無敵1on1ツール「カケアイ」の本田英貴KAKEAI社長 失敗談を赤裸々に語る
上司と部下の定期面談「1on1(ワンオンワン)ミーティング」を支援するクラウドシステム「KAKEAI(カケアイ)」を開発・運営する株式会社KAKEAI(東京都港区)。代表取締役社長兼CEOの本田英貴氏から著書『上司と部下は、なぜすれちがうのか』(ダイヤモンド社)を頂いたので紹介します。8月23日発売、9月14日重版の本です(著書でサービス名称を「カケアイ」とカタカナ表記しているので、以下、倣います)。
2018年4月設立のKAKEAIは、人事分野の課題を解決するHRテクノロジー(HRテック)のスタートアップで、シリーズAラウンドで総額11億を資金調達しました(7月13日発表)。「富士通と国内の富士通グループに導入」(9月7日発表)など大手企業に採用され、著書の第5章「1on1は組織をどのように変えるのか」では、リコージャパン、伊藤忠商事、NTTコミュニケーションズの活用事例を紹介しています。また、お笑いトリオのパンサーが出演するテレビCM発表会を10月5日に東京都内で開いて認知アップに努めています。
特許を保有してブルーオーシャン
出版前の7月にお会いした時、本田氏は「今のところブルーオーシャン(未開拓市場)」と話しています。人や組織の課題を解決するHRテックを各社が提供していますが、他の1on1支援ツールと比較してカケアイは優れていると自信を持たれており、8つの特許を保有しているのも強みです。
職場では、人への関わり方が属人的に放置され、上手な人がいてもその知見は共有されません。それでは上司も部下もコミュニケーションで掛け違いが続いて、お互いに不幸です。カケアイはその解消を掲げて「属人的なコミュニケーションによる非生産的な状況を変える」とアピールします。
属人的マネジメントを解消する2要素
第4章「解決すべきは『属人的なマネジメント』」で本田氏は、
と説明しますが、すぐに実現したわけではなく試行錯誤の開発経緯が語られます。属人的なマネジメントを解消するには、最低2つの要素が必要です。
この2点を実現するため、個別企業ごとに構築するサービスではなく、クラウドでソフトを提供するSaaSとして開発しました。上司と部下が直接会わずにどこでもリモートで使えるし、実際に面談してお互いにカケアイの画面を参照しながら使うこともできます。
1on1支援に磨きをかける
1on1の重要性は、ビジネスシーンで以前から語られていたのですが、カケアイは最初から1on1にフォーカスしたプロダクトではなかったそうです。
「属人的なマネジメントをなくす」という大きなテーマに対して1on1はマネジメントの一部であり、「1on1がよくなるだけでは変わらない」と見られたくなかった。システムには、もっと多数の機能が盛り込まれているので、「1on1しかできない」と思われたくなかった、ということでしょう。
コロナ禍で多くの企業がリモートワーク中心の働き方になり、上司・部下のコミュニケーションはより難しくなりました。リモートワークで発生した問題の解決策を探して現場から問い合わせが増え、人事部門からも「管理したい」や「分析したい」ではなく、「とにかく、現場の支援になるものを探している」と切迫してきます。
そこでカケアイは、1on1支援の専用プロダクトに生まれ変わります。1on1終了後に部下が入力する「すっきり度」をもとに、アルゴリズム(計算手順)が上司に得意不得意を知らせてスキルアップを促しますが、部下の誰がどのように「すっきり度」を入力したかは、上司にもシステム管理者にも一切わからない仕組みです。「人事から監視されているようで気持ち悪い」という懸念を解消して、本音が言える環境を整えました。
手痛い失敗を披露
著書を第2章に戻します。上司と部下の関係で「改善に向けて一歩踏み出す側は上司の側」で、「すれちがいの真因」を探って解消するには、まず「自己開示」が必要だと説きます。できないのは「上司は強くあらねばならない」という古い倫理観に縛られているからで、「上司とはこうあるべきものだ」と組織に受け継がれる「刷り込み」も原因ですが、
と説きます。
と続いたあと、自身の手痛い失敗談を紹介します。「できれば明かしたくない過去」としつつ、部下がどう感じているかに目を向けることができなかった自分をさらけ出します。
新卒で入社したリクルートで行われていた「360度評価」のフリーコメントで、「あなたには、誰もついていきたくないって知ってます??」と無記名で書かれて体調を崩し、心療内科で重度の鬱(うつ)と診断されて数カ月間休職しました。
本田氏はこの痛恨の経験を、私との短時間の面談でも話されました。カケアイを語る際に欠かせない“定番”のお話なのでしょう。ただ、こうした経緯を、導入を検討している人事やシステム担当者から取材で面談した記者まで毎回繰り返して語るのは、とてもしんどいことです。それだけに、
という言葉が、真に心から出ているのだと理解できます。
機能紹介にとどまらない書きぶり
『上司と部下は、なぜすれちがうのか』の副題は「本音を伝え/引き出す仕組みと方法」で、上司と部下の関係性が大きなテーマです。「カケアイのサービスを紹介するビジネス本」だと思って読み始めましたが、上司と部下のコミュニケーションのあり方をめぐって考え抜いて起業し、資金繰りに苦労をしながらサービス提供を始めた経緯が語られます。悩める上司や、組織運営を活性化したい人事部の方が共感する話が多いでしょう。
これまでに紹介した第2、4、5章を含めた全部の章立ては以下です。
第1章では、マネジャーである上司が抱える問題を解きほぐします。企業を取り巻く環境の変化が業務推進を困難にしているので、個人の能力の問題ではなく部下とのコミュニケーションの難易度が増しています。
第3章では、1on1ミーティングが成果を上げるメカニズムを紹介します。カケアイを使った例と、そうでない例で売上や離職率の比較があり、そんなに違うのかと驚きます。
また、対話の質を高める具体的な機能を紹介します。部下は事前準備で「テーマ」を選択します。「次回の1on1で話したいこと(トピック)」と、そのトピックで「上司に期待する対応」をセットにしたもので、「具体的なアドバイスが欲しい」、「一緒に考えてほしい」、「話を聞いてほしい」、「意見を聞きたい」、「報告したい」、「その他」から選びます。
一方、上司は「部下が話したいトピックと、自分が期待されている対応」が1on1の前に分かるので、それだけで気が楽になります。さらにいくつかのヒントもカケアイの大量のデータをもとに表示されます。「得意/苦手のサイン」や「世の中の上司のTips」などで、カケアイを利用する世の中の上司が実践した工夫や知恵がシステム上でシェアされます。
「カレンダー連携」や「内蔵ビデオ通話」、「メモ一元管理」、「2人の間の約束事管理」の機能もあり、メモを残して共有したり、ファイルを添付したりできます。部下の匿名性を担保しながら、カケアイを利用する数十万人の傾向データも織り交ぜたアルゴリズムで「上司が受け止めやすい情報にして渡すこと」を実現しています。
ユーザーアンケートで、「対話の質が向上してスムーズになり、心理的な負担が減ってコミュニケーションが大幅に改善した」という結果を示します。部下からは「こんなことも上司に話していいだという安心感がある」。上司からは「本音がつかめる」や「部下が何を選んでいるか事前に一瞬目を通すだけで1on1の場の作り方が変わる」などの声があります。
「深掘りQ&A」で理解を深める
第1章から第4章の各章の最後にコラム「深掘りQ&A」の対話型コーナーがあり、ライターの質問に本田氏が答えるページがあります。読者が疑問に感じそうなテーマの質問に答えるコーナーで、理解を深めやすいです。さらに「まとめ」の横書きページも最後に設ける念の入れようです。
実は、頂いた本をなかなか読み進めることができませんでした。20年からフリーランスとして働いていますが、組織を離れて22年10月から4年目です。「部員とのコミュニケーションに悩む話はもう遠慮したい……」という気持ちがあったのかもしれません。
読みながら「在職時にカケアイがあったら、どんなふうに1on1ミーティングをしただろうか……」と思いをめぐらせました。少なくとも、なかなか気が乗らないミーティングのハードルを下げてくれそうなので、使ってみたかったと思います。
書籍情報
タイトル:上司と部下は、なぜすれちがうのか
著者 :本田英貴
発売日 :2022年8月23日
定価 :1650円(1500+税10%)
版型 :四六版
発売 :ダイヤモンド社
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