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侠客鬼瓦興業 85話「吉宗くん助けて・・・」

保育園バスの後部座席に深々と腰掛けた西条竜一は、まるで罠にかかった獲物の品定めをするかのように、めぐみちゃんの事をジーっと見据えていた。
「えっ!?」
めぐみちゃんは慌てて運転席の三波を見た。
するとそこには今までのさわやかな笑顔の三波ではなく、鋭い冷めた表情の奴の目が、バックミラー越しに光っていた。

「三波先生、ど、どういうことですか?」
「どういうこと?」
「だって、さっき子供が乗ってるって!」
「あれ?俺そんなこと言ったっけ?」
「そっ、そんなことって・・・、それじゃ騙したんですか!?」
「騙す?おいおい、人聞き悪い言い草だな」
「・・・」
めぐみちゃんはとっさに、僕がイケメン三波に飛び掛っていった時の事を思い出した。
(そ、そういえばさっき吉宗君、よくもマライアさんって、それじゃマライアさん・・・、真理絵さんが言ってた男って)
「やっぱりあなただったの、吉宗君が言ってたとおり真理絵さんにひどいことをした人って」
「真理絵?」
三波はタバコくわえながら、不思議そうな顔でめぐみちゃんを見た。

「おい?何だよ、お前も真理絵のこと知ってんのかよ?ははは、あの田舎出のホルスタイン女か、あれは最高の女だったな、すっかり俺に夢中でよーく稼いでくれたっけな」
「ひどい・・・、あなたやっぱり吉宗君の言ってた通りひどい人だったのね」
「吉宗、吉宗ってさっきからうるせえんだよ!」
「・・・」
めぐみちゃんは無言で三波を見たあと、ハッとした顔を浮かべ
「それじゃ、あなた春菜先生も、真理絵さんのように利用しようと」
「春菜か、ああ、あれも田舎出のお人よしのバカ女だからな、これからたっぷり稼いでもらうつもりだ、くっくく」
「最低・・・、あなたって最低の男」
「最低か、ははは、まあ今のうち何とでもぬかしとけ、西条さんが楽しんだ後は、お前もその最低の俺にやられる運命なんだからな」
「西条さんのあと?」
めぐみちゃんはあわてて振り返った。そこには何時の間にか、間近に立っている西条の姿があった。
「!?」
西条はいきなりめぐみちゃんの腕を握ると、力任せに彼女をその胸に引き寄せた。
「なっ、何するんですか!?」 
「何?アホやな姉ちゃん、ええことするに決まってるやろ」
不気味に笑いながら大きな顔をめぐみちゃんに近づけると、そのままめぐみちゃんをバスの後部座席へと押し倒した。 
「ちょっと、何ですか、やめて!!」
「ほう、またその困った顔がええのう、そそられるわ」
「放してよ!この変態!」
めぐみちゃんは叫ぶとどうじに、西条の鼻の頭を拳で強く殴りつけた。
「うぐあ、痛ててー!」
西条の鼻から真っ赤な血が 
「放せって言ってるでしょ!」
「うーん、かわいい顔して威勢のええ姉ちゃんやのう、ぐははははは」
西条は鼻血を流しながら、運転席の三波に向かい大声で
「おーい三波、こらあええで、我もたまにはええ女プレゼンしてくれるやないか」
笑いながらめぐみちゃんを睨みすえてきた。

イケメン三波はミラー越しに目を光らせると
「西条さん、終わったら俺にも頼みますよ」
ニヤニヤ笑いながら、ウィンカーを左につけて、大通りから狭い路地の倉庫街へと入り小さな古びた倉庫の前でバスを停止した。そして後ろの西条とめぐみちゃんを見ると
「西条さん、自分も朝からその女狙ってたんすよ、まじで終わったらやらせてくださいよ、頼みますよ」
「おう、分かったから我は早く外に出とらんかい、そのボケ面でじっと見られとったら、楽しめんやろが、アホ」
「す、すいません」
三波は未練がましく押し倒されためぐみちゃんを見ながら、バスの外へと出て行った。

「ほれほれ、これで邪魔者は消えたでー、さあたっぷり楽しもうやないか、姉ちゃん」
「ちょっと、楽しむって何よ、ふさけんじゃないわよ!」
めぐみちゃんは再び西条の下から拳を振り上げた。しかし今度は軽く交わされ、西条にその腕をわしづかみに握られてしまった。西条はめぐみちゃんのもう一方の腕も押さえつけると、その顔を彼女の顔に近づけクンクンとにおいをかぎ始め
「うん、においも格別ええわ、まだ青臭い女やが顔もええし・・・」
同時に、その大きな手のひらでめぐみちゃんの胸を鷲づかみにすると
「乳もちょうどええ、こらあ久々のヒットや、ぐあははははー」 
「やめてよ、何するのよ!」
「何ってさっき言うたやろ、ええことするって、ほれ、まずはチューからや、チューから、ははは」
「き、気持ち悪い顔近づけないでよ、放してよ!」
めぐみちゃんは必死に西条の下でもがいたが
「ええかげんに、暴れるのはやめい言うとるやろが!」
その怪力と巨体に無理やり押さえられ、やがて身動きが出来なくなってしまった。

「どうや、もうあきらめて、姉ちゃんも楽しんだほうが得やで」
「楽しむって、冗談じゃないわよ、この変態が!」
「おいおい、そう変態変態って言わんといてくれんか?これでもワイは傷つきやすい性格なんやで」
西条は静かにつぶやきながら、大きな舌でべろっとめぐみちゃんの頬を舐めてきた。
「止めてよ、お願いだから止めて!」
「アホか姉ちゃん、ここまで来て止める訳が無いやろ、どうや姉ちゃん、あんたが静かにしとったら、ワイも優しく終わらしたるんやでー、ええ加減あきらめいや、んー?」
「じょ、冗談じゃないわよ、誰があんたみたいな男に」
めぐみちゃんはそう言うと、再び西条の下でもがき始めた。  
「ええかげんにさらさんかい!!」
バシッ!
「ギャッ!!」
西条はその大きな手のひらで、めぐみちゃんの顔をおもいっきり張り飛ばし、その衝撃で彼女は後部座席から下の床に強く叩き付けられてしまった。西条は鬼のような形相でバスの床に倒れた彼女を見据えると
「我もかたぎの女ちゃうやろがー、おー!何時までも調子暮れさらすなアホたれ!テキヤの女風情が、こら!」
力任せにめぐみちゃんの髪の毛をつかんだ。しかし頭を強く打った衝撃で気を失いかけている彼女に気がつき
「ん?・・・なんや、どないしたんや?」
一瞬きょとんとした顔を浮かべていた。

そんな西条竜一の下でめぐみちゃんは、遠のく意識の中、必死に心の中で叫び声をあげつづけた。
(助けて・・・、吉宗君・・・)
(吉宗君・・・助けて!)
(助けて・・・た、す、け・・・て・・・、よし、むね・・・くん・・・)
何度も何度もそう叫びつづけながら、やがて彼女は完全に意識を失ってしまった。


(助けて、吉宗君!!・・・)
「!?」 
突然、めぐみちゃんの悲痛の叫び声が僕の頭の中で響いてきた。
「めぐみちゃん!?・・・めぐみちゃん!?・・・」
僕はママチャリを全力でこぎながら、愛のテレパシーで彼女の危険を感じ取った。
「どこだー、めぐみちゃーん!めぐみちゃーん!」
彼女を連れ去った黄色いバスには、熊井さんを襲った恐ろしく凶暴な男が乗っている、そんなことは百も承知だった。しかし愛するめぐみちゃんの危機に、僕はまったく恐れることなく必死にバスを探し続けていた。

「めぐみちゃん、絶対に僕が行くから!僕が助けに行くからー!」
(神様ー、どうか僕が行くまで、めぐみちゃんを守ってください!)
心の中で懸命に祈りながら、ひたすら大通りをママチャリで走り続けていた。 
と、その時、倉庫街へ入る小さな路地を通りすぎようとした僕の頭に、
(助けて、吉宗君!・・・)
ふたたび彼女の心の叫びが響いてきた。
僕はあわてて自転車のブレーキを握ると、あたりをきょろきょろと見渡した。

「めぐみちゃん!?この近くにいるのか?めぐみちゃん・・・はぁ、はぁ」
僕は静かに目をとじると
(めぐみちゃん、僕だよ、どこ?何処にいるんだい?)
まるでSF小説の主人公のように、彼女に向けて必死に愛のテレパシーを送り続けた。
その時だった、左方角から、かすれながら小さくなっていく彼女の心の叫びが・・・
(よ、し、む、ね・・・くん・・・、たす、け、て・・・)
(めぐみちゃん!?)
(た、すけ・・・て・・・) 
「こっちかー!?」
僕は大声で叫びながら倉庫街へと向かう小さな路地に目を向けた。

(この先に、めぐみちゃんがいる!) 
「待ってろ、めぐみー!今、助けに行くから!」
大声で叫ぶと同時にママチャリを急発進させ、鬼のような形相で路地の中へ入っていった。
その先に今までに経験したことも無い、恐怖の闘いが待ち受けていることを知っていながら・・・

つづく
最後まで読んでいただきありがとうございます。
このお話はフィクションです。物語に出てくる人物、団体は架空のものです。
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