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光男の枠下人生 ~序章~

「これがヤドカリ打法、、えへ、えへへへっ」
と、コーヒーレディに聞かれてもいないのに一方的に話すのは田中光男(55)無職だった。
光男は52歳迄、某電気メーカーの製造ライン工として勤務していたが、業績低迷による早期退職リストに挙げられてしまいあえなく退職となってしまった。早期退職制度により月給の70%×36ヵ月分を毎月支給される事になったが、手取りで17万円という微妙な額である。
光男はその金のほとんどを大好きな、というより完全に沼ってしまったパチスロに費やしてしまい既に200万円の消費者金融からの借金と、市役所からの税金滞納の督促状で家計は火の車であった。
光男は30代で一度、シングルマザーと籍をいれたものの、およそ1年で妻と子供はどこかに出て行ってしまい、後日離婚届だけが届いた。
光男は柔らかい物腰の性格ではあるものの、全てにおいて主体性が無く、
ただただ液晶工場の万年ライン工として働き、社内のキャリアアップ制度にもひたすら無関心、同僚とのコミュニケーションもほとんどなく孤立していた。早期退職時の送迎会についても自ら欠席し、誰にも挨拶もせず、残りの有休を全て消化し退社して行った。
一度は持った家庭内でも「まぁ、人それぞれなんだからさ、えへへ、へへ、、」しか返さない。元妻のシングルマザーの圭子曰く、「生活費だけ貰えそうで人畜無害そうだったから一緒になってはみたものの、蓋を開けてみればただのパチスロ狂いの借金野郎だったので別れた」とのこと。
そんな自業自得の光男は今ではハイビスカスをモチーフとした某機種での朝イチリセット狙い(店側が意図的に仕込める朝イチでの初当たり確立を優遇させた台)をサラリーマン時代は土日、祝日に、失業後はほぼ毎日通い詰めていた。1台に数千円遣い、当たりが無ければ別の台へを繰り返し、光男はそれを自らのボキャブラリーをフル回転して「ヤドカリ打法」と名付けた。
それを一応は愛想を振りまかなきゃならないコーヒーレディが巡回してくると必ず捕まえて必要以上に耳元に顔を近づけながら「ヤドカリ打法、、これが、ヤドカリ打法、えへへ、へへ、、」
おそらく何の事だか理解出来なかったであろうコヒレことコーヒーレディーも毎度そんな事をされていたらたまったものではなく、眉をひそめながら嫌悪感を丸出しにしたものの、光男はそもそも相手の表情に目線を注いではおらず、ただただコヒレの耳に軽く自分の唇を強引に触れさせるプレイ目的なのでお構い無しである。ちなみに翌月、コヒレのほとんどがフィリピン人女性に変わっていた。
光男には「哀しみ」は無く、部屋に独り帰っても「えへへ、えへへ、、」と半笑いしている。もう、笑うしかない状況とでも言うのだろうかなんて心配は無用で、光男はそんな事などハナっからお構い無しのようだ、、。
そんな光男の1日の締めくくりは決まって自慰行為である。光男は55歳では有るが性欲はあまり衰えてはおらず、毎晩スマホでお気に入りの無料動画で手淫にふけっていた。
朝から晩までスロットを打ち倒し、いつものコンビニに寄りカップ焼きそばとストロング系の酒を買って帰る。不憫に思った高齢の母から定期的に送られて来る米や乾麺類などが光男の食料だ。
「エヘヘ、パチスロ楽しいな、ヤドカリ打法~!さぁて、今晩の動画はインタビューされながらハメられるスッチーでイクか、、」
光男は陽気である。
毎日ある意味夢の中に生きる光男、そんな光男にも光男なだけに一筋の価値ある生き方とも言うべき光が差す事になるのは未だ少し先の話しであった。いや、だいぶ先の事だった、、、。
ある日光男はパチスロで久々に大勝ちし、その金で普段は手が出ないステーキ屋に行った後、お触りパブにも行った。
しかし帰宅後の光男の表情は浮かない。
「オレが欲しいのは働かずに楽しんで金を手に入れ、その金で美味いもんを貪り食い、女の肌にもしゃぶりつけりゃいいんだよエヘヘ、、エヘヘ、、、しかしなんなんだ?この、伽藍堂の様なポッカリ感は、、いやいや、気のせいか、、今日もキッチリ抜いて眠ろう、今晩は睡眠薬で眠らされたシリーズだな、エヘヘ、、エヘヘ、、ヤドカリ打法~!」
光男は別に犯罪者では無いし、逮捕歴も無い。ただ、そんなんだからというか、今までの人生でもほとんどの人々からは受け入れては貰えずに居る。一体いつになったら光男に光ってやつはは差すのだろうか?そもそも今の毎日夢の中みたいな光男にはある意味既に差してんじゃね?とか、何でもかんでも一般世間が言う「良し」としたものだけがオールOKとは限らず「それは人それぞれだから、エヘヘ、、」と、弱々しい笑顔で笑う光男の方が真理かもしれないではないか?
いや、流石にそれは無い。(汗)
そんな光男には世間の杓子定規をクリアした光が差す可能性は極めてゼロに近いだろうか、、、

続く。



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