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侠客鬼瓦興業 第35話「赤丹、水チカ、余録付き」

午後になると、お大師さんの境内はたくさんの人でにぎわいはじめた。

僕は、テキヤ稼業の三つの掟の恐怖から立ち直り、金魚すくい、この業界用語で赤タンのお客さんに追われていた。

どうやって恐怖から立ち直ったか?それは・・・

「吉宗、お前はめぐみちゃん一筋なんだろ。それだったら間違っても、バシタたとるなんて、ヘマするわけねえだろうが・・・」

銀二さんのこの一言だった。

(そうだよ、僕には愛する、めぐみちゃんがいるんじゃないか・・・)

そう思った瞬間、いつものように天使の姿のめぐみちゃんが頭の中に飛んできてくれて、単純な僕はすっかり元気を取り戻した。

「さあ、いらっしゃい、いらっしゃーい、金魚すくい一回200円、三回で500円ですよーー!」

声を張り上げる僕の前に、プロ野球の帽子をかぶった小生意気そうな小学生が、水槽の前にしゃがんで大きな金魚をねらっていた。

バシャ!!

帽子の子供は僕の目を盗んで、もっていたお椀で大きな金魚をまとめてすくった。

「あー!?君、今お椀ですくったなー!だめじゃないかインチキしたら!!」

「すくってないよー、ちゃんとこっちのポイですくったよー!」

「ポイですくったって、見てみなさいよー。君のポイはぬれてないじゃないかー!」

「早業だったんだよー!うるさいジジイだなー!」

「ジ、ジジイとはなんだー、君ー!」

「へん、ジジイだからジジイっていったんだよー、バーカ、バーカ!」

帽子の子供はそう言うと、お椀を持ったまま走り去ってしまった。

「あー!こら、待てー!お椀まで、かえせー!」

僕は大声で叫んだが、その子供は人ごみに消えさってしまった。

「まったく、なんて子供だ・・・」

僕は呆然としながら、子供が立ち去った方角をながめていた。

「ははは、お前も子供にかかったらジジイか吉宗」

隣でたこ焼きをひっくり返していた銀二さんが大笑いしていた。

「笑い事じゃないですよー、それに、銀二さんの話していた余禄なんで全然ないじゃないですか。お客さんはにっくらしい子供ばかりだし、おまけに・・・」

僕は椅子に腰掛けると、隣にあった発砲スチロールの箱のふたを開いた。

むわーーーー!!

中から異様な臭気がただよってきた。

「うぐ・・・、死んじゃった金魚はめちゃめちゃくさいし・・・」

僕は鼻をつまみながら銀二さんを見た。

「何をぶつくさ言ってんだよ、もう少しまってろって、じきに余禄がどっさりやってくるからよ・・・」

銀二さんはそう言いながら三寸にぶら下がっていた時計を見た。

「お、4時か・・・、そろそろだな」

「そろそろ?」

「余禄に預かりたかったら、しっかり声出せよ。ボーっとまってたんじゃ駄目だぞ・・・」

銀二さんは笑いなが遠くの何かを発見し、目を輝かせた。

「おし、来た来たー!」

「さー、らっしゃい、らっしゃいー!、大たこ入り、たこ焼き、焼き立てだよー、そこのお姉ちゃん、君達可愛いからおまけしちゃうよー」

見るとそこには学校帰りの派手な女子高生が数人、うれしそうに話しをしながら近づいて来ていた。

「彼女ー!ひゃー、超可愛いじゃーん・・・、思いっきりおまけするよーん」

銀二さんの軽い言葉に、女子高生のうちの一人が近づいてきた。

「お兄さーん、本当におまけしてくれるのー?」

「おー、かーわいい!君の場合メッチャ可愛いから2個おまけー」

銀二さんはそう言いながら、パックにおまけのたこ焼きを押し込むと、その女子高生に手渡した。

「あーい、400円ねー」

「えー、私買うなんて」

「焼きたて、美味しいから・・・」

銀二さんは間髪いれずにウインクすると、女子高生もノリノリで財布からお金を払ってしまったのだった。

(あいかわらず、みごとだ・・・)

僕は銀二さんの華麗な商売っぶりをながめたあと

「よし!頑張ろう!!」

そうつぶやくと、女子高生達に向かって、満面の笑顔で声をかけた。

「いらっしゃい、いらっしゃいー、彼女たちー、金魚すくい、楽しいよー」

銀二さんといっしょにいる時間が長いせいか、何時のまにか僕も、そんな軽率な商売言葉を自然と出せるように変身していた。

「わー、金魚すくいだー」

一人の女子高生がそう言うと、他の学生達もいっせいに僕のほうを見た。

「わー、このお兄さん超かっこいー!」

「きゃーほんとだー、髪型はダサいけど、超かっこいいー」

「えっ?あ、超かっこいいだなんて・・・、ははは」

僕は行け行けギャルたちに押されて、真っ赤になってしまった。

「お兄さん、100円にまけてくれたら、やっていくよーー」

茶髪の女子高生がそういいながら、僕の前にかがんできた。

「いや、100円は・・・」

僕がそういいかけたときだった。

「いいよ、いいよー、君達、俺が許す。100円でみんなやって行きなー」

「え?」

振り返ると今までたこ焼き売り場にいた銀二さんが、笑いながら勝手にポイを女子高生達に配り始めていた。

「このお兄さんやっぱり気前がいいー」

「いやーははは、可愛い子には弱いんだよー、ほい、どーも、どーも・・・」

銀二さんはすばやい手さばきで女子高生達から100円ずつ受け取って、金魚すくいのポイを手渡していた。

「あの、いいんですか?銀二さん」

僕が小声でささやくと、銀二さんは思いがけない言葉を返してきた。

「いいも何も、余禄が目の前に現れたんだぞ・・・、黙って帰すわけに行くかよ」

「えっ、余禄が?」

僕は目をまん丸にして女子高生達を見た。

「さあ、お嬢ちゃんたちー、頑張って大きいのねらってねー、ほらほら、こいつなんか一匹30000円はする金魚だからねー」

「えー、3万円、うそだー!」

「本当だって、これは、錦のキングジャイアント和金っていって、珍しい品種なんだよ、熱帯魚やさんに持っていったら10000円で買い取ってもらえるよ、さあ、がんばってー!」

銀二さんが大きめの金魚を指差しながらそう言うと、女子高生達はいっせいに目をキラキラ輝かせ

「よしそれじゃ、1万円ねらっちゃおう!」

口々にそう言いながら、水槽の前に一斉にしゃがみ、大きな金魚をねらい始めた。

僕はそんな女子高生達を横目に、銀二さんに小声で話しかけた。

「銀二さん、一万円って本当の話しですか?」

「なわけねーだろ・・・バカ、それよりしっかり前見てみ、ツンパ丸見えだぞ、ほれほれ・・・」

「えっ?」

銀二さんに促されて、僕は高級魚をねらって目を輝かせている女子高生達を見た。

「うぐぁ!?」

思わず僕は、女子高生たちのある一点を目撃し、口をあんぐり開いたまま固まってしまった。

ピンク、赤、黒・・・、見事、ご開ちょう~!!

それは彼女達のミニスカートの中から姿を現すカラフルなパンツたちの大競演だったのだった・・・。

つづく

最後まで読んでいただきありがとうございます。
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※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^

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