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出版までの737日(Day0発見〜Day1始動)|編集こぼれ話②

2024年9月、農文協から『牛乳から世界がかわる 酪農家になりたい君へ』(小林国之著)が発売されます。

牛乳が余ってもバター不足がおきるわけ、牛のゲップと地球の温暖化の関係、「土壌の世界の住人」を中心に考えるリジェネラティブ農業のこと、酪農家たちの考える「牛に優しい飼い方」とは、農家の仕事と生活をまるごとサポートする農協の役割……牛と共に暮らす「酪農」を知れば、世界がわかる。

農文協のネット書店「田舎の本屋さん」

この書籍に関わった編集チームによる「編集こぼれ話」や本書のイチオシなどを、全5回に分けてご紹介します。



はじめまして。フリーランスで編集者をしている柿本礼子と申します。2024年9月に発売の、北海道大学の小林国之先生が書かれました『牛乳から世界がかわる 〜酪農家になりたい君へ』の編集をいたしました。

「本を出しませんか?」と小林先生にお声がけして、出版まで2年。いまは長かったなあと思う気持ちと、あっという間だったなあという気持ちがない混ぜになっているというのが正直なところです。なんかありきたりな感想ですね。
私自身、いつもはレシピ本を編集することが多くて、いわゆる人文といいますか、文字だけで構成する本を編集したのは本書がほぼ初めての経験でした。そして小林先生も、論文はこれまで何本も出されていますし、専門誌へのご寄稿もなさっていましたが、いわゆる「一般書」の著者となるのは初めてでした。つまり小林先生も私も「近いことはしていたものの、厳密には初心者」という、ひよっこコンビだったわけです。危なっかしいことこの上ない。

なぜ、初心者同士が手を取り合って本作りをしたのか、徒然なるままに書いてみようかと思います。「こんな泥臭く本を作るケースもあるんだな〜」くらいに読んでくれたら嬉しいです。文章が若干暑苦しいので、箸休めにちょっと美味しそうな写真も入れておきますね。
ちなみにシュッとした感じの制作秘話※は、共同編集の市村君が書いていますので、グダグダな長文が苦手な方はそちらを読んでくださいませ。

※ライターの市村敏伸さんによる編集こぼれ話⑤は2024/9/26に公開予定です

Day0:発見

企画が立ち上がったきっかけは、私が前職で担当していたオウンドメディア(企業が自社で保有するメディアのこと)の「エシカルはおいしい‼️」でした。

2019年に開設した当時から、小林先生には「ヨーロッパのエシカル事情」という連載で寄稿をお願いしていたのです。なかなか知ることができないヨーロッパのエシカル事情の「今」が、小林先生独自の深い考察とともに書かれている原稿は、私の知見を大きく広げてくれました。

ある時、先生と直接お話しする機会があった時に気づいたんです。小林さんがとてもフレンドリーで、豊かな情緒と寛大さのある、人間味にあふれた人だということに。原稿は割と硬めでアカデミックな内容だったので、その時の先生の人間味が非常に印象的でした。

記事(原稿)に、生身の小林先生の素敵さをもっと表現できないかな、と思っていた時に、ちょうどアルバイトで同サイトを手伝ってくれていた市村敏伸君(当時は一橋大学の学生だった)が、「だったら小林先生にインタビューする形で記事を作ってみません?」と言いました。
クレバーな若者は発想が柔軟&行動が早い。ということで作ってみたのが、当時話題になっていたネオニコ(ネオニコチノイド)についての記事。

自分の中でカチッと何かがハマったような感覚がありました。その後も、何本か記事を作る中で、「小林先生をもっと世の中の多くの人に知ってほしい!」と思うようになったわけです。

ちなみに市村君は、大学卒業後、小林先生のいる北大の大学院に入学。今回の本も編集の一部を担当してくれています。

Day1:2022年8月31日 始動

2年前の盛夏。思い返せばこの日が最初の「打ち合わせ」と言うべき日かもしれません。私は胸にある思いを秘めて、田町のパニーニ屋に向かっていました。待ち合わせは、小林先生と市村君。

パニーニとワインがおいしいお店「カンパーニ」。とってもいいお店だったのですが、諸事情により2024年7月惜しまれつつ閉店。すじ青のりのパニーニが絶品でした

久しぶりのよもやま談義に花を咲かせたところで、「先生、本を出してみませんか?」と切り出しました。

実はその数ヶ月前から、市村君と私は「小林先生を世に出すプロジェクト」を水面下…いや居酒屋下で進めていたのでした。とはいえ、この当時は「エシカルはおいしい‼️」の記事を中心に本にまとめたら十分読み応えのある内容ができると思っていたのです。安直だねえ。

そうは問屋がおろさず、農文協(かんがえるタネシリーズ)の編集者に事前相談したところ、

「(かんがえるタネシリーズは)知識をかみ砕いて伝えるトップダウン型の本というよりは、探究学習型のボトムアップの本なので…」と優しく諭され、結局イチから作り上げることになったのは、私の読みが甘かったの一言に尽きます。要は、内容の難易度が高すぎる。どうしたものか。

しかし書籍制作やご執筆について、小林先生は「面白そうですね!」「やりましょう」とご快諾。パニーニを食べながら話し合ううち、こんな企画の骨子ができてきました。これは「こんな本にしたい!」という思いであり、宣言のようなもので、もちろん完成した本にも受け継がれたものなので、ここに紹介します。

ある日、高校生から小林先生の元に1通のメールが届きました。

「私は農家になりたいと思い、農学部に入学して、卒業後は農家になりたいと親に伝えたところ、猛反対されました。私は夢を考え直した方がいいのでしょうか?」。

農家の子ども以外の青少年が、職業選択の一つとして「農家」を希望するケースが少ないのはなぜでしょう? なぜ親や知り合いは農家になることを反対するのでしょうか?
この問いを深めていくと、いまの日本の農業の姿や仕組みが見えてきます。
北海道・札幌在住の中高生を中心に、小林先生と「農家になるには」を話し合い、その対話を発展させるなかで、日本の農業の今とこれからを理解する一冊です。
農業のネガティブな面ばかりではなく、農業従事者以外の人には見えていない(あるいは、農業従事者も意識していない)「良さ」や特徴も掘り下げて紹介します。
また、海外、主にヨーロッパの農畜産事情も説明することで、日本ならではの農業の特性を理解できるように誘います。

この時に先生からいただいたタイトル案は、「農家になりたい君へ」でした。この時すでに、このタイトルに手応えを感じていたのですが、先生の真意を私がしっかりと把握するに至るのは、もう少し先のことでした。


■執筆:柿本礼子(かきもと・れいこ)
東京都立大学大学院でフランス哲学を修了したのち、フリーライターへ。日経ホーム出版社(現・日経BP社)の月刊誌『日経WOMAN』編集部に在籍後、再びフリーランスに。「食」を社会的に捉え、伝えることをモットーに、雑誌への寄稿や書籍編集、コンサルティング業務等を行う。


次回は編集者の柿本礼子さんによる「『牛乳から世界がかわる 酪農家になりたい君へ』|編集こぼれ話③」をお届けします。


2024年9月5日発売
『牛乳から世界がかわる 酪農家になりたい君へ』
小林国之 著
定価 1,760円(税込)
判型/頁数 四六判  196ページ
ISBNコード 9784540241017
購入はこちら https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54024101/

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