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『月の光 現代中国SFアンソロジー』ケン・リュウ(編)

国家のエネルギー政策に携わる男はある晩、奇妙な電話を受ける。彼のことを詳しく知る電話の男は、人類と地球の絶望的な未来について語り、彼にそれを防ぐ処方箋を提示するが……。『三体』著者である劉慈欣の真骨頂たる表題作ほか、現代の北京でSNS産業のエリートのひとりとして生きる主人公の狂乱を描いた、『荒潮』著者の陳楸帆による「開光」など、14作家による現代最先端の中国SF16篇を収録。ケン・リュウ編による綺羅星のごときアンソロジー第2弾。解説/立原透耶

『折りたたみ北京』につづく中国SF短編集シリーズ2作目。
短編16作、エッセイ3篇とボリューム満点だが、1作1作のボリュームは少なめで非常に読みやすかった。

冒頭でケン・リュウがいっているが、いろんなパターンの中国SFを紹介するというモチーフなので、『折りたたみ北京』みたいな重厚さ、衝撃は少なめ。しかし、ハズレは(ほぼ)無いし、個人的ヒットは結構あった。中華版なろう小説みたいなのは声出して笑った。こういうバカ小説はこういう本に収めてもらわない限り読めないので、実にありがたい。「流れよわが涙、と孔明は言った」は中国に輸出できるのではないだろうか?

お気に入りは「金色昔日」「開光」「晋陽の雪」「始皇帝の休日」。

以下個別感想。

「おやすみなさい、メランコリー」夏笳(シアジア)/中原尚哉訳

近未来、AIロボットぬいぐるみのお話。
『折りたたみ北京』では一番好きな作家だったが、本作は暗くてエンタメ度低。ちょっと残念だが、近未来描写は結構な説得力だし、チューリングテストしか知らなかったアラン・チューリングの意外な人生が垣間見えたのは嬉しい。

「晋陽の雪」張冉(ジャン・ラン)/中原尚哉訳

歴史改変ものの一種。タイムトラベラーが諸事情あり歴史を変えようと奮闘する。
『折りたたみ北京』劉慈欣「円」みたいな、未来のテクノロジーを人力でむりやり形にしてるのが楽しい。インターネットを判子と糸で再現しており笑った。サングラスをレイバンと呼んでいたりと、卑怯な小技が多々ある(笑)

「壊れた星」糖匪(タンフェイ)/大谷真弓訳

SFというよりホラー。油断してたので本気で怖かった。思春期の女の子の絶望がとにかく怖い。

「潜水艇」韓松(ハン・ソン)/中原尚哉訳

高山羽根子的雰囲気SF。出稼ぎ農民が潜水艇で寝泊まりするお話。
これがトレーラーハウスだと不思議でもなんでも無いが、それが手作り潜水艇というだけで、実に不思議な光景になる。ちょっと不穏で不気味な雰囲気も凄い。

「サリンジャーと朝鮮人」韓松(ハン・ソン)/中原尚哉訳

北朝鮮が世界を征服したお話。その結果サリンジャーが浮浪者なっている。この作者はサリンジャーに恨みでもあるのか?(笑)
本編と関係ないが、「ライ麦畑でつかまえて」は過去に3回読んだが、読むたびに頭から抜けてゆき、何一つ記憶に残らない。未だ粗筋すらわからない。

「さかさまの空」/程婧波(チョン・ジンボー)/中原尚哉訳

水晶の屋根を持ち、海水の柱が天に登るドーム都市のお話。
イルカが喋るファンシーなファンタジーだがラストが物悲しい。美しい絵面が魅力的。

「金色昔日」宝樹(バオシュー)/中原尚哉訳

歴史が逆に流れる世界のお話。
宇宙へ飛び出しオリンピックも開催する中国が、戦争、文革、革命、とどんどん混乱してゆき、文明レベルが落ちてゆく。そんな激動に翻弄される男女の一生の物語。凄まじい読み応えだった。

「正月列車」郝景芳(ハオ・ジンファン)/大谷真弓訳

時空を歪め乗客率を上げた列車が事故で行方不明になるお話。
掌編だが抜群の切れ味。餃子に噴いた。そしてラスト1文が最高。私もついつい忘れて急いでしまう。もっと立ち止まったり回り道しなければ。

「ほら吹きロボット」飛氘(フェイダオ)/中原尚哉訳

寓話的お話。残念ながら言わんとするところがわからず。

「月の光」劉慈欣(リウ・ツーシン)/大森望訳

未来の自分から電話がかかってくるお話。
地球の破滅を防ぐべく奮闘を決意すると、また電話がかかってきて…。と、これを繰り返すスピード感が良い。しかし三体もそうだが、SF部分が馬鹿すぎて好きじゃないんだよなこの人…。

「宇宙の果てのレストラン――臘八粥」吴霜(アンナ・ウー)/大谷真弓

銀河ヒッチハイク・ガイドのオマージュ。しかし中身は世にも不思議な物語みたいな感じ。ちょっと切ない寓話だった。
ちらっと三体人が出てきたが、劉慈欣の三体なんだろうか。それならささやかなネタバレ有り。

「始皇帝の休日」馬伯庸(マー・ボーヨン)/中原尚哉訳

始皇帝がTVゲームをするお話。
もうその設定が卑怯で最高。家臣がゲームのDVDを差し出すとカッコ書きで(古代なのでSSDなどない)とかいちいち笑わせに来る。宦官がPCの排熱ファンのもとに香炉を置いた時には腹が捩れた。
あまりゲームしないので、ラストは完成しなかったオチなのかと思ったが、ググるとクソゲーが出てきて噴いた。

「鏡」顧適(グー・シー)/大谷真弓訳

予知のお話。
しかしその予知がまったくの想定外で吃驚した。別の仕掛けまであり、二重に驚く作品。しかし主人公がなぜ預言者に執着するのかが全然描けてないのが勿体ない。

「ブレインボックス」王侃瑜(レジーナ・カンユー・ワン)/大谷真弓

飛行機のブラックボックス的機構が人間の脳につけられたら、というお話。
記録できるのは死ぬ前の5分のみ。しかも読み取るには別の生きてる人間の脳に焼き付けねばならない。素晴らしい設定!
そしてそれを十二分に活かすえげつないお話だった。実に見事なSF短編。

「開光」陳楸帆(チェン・チウファン)/中原尚哉訳

仏教アプリが実際にご利益を発揮しだすお話。
仏教ネタが多くて興味深い。中国って今も仏教盛んなんだろうか? リツイートで徳を得るっていう発想に笑った。現代版マニ車だなぁ。この部分、フィクションなのか、本当なのか中国の人に聞いてみたい。
日本でもお寺の掲示板のありがたい(というより面白い)お言葉はよく見かけるが、同じではないんだろうね。

「未来病史」陳楸帆(チェン・チウファン)/中原尚哉訳

いろんな架空SF症例が短編になっている。
全体的にグロいが、リアルだし、妙な納得感があり面白い。
iPad症候群(生まれたときからiPadに触れているので、普通のコミュニケーションは刺激が低くて認識されない)は実在しそう。タッチパッドしか知らない子供がファミコンをやろうとしてテレビを触るも全然反応せず、しまいには叩き出す動画を見たことあるけど、近いものがあるよね。

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