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『おれの眼を撃った男は死んだ』シャネル・ベンツ(著)高山真由美(訳)

南北戦争で親を亡くした少女は自分を虐待するおじ一家から兄の手によって助け出されたが、さらに残酷な外の世界を知る(「よくある西部の物語」)。難民キャンプに児童養護施設を建てようとしていた女性は、大虐殺の混乱のなか傭兵に誘拐されて消えた(「外交官の娘」)。裸足のまま列車に乗りこんだ少年は、服役中の父親と暴力をふるう継父の間でもがいている(「ジェイムズ三世」)。西部劇の舞台のような町、黒人奴隷が鞭打たれるプランテーション、現代アメリカの壊れた家庭、砂に埋もれたユートピア、16世紀イギリスの修道院……。暴力と欲望に満ちたさまざまな時代と場所で、夢も希望もなく、血まみれで生きる人々。人間の本質を暴き出し、一瞬の美しさを切り取った、O・ヘンリー賞受賞作「よくある西部の物語」ほか全10編収録のデビュー短編集!

純文学的短編集。主にアメリカ南部、黒人奴隷や女性蔑視が常識の時代のお話で、やるせないお話ばかり。「よくある西部の物語」がガツンと来て一番好きだが、他もなかなか殴られる。訳者あとがきにもかかれているが、いくらでも不穏な想像ができてしまうえぐい一冊。

「よくある西部の物語」Webで無料公開されているので、気になる人はぜひ読んでみて。

よくある西部の物語

パワーとキレが素晴らしい。カッコや無駄を一切削ぎ落としている文体の発する力強さが、貧しく悲しく愚かなお話をより引き立てる。

これは『ザリガニの鳴くところ』を読んだ後にWEBで読んだので、まるでB面のようだ、と感じた。あっちで起こったのは奇跡で、普通はこっちなんだよ、という現実を突きつける。

アデラ

黒人の血が一滴でも入っていると人非人扱いを受ける時代のお話。さらに庶子ならどうなるか…。子どもたちが残酷すぎて吐き気がしたが、それはそういう教育をしたせいであり、大人の思想がそのまま反映されているから。と考えると余計吐き気がした。

思いがけない出来事

自由奔放とこういう人生って紙一重だなぁと考えさせられる。低きに流れた人々のお話。みな我が強くぶつかりあってストレスを感じながら生きてる社会はしんどそう。

しかし、振り返ってみると、この話、この本で一番幸福なお話でびっくりしたわ。

外交官の娘

強烈な暴力に運命を捻じ曲げられるお話。恐怖しかない。しかしこれは彼女の選択なので、強制された不幸がない所は喜ばしい。ヨルムンガンドを思い出す一遍。

オリンダ・トマスの人生における非凡な出来事の奇妙な記録

「ある奴隷少女に起こった出来事」みたいに実話なのかと誤認しちゃう書き方が好きではない。詩も良さがわからず。白人側の心理も語ってほしかな。しかし”しかしわたしは地上の生き物のなかで一番下の存在褐色の肌をした、女なのだ。”という一文は切なくてぐっと来た。奴隷であることが含まれないのは、褐色の肌イコール奴隷だから。余計切なくなる。

ジェイムズ三世

ラストが不穏すぎて気持ち悪い。あぁコーヒーでありますように、と祈らずにおれない。

蜻蛉

今の世でもインチキ科学・医学は滅んでいないが、昔よりはましになっているんだろうか。そんな昔の被害者のお話。しかしそれだけではない構成がおみごと。しかしラスト、看護婦のとばっちり感が哀愁を誘う。

死を悼む人々

子供が生まれては死ぬ時代、そして女の不幸はそれだけではない時代、そりゃあ、やってられん気持ちになるよねと共感。

認識

近未来のお話。数十年前の砂に埋れたコロニーを遺跡と呼ぶのに強い違和感でお話がイマイチ頭に入ってこず。

われらはみなおなじ囲いのなかの羊、あるいは、何世紀ものうち最も腐敗した世界

聖職者の復讐物語だが、全然悟りを開けていなくて笑ってしまった。まぁそんなもんだよね。そして本人かどうかもわからない人間を殺すところは、本当に復讐か? と邪推せずにおれない。

本編と関係ないが、法王のシステムが気持ち悪い。なんで神父にヒエラルキーがあるんだろう? そもそも神父は偉くもなんともなく人民と同等だし、神以下はすべて平等なのでは? この宗教が差別の根本のような気がしてる。

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#読書感想 #読了 #ネタバレ #海外小説 #純文学 #シャネルベンツ

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