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侠客鬼瓦興業 84話「消えためぐみちゃん」
「めぐみちゃーん、めぐみちゃーん!」
銀二さんの超恥ずかしい仁義現場、いや野トイレ現場から離れた僕は、再びめぐみちゃんを探しながら国道沿いにある小さな薄暗いガードにたどりついた。
「あれ?こんな所に・・・」
中を覗き込んだ僕は
(なんだろう、このいやーな感じ?)
直感的にその先で、めぐみちゃんが何かの危機にさらされている、そんな気配を感じ取った。
「めぐみちゃんが!?この先にいるのか?」
それはまさしく彼女に対する愛のテレパシーだった。僕は夢中でガードをぬけ国道の反対にある静かな通りに出ると、そこでハッと目を輝かせた。
「あっ、あれは!」
遠く離れた先に停車している黄色い保育園バス、そしてその脇でうれしそうな笑顔で立っているめぐみちゃんの姿があったのだ。
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(あー!めぐみちゃん!)
僕は彼女を見つけた喜びから思わず目を潤ませた。そして声をかけようとしたその時
(はっ!でもどうやって声をかけたら・・・、あんなに傷つけて怒らせてしまった彼女に、どうやって・・・)
僕の頭にそんな迷いが・・・
その一瞬の迷いの隙に、めぐみちゃんはバスの中へと入っていってしまった。
「あっ、めぐみちゃん!!」
ブシューーー!
「あー!?」
まさに一瞬の出遅れから無情にもバスのドアは閉ざされ、彼女を乗せた園バスは静かに走り出してしまった。
「あー、待ってー!!」
夢中で叫びながらバスを追いかけた。しかしバスはスピードを上げ、やがて僕を振りきるように先の大通りへ出ていってしまった。
「めっ、めぐみちゃん待って!そのバス待ってくれー!」
僕は大声で叫びながら夢中で大通りに飛び出した。とその瞬間!
キキキキーーーーー!!
「あー、危ない!!」
「うわー!」
グシャガゴー、ガラガラガッシャーン
通りに飛び出した僕は、歩道を走るママチャリおばさんと激突、そのまま飛ばされて道路脇の街路樹の中へ
「痛たた、何よあんた危ないじゃないの急に飛び出して来て!」
おばさんが倒れた自転車の前で大声で叫んでいた。しかし僕の耳にはそんな声など入らず
「めぐみちゃん、めぐみちゃん」
街路樹の垣根の中から、ぐしゃぐしゃな顔で遠ざかるバスを見つめていた。
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「あらー、ヨッチーちゃん?そこにいるのはヨッチーちゃんじゃない、ねえ、お慶ちゃんヨッチーちゃんよ」
そんなところへ、一緒にめぐみちゃんを捜していた女衒の栄二さんが、おネエ走りで近づいてきた。
「あー栄二しゃん、お慶しゃん!」
「何やってのそんな所で、めぐみちゃんは見つかったの?」
「はい、見つかったんだけど、だけど・・・」
「だけどどうしたの?」
僕はバスが走り去った方角を指差すと
「バスに乗って行っちゃったんです」
「バス?」
「はい、黄色いバスに、あれ?」
「どうしたの、吉宗君…」
「そういえばあのバス、ひばり保育園って書いてあったような」
「ひばり保育園?」
お慶さんは不思議そうに首をかしげると
「ひばり保育園のバスだったらいつも保父の三波先生が運転して、子供達の送迎をしているんだけど」
「三波!?」
「ええ、でもおかしいわね、あそこ夜間送迎はしてないはずなのに」
「三波が・・・三波が・・・」
僕はイケメン三波の氷のような顔を思い浮かべ思わず唇をかみしめた。そんな様子を見ていた栄二さんが
「お慶ちゃん、その保父の三波って、いったいどんな殿方なのかしら」
「若くてかっこよくて、お母さんがたからも人気がある子だけど」
「アラ、若くてかっこいい?」
ニヤッと笑うと僕を見て
「若くてカッコいい男の運転するバスに嬉しそうに乗り込むなんて、めぐっぺったら、まあやるわねー」
「やるって、あ、あの栄二さん…」
「めぐっぺも所詮そのレベルの女だってことよ、いい男に誘われると、ほいほいケツふってついていく、そんな女だったのよ、ホホホホホ」
「違います、めぐみちゃんはそんな人じゃないです!」
「ヨッチーちゃんは女の本性を知らないのよ、女なんてみんなそんなもの、だから女のめぐっぺより男の私がいいっていってるんじゃない、ホホホホホホ」
「ちょっと栄ちゃんドサクサにまぎれて何言ってるの!」
お慶さんはムッとした顔で栄ちゃんの腕をこずいた。
(そっ、そんな・・・、めぐみちゃんが、ほいほいお尻をふって付いていくなんて)
「コラー吉宗君!あなたも今めぐみちゃんのこと疑ったでしょ!」
「えっ!?」
「彼女はそんな子じゃないって、分かってるでしょ」
「あっ、はい!」
お慶さんに怒られて僕はあわててうなずいた。
「あれー?そこにいるの栄ちゃん?栄ちゃんじゃん」
僕が飛び出してきた路地から、今度は野トイレを済ませたらしい銀二さんが姿をあらわした。
「あらまあ銀ちゃんじゃない、あんたこれと好いことしてたんじゃないの?これと」
栄二さんは小指をつき立てると、笑いながら銀二さんをからかった。
「そうなんだけどさ、急に追島の兄いから電話があって、あっ!」
銀二さんは栄二さんのとなりにお慶さんをいるのを見て、思わず声をあげた。
「何で、栄ちゃんとお慶さんがいっしょに?やべ、お慶さんの前で、追島兄いの名前は禁句すね」
あわてて頭を掻いた。
お慶さんはそんな銀二さんに照れくさそうに
「銀ちゃんいいのよ、もう気を使わないで」
「えっ?」
「銀ちゃん、お慶ちゃん追島ちゃんのこと許すことにしたのよ、ホホホホ」
「許す?」
「まあ話せば長くなるからさ、それで銀ちゃん、追島からどんな電話があったの?」
「あっ、実は車を捜してるって」
「車?」
「はい、黄色い鳥の絵が描いてある保育園バスを探せって、なんだかすげえあわてた様子で・・・」
「黄色いバス!?」
僕は、垣根の中から目を見開いた。
「銀二さんそのバスっていったい?」
「ああ、詳しくはわかんねーんだけど、熊井さんがぼこぼこに襲われたらしくてな、犯人のその危ねえ野郎と舎弟分が二人そのバスに乗ってるらしいから、手分けして探せってよ」
「熊井さんが襲われた?」
「あぁ、驚きだろ、あの二メートルのスキンヘッドの巨漢をボコボコに襲うぐらい、とんでもない野郎がいるなんてよ」
「くっ、熊井さんを襲った男って・・・、そんな危ない人があのバスの中に?」
「あのバス?何だ吉宗、お前見たのかそのバス」
僕は青ざめた顔でうなずくと
「その中にめぐみちゃんが、めぐみちゃんが・・・」
「めぐみちゃん!?」
「たっ大変だ・・・、めぐみちゃんがー!」
「おい吉宗、めぐみちゃんがどうしたんだよ、おい!」
「た、大変だー、めぐみちゃんが大変だー!」
僕は叫ぶと同時にあたりをキョロキョロ見渡した、そして目の前のおばさんとその横に置かれたママさん自転車に目を止めると
「それ!かじてくださいー!」
大声で叫びながらおばさんを押しのけ、となりにあった自転車にまたがった。
そして大声で
「めぐみちゃーーーーーーーーーーん!」
叫ぶと同時にママチャリをすさまじい速さでこぎながらバスが向かった方角に走り出したのだっ。
「な、なに?なんなの?」
突然の出来事にキョトンとしていたおばさんは、やがて自分の自転車を持ち去られたことに気がつくと
「あー、私のの自転車!?こらー待てどろー!」
僕に向かって叫んでいた。
そのころ、バスの中では自分の身に危険が迫っていることなどまったく知る由も無いめぐみちゃんが、真剣な顔でバスの外を見つめていた。
「あの、三波先生、吉宗君を見た所っていったい?」
「ああ、たしかさっき、このあたりを走っていたから、もう少し先にいってるんじゃないかな?大丈夫ちゃんと見つかりますよ」
「ありがとうございます」
「それより、ちょっと後ろの園児お願いできますか?」
「あっ、はい」
めぐみちゃんはうなずくと、後ろの席で静かにじっとしている黄色い子供の帽子を見た。
「三波先生、それじゃ私後ろの子のそばに行ってますから、彼のこと見つけたらよろしくお願いします」
「はいはい大丈夫ですよ、ちゃんと教えますから安心して下さい。それにしてもよっぽど好きなんですね彼のこと、ちょっ焼けちゃうな、はははは」
三波はさわやかな笑顔でめぐみちゃんを見た。
めぐみちゃんは照れくさそうに微笑むと、揺れるバスのシートづたいに後部座席へ近づいていった。そして黄色い小さな帽子の子に顔を近づけると
「少しの間だけど、お姉ちゃんでよかったら一緒に遊んでくれる?」
そう声をかけながら、ハッと顔を引きつらせた。
「ほう、姉ちゃんがワイと遊んでくれるんかいな?そらあ楽しそうやのう」
「!?」
そこに座っていたのは小さな園児ではなく、鋭い目つきで薄ら笑いを浮かべながら彼女を見ている西条竜一だった。
つづく
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