical guidance for the ICU, post-ICU, and long-term convalescence phases. Crit Care23:368,2019
5. Weijs PJ, Looijaard WG, Beishuizen A, et al. Early high protein intake is associated with low mortality and energy overfeeding with high mortality in non-septic mechanically ventilated critically ill patients. Crit Care18:701,2014
6. Yatabe T, Egi M, Sakaguchi M, et al. Influence of nutritional management and rehabilitation on physical outcome in Japanese intensive care unit patients: A multicenter observational study. Ann Nutr Metab74:35-43,2019
7. Egi M, Ogura H, Yatabe T, et al. The Japanese clinical practice guidelines for management of sepsis and septic shock 2020 (J-SSCG 2020). Journal of Intensive Care9:53,2021
8. Wang CY, Fu PK, Chao WC, et al. Full versus trophic feeds in critically ill adults with high and low nutritional risk scores: A randomized controlled trial. Nutrients12,2020
9. Looijaard W, Dekker IM, Beishuizen A, et al. Early high protein intake and mortality in critically ill ICU patients with low skeletal muscle area and -density. Clin Nutr39:2192-2201,2020
10. Scheinkestel CD, Kar L, Marshall K, et al. Prospective randomized trial to assess caloric and protein needs of critically Ill, anuric, ventilated patients requiring continuous renal replacement therapy. Nutrition19:909-916,2003
11. de Azevedo JRA, Lima HCM, Frota PHDB, et al. High-protein intake and early exercise in adult intensive care patients: a prospective, randomized controlled trial to evaluate the impact on functional outcomes. BMC Anesthesiology21:283,2021


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