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人事・人材マネジメント(4):異動

今回は「異動」の話。
会社からすれば「適性配置」、社員の立場からすると「キャリア開発」の話となります。

異動・ジョブローテーションの目的

異動の目的(1)で紹介した『図解人材マネジメント』によると
「適材適所」「人材開発」「幹部育成」

そして、ジョブローテーションの目的
「幹部育成」「部署間コミュニケーションの活性化」「仕事の属人化防止」 
となっています。

どちらも似たワードですが、異動の方が「個人のキャリア開発」の面から、ジョブローテーションは「会社・組織における個人の役割」の面から捉えているような感じがします。

どちらにも「幹部育成」が入っているのは興味深いところですね。

筏下りと山登り

さて、日本におけるキャリア開発、キャリアデザインの分野の第一人者と言えば、リクルートワークス研究所所長(現アドバイザー)の大久保幸夫さんが有名です。

この本では
ある程度の職業経験ができるまで(特に最初の3年間)は、上から降ってくる仕事をあれこれ選ばないで(川で「筏下り」をするように)がむしゃらに業務に取り組みスキルを磨くことが必要。仕事を一生懸命頑張って、成果が出ると「仕事って面白いなぁ」とポジティブなイメージ、成功体験を持つことがキャリア開発の初期には非常に重要。

ある程度「筏下り」の経験をしたら(概ね35歳前に)、今度は自分で目標を定めてプロフェッショナルとしてキャリアを形成していきます。これを著者は「山登り」と呼んでいます。
「このジャンルの仕事は私に任せて!」「この仕事なら社内の誰よりも詳しい!」という専門性を発揮できるようになるのが日本企業における理想のキャリアデザインだそうです。

ポテンシャル採用された新卒からすれば、始めは特に専門性も持ちえないまま就社し、会社で与えられた仕事を一生懸命こなしていくうちに自分の専門分野を見極めることができる。そして、以降はプロフェッショナルとして成長していくという流れになります。

基本的には異動における「人材開発」は筏下りの時期と山登りの時期、個々人のキャリア開発の考えを重ねあわせて考えていくのが理想となるでしょう。
ただし、企業側の事情としてその時々の事業環境により、人材不足の部署や余剰気味の部署などアンバランスがあり、なかなか全ての個々人の適性や成長に合わせて配置(適材適所)が出来ないのも現実です。

終身雇用前提のメンバーシップ型雇用のキャリア

もう一つ、メンバーシップ型雇用を採る伝統的な企業では、どこかのタイミングで、プロフェッショナルとしてのキャリア開発とゼネラリスト的なキャリア開発の流れに何となく分かれてくるのが一般的です。

異動およびジョブローテーションのどちらにも「幹部育成」が入っていますが、特定領域のプロフェッショナルだけでは会社が成り立ちません
特に事業部長以上の上級マネジメントには幅広い業務領域や専門分野、そして事業経営への深い理解が必要です。

研究職や営業職、またスタッフ職の単一プロフェッショナルとして専門領域をずっと極めて(山登り)していくキャリア開発だけではなかなかこういった幅広い経験は出来ません。
そこで、将来の幹部候補には山登りの途中から、まったく別の山を登らせる、開発から営業やスタッフへ、国内から海外へと渡り歩くキャリア開発対象者が必要となってくるのです。日本ではゼネラリスト、海外ではファストトラックと呼ばれる幹部候補人材です。

さて、プロフェッショナルにせよ、ゼネラリストにせよ、上位ポストも限られています。年齢が上がるにつれて多くの社員はいずれ成長が鈍化し、組織要員構成のバランス上、どうしても余剰感が出てしまいます。
その中である年齢に達したら、ポストオフ(部課長等の役職から外れること)して、後進の指導に当たらせるケース、大手企業なら子会社や取引先企業へ、官公庁ではいずれ所管している企業へと天下りポストを用意するケースなどの日本的な仕組みが知られています。

その意味で、伝統的な日本企業は終身雇用を前提に「新卒採用から定年退職まで」本当によく考えられた人事システムになっているとも言えるでしょう。

一方で、日本企業の雇用の特徴であった「終身雇用・年功序列・企業別組合」が日本企業の閉塞感とともに、長時間労働をもたらしがちな「まじめな『ゆでがえる』」を生んでいるという批判もあるようです。

ジョブ型雇用における異動とは?

さて、ではこれらの人事の仕組みや考え方が、欧米企業のようなジョブ型雇用になるとどうなるのでしょう?

ジョブ型雇用では個々人のプロフェッショナリティを前提に採用している以上、筏下りの時期にせよ、ゼネラリスト育成にせよ、日本企業のように専門分野を超えたジョブローテーション(雇用条件によっては単身赴任を含む地域異動も)はあり得ないのです。

上記、日経Bizgateの海老原 嗣生さんの記事にあるように「ジョブ型とはポスト別採用であり、そこから動かせない(=人事権の弱体化)」とも言えるそうです。

となると、人事部は適材適所実現のために社内で誰かいないか探すのではなく、社外からポストに合った人を採用する。逆に個人はその会社で自身のキャリア(昇進)に限界が見え始め、その時、他社から魅力的なオファーがあればあっさりと転職して、さらに上を目指して山登り(キャリア開発)を続ける。ということで、両者のニーズがマッチした労働市場となっているのです。これはプロフェッショナル人材でも上級マネジメント人材でも同じです。

どうでしょう? ジョブ型雇用における「異動」のイメージは日本企業のこれまでの形とはだいぶ異なっているのではないでしょうか?

ちなみに、この記事を書かれた海老原嗣生さんはマンガ「ドラゴン桜」の作家 三田紀房さんが書かれた「エンゼルバンク」のカリスマ転職代理人”海老沢康生”のモデルとして有名です。





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