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『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ(著)

ノース・カロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアは湿地の小屋でたったひとり生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女のもとを去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく…みずみずしい自然に抱かれて生きる少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出す。全米500万部突破、感動と驚愕のベストセラー。

素晴らしい一冊だった。
衝撃の結末が~~といった売られ方をしているが、それは全然本質ではない。ラストはちょっとしたサプライズ程度。それより、果たしてカイアは幸せになれるのか? というドキドキと、美しくリアルな自然描写が終始一貫して読者を虜にする。正直、序盤は殺人事件を邪魔に感じた程だ。

お話は、現在の殺人事件パートと、カイアの生い立ちが語られる過去パートが交互に語られる。しかし、6歳で育児放棄され、湿地の小屋に取り残され、一人で生きていくカイアがどうなっちゃうのかと気が気ではなく、殺人事件とかどうでもよいよ! という気持ちになる。しかし読み進めると、殺された人間とカイアの関係が見えてきて穏やかではない気持になってくる。そしてさらに時が進み、関係が変わっていくにつれ、事件への見方も変わってくる。殺人事件、必要だったわ。一粒で何度もおいしい見事な構成だわ、とうならされる。

カイアがマイノリティなのがまた同情を誘う。黒人や貧困への差別が普通にある時代、地域のお話で、『貧乏白人』と呼ばれる被差別地域で生まれ、さらに、たった6歳で親兄弟にも見放されて孤立してしまう主人公。町では汚いから寄るな、と言われたりする。同情するなという方が無理な話だ。

彼女の独白もがつんがつん刺さる。以下は特に身につまされた。

辛いのは、幾度もの拒絶によって自分の人生が決められてきたという現実なのだ。

しかし、救いも結構ある。差別する人も居れば、優しい人もおり、売店や燃料屋など、ライフラインにいる人たちが、差別もせず、非常に優しくカイアを助ける。読み書きを教えてくれる友人もできる。法廷では弁護もしてくれる。非現実的なほど幸運だと感じるが、これらの奇跡がないと主人公がのたれ死ぬだけの話になってしまう。逆にいえば、主人公が罪も犯さず生きるにはこれほどの幸運が必要なんだな、とより悲しくなった。

終盤の法廷ドラマでは、偏見が勝つのか、優しさが勝つのか、めちゃくちゃドキドキして心臓に悪い。

もう一つ、最大の魅力が自然描写。動物学者の作者が描く自然が圧倒的。実際見てきたものを書いていることがひしひしと伝わるし、描写する対象一つ一つが凡庸ではなく、素人には思いもつかないもの(鳥の喉の羽だとか)が、詩情豊かに、カイアの心を癒しながら、読者をも魅了する。

「ザリガニの鳴くところ」は、人間が目にすることの無い自然の奥深く、という意味だが、最後まで読むと、人間だって動物だし、ここだって人間の鳴くところだよな、と思わされた。

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