ESG経営(6):マテリアリティ設定からの指標化
マテリアリティとは
マテリアリティとは、もともとは財務報告で使われた言葉だったようですが、いまは企業が優先して取り組んでいく重要課題を意味します。
SDGsやESG経営において、会社の方向感を揃え、ステークホルダーや広く社会にも「これがわが社の重要課題です」と宣言することが求められるようになりました。
一方で、SDGsの17のゴールすべてを一企業が網羅することは非現実的なため、自社の事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが重要です。
ESG(財務・非財務)指標
こういった考え方、そして企業での実践については最近、出版された書籍で、PwC Japanのコンサルティングメンバーが執筆した「価値創造経営」がタイムリーかつ、非常に参考になります。
本書やPwCのサイトでは
『経営の本質は、「現在の業績を管理すること」でもなければ、「経済価値だけを高めること」でもありません。2020年代に入り、経営の本質が「企業価値を高め、企業の未来を創ること」にあります』
と企業経営に対するステークホルダー・社会の期待に大きなパラダイム変化が生まれたと書かれています。
そして、KPIの必要性についても、以下のように記載されています。
役員報酬へのESG指標反映
さらに昨今では、米国や英国に倣って、企業収益や株価だけでなく、ESG指標を反映した取締役報酬制度を導入する日本企業が少しずつ増えてきているようです。
海外機関投資家からの「インセンティブがなければ人は動かない」という前提があるのも導入背景にあるようですが。。。
ESG経営の本質を見失わないために
こうやって順を追って紐解いていくと、ESG経営への取り組み、マテリアリティの設定、そして、ESG指標の設定と活用に関する考え方やストーリーとしては間違っていない気がします。
しかし、これまでESG経営をテーマに5回連載してきたように、私はこのフレームワークや数値設定そのものが、いつの間にか本来の目的や本質を見失ってしまい、手段が目的化する(しつつある)ことに一抹の不安を感じています。
マニュアルどおり経営すれば、企業価値が向上する訳ではない。
いつの間にか呪術と化す数字。
何より、スポーツ競技のように企業経営は採点結果で単純に順位を競うものではないと思います。よく「経営はアート」だと言われますが、企業価値向上のためのパーパスや道筋は個社それぞれ、独自性があっていいはずです。
こうした昨今の動向について、警鐘を鳴らしている経営学者として「知識創造経営」で有名な野中郁次郎教授が上げられます。
野中先生曰く、日本停滞の要因は「オーバーアナリシス、オーバープランニング、オーバーコンプライアンス」の3つの過剰にあると指摘しています。
こうした分析のやりすぎによって、日本企業経営の活力は奪われ、人間が本来もっている生き抜く力(野性)や創造性を劣化させてしまったのではないか?と。
経済産業省が2019年5月に「SDGs経営/ESG投資研究会」の議論を経て、「SDGs経営ガイド」を取りまとめていますが、この巻頭には日本企業や日本社会の価値観について言及している箇所があります。
いまや、ある種のブームと言ってもよいESG経営においても、過去、日本企業が欧米の経営理論やフレームワークを受け売りしただけのラベル貼りや数値分析に終始してしまうのは残念な気がします。
そして、ESG経営(2)で紹介したような「ウォーク資本主義」に決して陥らず、日本企業に根付く「三方よしの精神」を根底において、本質的な企業価値向上を目指してもらいたいと切に願っています。
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