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イノベーション(1):R&D

今回から企業におけるイノベーションをテーマにしてみたいと思います。
まずはイノベーションの基本となる研究開発、R&D領域に関する話です。

イノベーションのジレンマ

R&D領域、特に製品開発領域において、既存顧客の声を聞いて既存製品の改善・改良に囚われるすぎると、安価で(時に低スペック)な破壊的技術を持った新規参入者に圧倒的に優位だったはずの自社市場を根こそぎ奪い取られる可能性があるという「イノベーションのジレンマ」の話は有名ですね。

この書籍の中で、クリステンセン教授は大型コンピュータ用に開発された
14インチハードディスクがミニコンピュータ向けに開発された8インチHDに駆逐される事例を出していますが、いまではPC内蔵の3.5インチや2.5インチが主流になっていますので、歴史を感じさせます。

研究開発におけるPPM

経営実務として、R&D領域をマネジメント視点で考える(研究開発マネジメント)際には、MBAやMOTでも教科書になっていたアーサー・D・リットル(ADL)社のコンサルタントが書いた「第三世代のR&D」が古典と言えるでしょう。(今は絶版になっていますが。。)

これまで、象牙の塔とまで言いませんが、研究所に閉じこもりがちだった研究者・研究開発領域を事業戦略にどう結び付けるかが90年代の課題でした。研究開発テーマにおける短期・中期・長期といったステージやそれぞれの製品化リスクと研究開発投資額をポートフォリオ上に配置し、将来より多くのリターンが見込める投資効率の良いR&D戦略を目指すという内容です。

以前、お話した事業部門におけるPPM分析同様、この手法にも当然、限界があるかとは思いますが、いまでも大手企業の研究開発部門では似たような手法で事業計画や成果管理がなされていると思います。

Valley of Death 死の谷

さて、研究開発が成功する確率は「千三つ」0.003% !とよく言われますが、なぜ、それほどまでに確率が低いのでしょう?

下記、JMACのサイトにもあるように、研究ステージから産業化ステージ(投資回収)に至るまでには3つの関門があると言われています。
それぞれのステージをクリアする確率が15%とすると、1000件の研究成果のうち、ヒット商品にまで上り詰めるものは約3件になると言われれば、まぁ、そうかなという感じかもしれませんね。逆に研究から製品化するものが1割以上あるとすれば、それなりにいい線を言っているかもしれません。

魔の川は、研究ステージと製品化に向けた開発ステージの間に存在する障壁。研究を研究だけで終わらせないようにするためには、技術シーズを市場ニーズに結び付け、具体的なターゲット製品を構想する知恵が必要とされる。
 死の谷は、開発ステージと事業化ステージの間に存在する障壁。商品を製造・販売して売上にまでつなげていくためには、資金や人材などの経営資源を適切に調達することが必要とされる。
 ダーウィンの海は、事業化ステージと産業化ステージの間に存在する障壁。事業を成功させるためには、競争優位性を構築し、多くのライバル企業との生き残り競争に勝つことが必要とされる。

キャズム

また、ハイテクマーケットにおいても、同様に超えらなければいけない関門があると言われています。これはマーケティング寄りの観点になりますが、ハイテクマーケットにおいては雨後の筍のように新製品・新サービスが生まれていますが、マスを占めるまでに至る製品やサービスは極一部です。

本書「キャズム」は有名なハイテク・コンサルティング会社のマッケンナ・グループのパートナーであったジェフリー・ムーア氏が書いたものです。

本書では、ハイテクマーケットを、
1) イノベータ 2) アーリーアダプタ 3) アーリーマジョリティ
4) レイトマジョリティ  5) ラガード

に分類し、一部のハイテクオタクにのみ受け入れられる製品から、いかにマスマーケットにまで拡大するかについて、ハイテクマーケットにおける事例や彼らの豊富なコンサルティング実績を元に解説しています。

特に、2)アーリーアダプターと3)アーリーマジョリティの間を「キャズム」と呼び、この関門を超えることができれば、その製品が市場を独占する確率が格段に上がると述べています。

R&Dの成果を出す企業

こういった研究開発マネジメントやマーケティング理論を踏まえて、実際にR&D巧者と言われる企業はどのような試みをしているのでしょう?

研究開発による製品化が巧みな企業として、ポストイットで有名な3Mがあります。

R&Dの成功確率が千三つであるなら、研究開発マネジメントによりガチガチに管理するより、研究者にある程度、裁量を与えて、自由な発想でアイデアを出してもらった方が良いのではないか? その手法が15%ルールのベースにあると思います。その後、多くの企業がこの考え方を取り入れ、Googleには20%ルールがあるそうです。

このある程度(15%)は、すべて研究者の自由にさせるのではなく、従来どおりメインテーマの研究成果を管理をする部分が主であることも、経営実務をする方は見逃してはならない点かと思います。

ベンチャー企業だけでなく、大手企業のR&D部門研究者の方々も象牙の塔から出て、15%ルールやフィールドワークオープンイノベーションをどんどんするようになって、発想豊かな製品開発がもっともっと進んでいけばと日本の未来は明るいと思います。

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