ベーシック万歳〜その1
コラムというか、ショートストーリーというか…
サロンで良くあるミーティング風景です。
あくまでフィクションですが,多くの美容室では問題となっている様な事ではないでしょうか。
時代の変化によって何を捨て、何を大切にしていかなければいけないのかを考えたいと思います。
※※※
美容人生において、初めて転職した。
たいして長くはない美容人生だが,たまたま見かけた求人広告でスタイリスト募集という記事を見かけてしまい、いつか東京で働いてみたいと事を考えていた二十八歳の自分は30歳を目の前に満を持したわけではないが、思い切って申し込んでみた。意外とすんなりと採用に至った。
慌ただしい土曜日のサロンワークが終わり、5名のスタイリストが集まりミーティングを行っている。
参加する必要もないミーティングかと思いきや、店長の西川さんから呼び止められ、「サロンの事を少しでも知ってもらう意味でも参加してください。」と言われ、興味本位でイスに座った自分にはすぐに内容を把握するには難しい内容だった。
まずは若手スタイリスト、南野さんは言う。
「10スタイルを切れるようになる事は、はあくまで通過ポイントでもっとモデルを切ることにもっと時間を使うべきだ。」
ふむふむ、なるほど。確かに大切だ。
ここでいう10スタイルとはグラデーションボブやセイムレイヤー、ショートレイヤーなど基本となるスタイルの事だ。
キャリア20年になるベテランスタイリストの北山さんは、南野さんにかぶせるように言う。
「だけど、うちのサロンにいる以上10スタイルをきちんと切れることは重要。」
この意見に対し、入社したての自分はこのサロンが長年培ってきたものがあるのだと知る。大切にしてきたものを一度崩すと、戻せなくなるのも事実だ。
中堅スタイリストの東出さんは言う。
「アシスタントたちには学ぶべきことは他にパーマやカラーもあるからカットのベーシックは6スタイルくらいにしてもいいのでは。」
これは最初に出た2人の意見を合わせて2で割った様な、中堅らしい合理的な意見なのだろうか。数を減らすというのは、目に見えて容易な考えなきもする。
もう1人の中堅は同調するように声を出す。
「ベーシックのスタイルをもっとソフトな切り口にしてソリッドでないナチュラルな作り方を覚えさせるといい。」
人が集まれば、三者三様である。おのおのが考える意見を述べた。
なんだか長くなりそうなミーティングだなと、この場に居合わせてしまった事を少し悔いながらもサロンワーク後の疲れた脳を使い、入社したての一兵卒である自分は偉そうに考える。
「何が、一番大切なのか…。」
まずはなぜこのような問題が起き、そしてミーティングする事に至ったのか。その背景みたいなものがある。それはどうやらこういうことだ。
スタイリストデビューをする過程=プロセスにかかる時間だ。この10スタイルのベーシックをクリアする事にレベルの高さを求められる為になかなか前にすすめない状況になっているという事だ。求められる高いレベルのゆえんは、このサロンがもともと分業制で、ベテラン勢は皆、ヘアカットする事を深く追求してきたことにある。
スタイリストそれぞれの頭の中ではカットのベーシックというものが「こんな感じかな」という漠然としたイメージはあるにあせよ、それが共有できていないために教育していくべきアシスタントの中に、そしてサロン全体の教育方針に「ズレ」が生じ始めた。ここで一度「ズレ」の修正を行う必要があり、もっと効率的にスタイリストをデビューできるところまでもっていくという目論見みたいなものを店長の西川さんは持っていた。
つづく
☆☆☆
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