井上陽水50th@東京国際フォーラム

50周年。すごい。でももっと凄いのは井上陽水本人だ。

井上陽水がずっと好きなんだけど、あんまりわかってもらえない。みんなにわかってもらいたいのは、あなたの好きな陽水がみんなの好きな陽水なんだよってこと。

つまり、それだけキャリアが長くて、各年代にヒットがあり、直接のリスナーでなくても何らかの形でみんな知ってるってこと。

で、東京国際フォーラムホールA。2019年10月20日。

初めて生で見る井上陽水。私息できる?

50周年だから懐古的なステージだと思うでしょ?私も少し思ったけども、全くそんなことない。限りなくその方向性はナシ。

どえらいクールなOP映像があって、バンドを従えて登場。

一曲目から最新のアレンジ。1973年の発表作「あかずの踏切り」オープニングから「あかずの」ってのも一流のユーモアだよな。

続いて二曲もド直球の2010年流バンドサウンド。「アジアの純真」、「Make-up Shadow」。もう興奮ド真ん中って感じなんだけど、会場が会場だし、周りもご着席なのでもぞもぞする。

こんなことって????流石に発表時からは声も変わったし、年齢も重ねているけど、もうフレッシュさと技巧の凝らし方が両立しててすごい。

MCでは「すごい時代」って言葉を連発してた。なんか引っかかってるんだろうなーと。終盤のMCまで口に出していたのでキーワードっぽい。考えてみると、インタビューなんかでも「時代」って言葉は多く見る気がする。

その次に来たのが「東へ西へ」だったし、昨今の日本、世界情勢を陽水先生は憂いておいでのようだ。陽水のギターは思いの外ブルージーな乾いた音がする。

個人的に好きな「青空、ひとりきり」が歌われたのでうれしい。

ニュースを見ていると信じられないことばかりで受け止められない、と。ちょうどよくブラタモリを見るということで、「瞬き」。サウンドの傾向もあってか私は最近の陽水がジョアン・ジルベルトに見えることがあるな。陽水なりの現代はラテンのノリなのかな。コーラスのお二人がとてもいい声。湿りすぎず軽すぎず、いいバランスで楽器と声に溶けている。

幼少時の父との思い出、そして今の家族との思い出をはさんで「海へ来なさい」。私はこの曲が好きなのであまり聞きたくない。なぜかというと、いろんな感情が溢れ出てきてしまうので、ちょっと危なかった。

「いっそセレナーデ」は本人としてはまじめ?に作ったらしい。いや~~~~。なんか秋だなぁとか、私もそういう年代になっているんだなとかいろいろ思った。

「帰れない二人」上京時のエピソードを聞いてなるほどってかんじ。清志郎さんとの馴れ初めもここではじめて知った。原曲をなぞりつつ少し枯れた雰囲気がよかった。今日のバンド、鍵盤の演奏が好きだなってこの辺で思う。

ここまでが第一部。え、そんなことある?????密度がすごいのに時間の経過が早い。休憩のお知らせもおもしろかった。

休憩後はまたショートムービー、というか井上陽水の50年みたいな映像が流れた。年代順に、「お元気ですか?」ももれなく有り。あんまり言及されない、と勝手に思っている「バレリーナ」の収録曲も聞こえたので個人的に嬉しい。

開始は「女神」。さっぱりとあっけらかんと。聞いてて楽しくなる。考えてみると最近の陽水の創作はブラタモリがかなり比重大きいなと。ライブツアーはほぼ毎年あるけど、オリジナルアルバムの発表は2010年作の「魔力」が最新。「女神」、「瞬き」がなかったらほぼ隠居みたいに世間的になっちゃいそうなところをよくぞって感じ。ホーンセクションが録音だったので、曲の要素としては外せないけどバンドでやるっていうコンセプトに反するのかな?って思った。新しい曲だけあってかなり前に出てきている感じがある。

メドレー。年代順で、しかもアンドレ・カンドレ時代のデビュー作「カンドレ・マンドレ」から始まるなんて、さすが50周年。本人の言葉にもあったけど、処女作のこの曲は確かに陽水だなって感じるなあ。メドレー全体のアレンジ担当の星勝さんが客席にいてピンスポ浴びてた。

中森明菜を好む身としては「飾りじゃないのよ涙は」がとても良かった。アレンジは「Blue Selection」の感じだけど、もっと突き抜ける感じ。気が強い感じ。

メドレーの最後、「ジェラシー」。照明が真っ赤になり、陽水だけを照らす。あんまりにも有無を言わさない迫力に満ちていて、ちょっと言葉にならない。曲中は紫、オレンジの照明演出が曲を引き立ててよい。この曲こんなにワケアリな曲って気づかなかったな。ハッとした。終わりはまた赤くなってメドレーも終了。照明の演出本当に見事だった。あとでまた書くけど。

続いて「少年時代」。それこそ何度も演奏している曲だろうし、知っている人も多い。これもストリングスとホーンは録音orシンセキーボードだったので、原曲のある意味でのクセの強さみたいなものを思い知る。私は和声のことよくわかんないけど、ものすごくエモーショナルな作りしてるなぁと思う。思うと同時に少しウルっとくる。

連続して「リバーサイドホテル」。より濃密な夜の世界、という感じ。歌ってるところは言葉でというか発音で遊んでるように見えるんだけど、こちらに届く歌は背徳感、閉塞感、官能、などなどものすごい情報量なのでゾクゾクする。

間髪入れずに「最後のニュース」。客席にも光が投げかけられ、ちょっと開放的なんだけど、曲は言わずもがな子守唄のようでもあり、終末を見つめる預言者のようでもあり、人類の滅亡時に残されたテレビって感じでもあり・・・。これも好きなので直接聞けない部類の曲。間奏部のドラマづくりがすごい。コーラスのお二人がもうなんだこれってくらい歌い上げてたのが印象的。曲の終わりに合わせて白いスポットライトが消灯していき、最後にはステージ上の陽水に当たっていたライトも消える、という凝った演出。今回の曲の中でベストだった。

一番驚いたのは「夜のバス」。力強いドラムから始まるイントロは全く聞いたことない、知っている曲のどれともちがう、なんだこれ状態で歌いだされてまあ驚くわけよ。原曲とは違う急速なテンポ。二作目のアルバム(1972発表)曲をこんな新鮮に聞かせられるなんて正直全く思っていなかった。ライティングも凄い。各サビの終了時に急に暗転して、中央のライト一本が客席に向かって光る。これがまぁ超クール。カッコよすぎる…。

最後の曲。「氷の世界」。自由に踊っても何してもいいって言われたので立ってもう全身揺らす。発表時の荒れたエネルギーって感じもいいんだけど、酸いも甘いも知った上で、しかも確実に声が衰えているというなかで奔放に、語るように歌うのは50年のキャリアがなせる業だわ。ブルースハープよい。バンドメンバーの一体感も素晴らしい。ベース、ドラムの躍動、ギターの叫ぶようなパッセージ、鍵盤も感情を掻き立て、コーラスはより華やかに、鋭く。熱狂のうちに終了。アンコールを求める会場中の拍手。

アンコール。「クレイジーラブ」。知る人ぞ知る山口百恵への提供曲。上品なんだけどどこか毒というか闇の気配を感じるのが陽水の魅力だと私は思います!!!全開で楽しい感じとはちょっと違う、陰りというかそういうものを感じる。ステージはハッピーな感じよ????なんだけど。

「夢の中へ」。ここまでくると私の頭の中も空っぽ。ひたすらにノッてノッて気づいたら終わってた。ものすごく楽しい。会場の年齢層は割と高めなんだけど、私に近い年代の人もそこそこいて、全員が一体になって盛り上がってるこの瞬間ってすごいよな。

「傘がない」。これで締めるのは流石としか言いようがないね。これ出されたら何も言えないわ。ピリピリした緊張感。誰も疲れてない感じ。50年っていう年月の中でもこの曲を作ったときの感情は失われていないんだろうな。今日のMCも時代っていうキーワードがあったし、次への展望にやっぱり空っぽの楽観を持っていないのが陽水の世界なのかな。「行かなくちゃ」という言葉に違う情感を漂わせるヴォーカルの表現が素晴らしい。いや、言ってしまえばすべての曲の発音、発声は曲の世界に溶けるようになっていたように聞こえた。何言ってるかわかんないと思うんだけど、一曲一曲歌い方が全部違う。同じ年代の作品でも、なんか違うんだよねぇ。

終了。グッズを買い求めて有楽町を後にしました。。。

生まれてはじめて目の当たりにして、満足するどころかもっと掘り下げて、これからずっとついていこうと思わせるあのステージ。

今後の創作活動がどう運んでいくのかものすごく興味がある。2020年代の作品がどんな形になるのか、私はもうオリンピックなんかどうでもいい、といっても最初からよく思っていないが、そのくらい気になっている。

現在の日本の音楽そのものになりつつあるような井上陽水という一人の伝説は、ちょっととぼけているようで、感性は鋭く尖っていて、それでもって多くの人に音楽が届いてしまうすごい人でした。

音楽そのものだねぇ。考えてみたら活動休止期間がほぼほぼ存在しないのよね。50周年おめでとうございます。

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