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両利きの経営(5):まとめと私の考え

これまで4回に渡って「両利きの経営」に関する話、ダイナミック・ケイパビリティやペンローズ理論なども交えて書いてきました。今回はまとめとして、実際の経営実務における「私なりの考え」について書いてみたいと思います。

「両利きの経営」におけるマネジメントの違い

ここで、さらにもう一段踏み込んで「知の深化」をする組織と「知の探索」をする組織 両組織のマネジメントや仕組み・制度の主な違いについて、図のようにまとめてみました。これらのキーワードはこれまで1年間続けてきた私のNote中でも、すでにいくつかは頭出しをし、取り上げて来ました。

両利きの仕組み

一見すると、左側の「知の深化/経営者」におけるマネジメント手法は歴史のあるもの、大手・中小企業に広く定着しているものが多く、
右側の「知の探索/企業家」における手法は比較的新しいもの、結果的にイノベーションに特化したネット系・ベンチャー系企業に導入されてきたものが多くなっています。

この表の中の左上、日本企業の多くが策定している「中期経営計画」についても、早稲田BSの入山章栄教授から「中計病」と指摘されています。

中計を3年ごとに回して行くことは「知の深化」を繰り返すことと同じであり、企業の長期的成長に本当は必要な「知の探索」の機会を奪っていき、長期的なイノベーションが枯渇するのです。中計にとらわれることこそが、コンピテンシー・トラップに陥る遠因となっているのではないでしょうか。

ただし、この記事を良く読むと、入山教授も中期経営計画を全廃せよ!とまでは言っていません。計画や数字の前に会社としての長期ビジョンの目線をしっかり持て!と言っているのです。

これ以外のテーマについても、右側のイノベーション組織に合った比較的新しいマネジメント手法今風で目新しくカッコよく経営幹部にも社員にも映ります。

しかし、自社にイノベーション、知の探索、新規事業が不足しているからと、既存事業を含めて「知の探索」に合ったマネジメントスタイルに変えてしまうことは、単に社内の「守旧派からの反発」といった感情レベルの話ではなく、地道に収益性と品質を改善し、信頼を勝ち得てきた既存事業の強みそのものを破壊してしまう危険性があります。

大企業においては組織風土だけでなく、よりブレークダウンされた組織内の仕組みや仕掛けについても両組織の特性を見極めて、全社一律ではなく、どう使い分けるか、両建てでいくかが「両利きの経営」の重要なポイントになります。

前回ご紹介した「両利きの組織をつくる」のAGC社の事例でも、すべての事業を全社一律的にイノベーション組織型(戦略成長事業)のマネジメントスタイルに変えてしまった訳ではありません。

イノベーションをマネジメントする上で大切なこと

さきほどの左と右のマネジメント手法を見ると、どうも、イノベーション組織は前に進むビジョンや目標失敗を恐れず繰り返し次の手を打っていくことは大好きですが、「管理」は苦手、嫌いなようです。

ところが経営幹部経営企画、そして現場のマネージャーも「管理すること」「マネジメント」することが仕事の中心です。ペンローズが言うように人材タイプが異なり、そもそも左側「知の深化」を得意とする人材なのです。

では、イノベーションを主軸とするベンチャー企業に投資するVCはイノベーション組織の事業性をどのように評価しているのでしょう?

VCが得意とする投資先の成長ステージに依っても異なりますが、代表的な視点として以下の4つを上げています。

①チーム(人材)
②事業領域
③強み
④価格目線(買値・売値)

イノベーション事業はBCGのPPMでも「問題児」の領域です。過去や現在の売上・利益、マーケットシェアなど、そもそもまだ小さいので当てになりません。その事業の将来を予測する、後押しするためにはVCの視点以上に、その事業と関わる人への深い洞察力が必要です。

経営層の勝手知ったる既存事業の売上や利益、またKPI等を当てはめた
一律の数値管理ではイノベーション事業の真実は見えてきません。新規事業については経営者や経営スタッフもより深く自らも顔を突っ込んで洞察力を働かせることではないでしょうか?

結局「この事業は儲かりそうか? 花開きそうか? そろそろ諦めようか?」に関しては、表面的な数字や市場調査レポートからでは判断が難しく、最後は「経営者の勘」その経営者に臭覚が備わっているかどうかだと思います。

この点で、創業者の社長は自ら事業を起こしてきたので、その事業の将来性について、実際の現場に入り込んできたので十分に鼻が利きます(オールドスタイルになる危険性も十分ありますが。。)
昨今の2代目・3代目社長が事業拡大に成功しているケースが増えているのも、彼ら息子・娘には既存事業の一部をマネジメントさせるのではなく、
海外事業や新規事業の立ち上げなど成功確率の低い事業を担当させ、きちんと成功させるを見てから代替わりしているケースが多いようです。
つまり、彼らや彼女らを経営者ではなく企業家として育てているのです。

理解し得ない関係性・組織風土

では、なぜ、経営者と企業家既存事業と新規事業はお互いに理解しえない、反目し合うことが多いのでしょうか?

このテーマについては「天才を殺す凡人」が書籍化された北野唯我さんがコラムが参考になります。

このコラムにあるように、
 天才(企業家)は想像性を発揮し、事業を創造し、
 秀才(経営者)は繰り返しの再現性により事業を拡大し

 凡人(現場)はしっかりと自担当の業務を回して金を作る 
役割分担になると書かれています。

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一方で、秀才(経営者)は天才(企業家)と反目しがちだが、天才を支える、両者を取り持つのは多くの凡人(実行する社員)の共感にあるとも述べています。

天才は、共感の神(凡人)によって支えられ、創作活動ができる。
そして、天才が生み出したものは、
エリートスーパーマンと秀才によって「再現性」をもたらされ、
最強の実行者(秀才✕凡人)を通じて、人々に「共感」されていく。
こうやって世界は進んでいく。
これが人間力学からみた「世界が進化するメカニズム」だ。

つまり、どのピース、人材タイプが欠けても、厳しい事業環境の中で創造と拡大を繰り返しながら、「成長の波」を乗り越えて企業が永続性を維持することは不可能なのです。


最後に:「両利きの経営」で重要なこと

私自身もこれまで自社・自組織の中に、既存事業と新規事業金のなる木と問題児を抱えてきました。経営サイドから見ても両陣営の雰囲気、価値観はかなり異なります。そこにどうやって組織としての一体感、お互いの共感や信頼を得るかについては十分過ぎるくらい配慮してきました。

両組織の違いを認めた上で、どう両者を共存させるか? 
・イノベーション組織には既存事業(CashCow)が支えているから、
 君たちの新規事業にお金が使えるんだよ。
・成長鈍化が見える既存事業には新規事業の連中もチャラチャラしている
 ようだけど楽している訳じゃないよ。先も見えない中で悪銭苦闘して、
 次の土地を探しているんだから応援しようヨと。

つまり、ラグビーで言われる ”One for All, All for One” の精神が両組織の壁を打ち破って、社内や自組織の社員全員に浸透するかどうかが「両利きの経営」の最後のカギだと私は考えます。

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