【ちょっと昔の世界一周】 #16 《言葉よりも伝わるもの》
パークセーでの一日はとても有意義なものであった。
朝食は街歩きも兼ねて外に出ると目に入ってきた食堂で済ます。
それなりに人がいたので入ってみたが、サワンナケートと同じように麺の店だった。
ラオスの朝食は麺が一般的なのかな?
そんなことを考えながら注文を済ませ待っている時に周りの様子を見ていると、皆同じように出てきた丼に何かをかけている。
同じ小瓶がテーブルに置いてあるので見てみるが、なんと【味の素】
ローマ字で書かれた【AJI NO MOTO】の文字を眺めながら、日本の食文化は海外に広まっているのかな?と考えていると私の朝食も運ばれてくる。
最初はそのままで食べたが、普通に美味しい。
しかし、周りの人達は確実に味の素を入れている。
こうなると試してみたくなるもの...
いざ入れて食べてみる。
美味い...
元が美味しかったのだが、さらに美味しくなっている。
さすがうま味調味料である。
日本人としてなんだが自慢気になりつつ食事を済ませ店を後にする。
明日の移動に向けて特にすることもないのだが、昨日地図を見ていて気になった市場に行ってみようと思い歩き始める。
宿の人が言うには、大通りに沿っていけば見えてくるとのことなのでひたすら歩く。
大通りとはいえ、バンコクに比べればやはり人・車の流れは少ない。
その分ゆったりとした気持ちで歩いていける。
途中で気になる建物があれば写真を撮ったり、空き地にいる牛(野良なのか?)を眺めたり...
もちろん、挨拶などで声をかけたりかけられたりして話をしながらしばらく歩くと市場が見えてきた。
市場に来たからといって何かを買うわけではないのだが、なんとなく雰囲気に惹かれる。
日用品や野菜などの食材、洋服や何に使うのかがわからない物など...
目的もなくただ市場を歩いて見て回るだけだが、この空気感を感じられるのはいいものだ。
しばらく見て歩き、お腹が空いたので市場の一画にある食堂で腹ごしらえをする。
なんとも充実した時間だ。
そろそろ戻ろうか...
そう思い市場を後にしようした時、突然大雨が降ってきた。
ビエンチャンからのバスの時以来の雨。
しかもなかなかの降り方だ。
ひとまず近くの軒先に入る。
周囲の人たちもそれぞれ近くの屋根の下に集まっている。
バンコクで雨にあったときは宿の近くだったのでそのまま宿で過ごした。
今回は止むまで待つしかない。
天気を気にしながら辺りを見渡すと、同じように雨宿りで集まった人たちはおしゃべりをして過ごしている。
と、誰かの視線を感じた。
その方向を見ると、お父さんに抱っこされた男の子が私のことをジッと見ている。
子供心に見慣れた家族や自分たちとは違うということを感じ、気になっているようだ。
「コープチャイ」
自然に挨拶が出てきた。
「コープチャイ」
男の子は依然、不思議そうな目でこちらを見ているが、お父さんが挨拶を返してくれた。
ここでも自然と会話が始まる。
お互いに片言の英語だがなんとか会話が進む。
男の子にとって、始めは不思議な存在でしかなかった私が父親と話している姿を見て少しは安全な存在と感じてきたのであろう。
せっかくなので、写真撮っていい?と聞いてみるとOKと言ってくれたので、何枚か撮って画面を見せる。
途端にお父さんに抱かれた子の顔に笑顔が宿った。
ここでも感じだが、写真という物はコミュニケーションとして最適である。
そんなことをしていたがなかなか雨は止まない。
何度か空を見上げている私の様子を見て、お父さんは察してくれたのか声をかけてくれた。
「Don't worry...Rain will Stop !!」
お互いに英語が分かるわけではない。
だからこそ、この言葉の本当の意味を理解できた気がする。
「心配するな。止まない雨は無い!」
勝手な想像だが、こんな感じのことを言ってくれた気がした。
流れに身を任せれば、なるようになる
旅を通して思いついたこの考え。
まさに今はそんな感じなのかもしれない。
気がつくと少しずつだが空に明るい場所が見え始めた。
周囲の人たちもおしゃべりが少なくなり、皆雲が切れ始めた空を眺めている。
私も同じように空を眺め時間が過ぎていった。
日が差し始めると皆一斉に動き出す。
私も先ほどの親子に手を振り宿の方向に戻ることにした。
不思議な時間だった。
もちろん国籍も育った環境も違う。
だが、あの場で空を眺めている時は皆同じ感情を持っているような気がした。
ラオスという国の国民性なのかもしれないが、なるようになるという私の考え方とやはり合っているのかもしれない。
*****
帰りは来た時とは違い、川沿いを歩いてみることにした。
大通りは分かりやすいのだが、食堂や旅行会社・宿など人が流れる雰囲気だった。
それに比べ川沿いの道は地元の道といった感じでゆったりとしている。
日差しはあるが川の方から吹いてくる風が心地よい。
とはいえ喉が乾いてきたと思っていたら【Drink】と書かれた板が載ったテーブルがある。
ちょうど一人買っていたので見ていると、大量の氷入りのタライに入ったジュースのボトルからシャカシャカ袋(スーパーで買った肉や魚を入れる袋)に注ぎ、クーラーボックスに入っている氷とストローを入れゴムで口を縛る。
飲み終わったら簡単に捨てられるジュースを売っていた。
意外と量も入っているし安いので買ってみることにした。
それを飲みながら歩いていると今度は川沿いの空き地に人が集まっている。
何かをやっている人たちとそれを見ている人たち。
気になったのでギャラリーの中に腰を下ろし、ジュースを飲みながら見学してみる。
腰を下ろすと隣の人がチラッと私を見て、何だこいつ?といった表情をしたが、この辺に座れよと場所を広げてくれた。
ルールは詳しく分からないのだがスコアがありチーム戦のようだ。
何となく想像するに、目標のボール目掛けて持ち玉を投げていき最終的に目標に近い場所に投げれたチームに得点が入るようだ。
『カーリングのようなものかな?』
何となくだがルールを理解し見ていると意外と面白い。
(今考えると〝ボッチャ〟かもしれない)
相手チームのボールを弾いたり、転がっていき目標でピタリと止まると歓声が沸く。
一進一退の攻防が続き最終ラウンドが終わり勝負がつく。
すると負けたチームのメンバーが勝ったチームにお金を渡している。
そしてまた新たなチーム同士で試合が始まる。
どうやらお金をかけた勝負らしい。
そのせいかやっている人たちもだが、見ている人たちも熱が入り盛り上がっているようだ。
しばらく見ていると私も流れが分かってきて周りのギャラリー同様歓声を上げていた。
どう見ても外人である私だが、皆何も気にすることもなく盛り上がる。
先ほどの雨宿りの時もそうだが、言葉ではなく分かり合える気持ち。
気がつけば相当の時間を過ごしていた。
まだまだ試合は続いていたがジュースを飲み干したこともあり、キリがいいのでその場を後にした。
去り際に近くの人に「Bye !!」と言うと手を振ってくれる。
『今日は何だかいい気持ちになれるな…』
そんなことを考えブラブラと歩いていった。
*****
宿の近くに戻ってくる頃には日が沈み始めていた。
明日は朝から移動だからそろそろ帰ろうとすると、昨夜のサンドイッチ屋の前を通りかかった。
昨日のように家族揃って夕涼みだろうか、皆集まっている。
私に気づいた女将さんが挨拶をしてくれる。
そして笑い出した。
どうしたかと思ったが、想像できた。
その日の私の格好といえば、日中はタオルを頭に巻きサングラスをかけていたが、その時は日差しも落ち着いてきたので外していた。
元々肌が白い方だったので、一日で結構日焼けしたようだ。
しかも、サングラスのおかげで目の周りは白いまま。
さらにタオルを巻いていたがおでこは出ていたのでそこは焼けている。
鏡を見せてもらって自分でも笑った。
昨日のこともあるのでその流れでサンドイッチを頼み、一日の話をしながら待っていた。
サンドイッチがきてからも色々と話をし、明日はチャムパーサックに行くので来れないが、明後日には戻ってくることを伝え店を出た。
宿に戻り、荷物を整理しながらふと考えた。
『何だか昨日よりも会話が成り立っていた気がする。言葉は相変わらずなのに何でだろう?』
そう思ったが、答えはすぐに見つかった。
言葉以上に気持ちは伝わり共有できる
パークセーではこの考えを教えてもらえた。
明日はこの旅が始まって初めての遺跡観光。
期待に胸を膨らませながら眠りについた。
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