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『無伴奏ソナタ』オースン・スコット・カード(著)

生後6カ月でリズムと音程への才能を認められ、2歳にして音楽の天才と評されたクリスチャン。人里離れた森の奥で、いっさいの人工的な音から遮断され、ただ鳥の声や風の歌声だけを聴いて育った彼は…表題作ほか、異星人の攻撃から地球を守るため設立されたバトル・スクールで最高の成績を収めた少年エンダーの成長を描く処女作「エンダーのゲーム」(短篇版)など、独創的なアイデアと奔放華麗な想像力で描く傑作11篇。

爽やかな表紙とは裏腹に、黒い藤子・F・不二雄や、荒木飛呂彦を思い出すホラーもあり、お腹いっぱいの一冊。
この作者は、長編エンダーのゲームしか読んだことがなく、割とロマンチックな印象だっただけに吃驚。とはいえ、テンポの速さ、無駄の無さも含め、藤子・F・不二雄クラスの天性を感じた。

短編集らしく、どれもぱっと思いついたアイデアを膨らませたものだが、それと感じさせない完成度。厚さのわりに、もっと読んだ気になるので、得したような気もする一冊。

エンダーのゲーム

長編との違いは、未知との遭遇パートの有無。よく長編にあの要素を足したな、というのが一番の驚き。そして長編も新訳で読み返してみたいし、続編も読んでないなぁと思い出す。

王の食肉

グロくて吃驚した。カンビュセスの籤とかミノタウロスの皿とかを思い出す。しかしオチは、人間が醜い分こちらのほうが残酷かな。

深呼吸

作者あとがきを読むと、この話の不気味さが一層引き立つ。呼吸のタイミングが同じ、というそれだけのきっかけから、こんな展開を思いつくなぁと感心しきり。そして、しょーもない落ちがよい。

タイムリッド

安全な自殺で死ぬ快感を得るというアイデアも、何度も人身事故を起こしては撥ねた人間が消えるという悪夢もかなり気持ち悪い。その分オチは爽快にしたのだろうけど、アンマッチかなぁ。警察の人はなんか雑だった。

ブルーな遺伝子を身に着けて

行き着くところまで行った人類の姿がショッキング。あの世界であの姿。何を楽しみに生きていくというのか。嫌な未来ランキングトップクラス。

四階共用トイレの悪夢

これは藤子・F・不二雄というより荒木飛呂彦(断然こっちのほうが前だけど)。クズがスタンド攻撃受ける話にしか見えない。脳内でも完全にJOJO絵で再生された。ラストはリドル・ストーリーになっているが、これほどどっちでも良いよという話もないなと笑った。

死すべき神々

エイリアンもないものねだりするんだな、と微笑ましいお話。

解放の時

パラレルワールドどうしが混ざり合うような不思議なお話だが、痴呆の話でもあり、なんとも怖いが美しいと感じた。しかし中身入りの棺桶を一晩預かってくれって言われても絶対嫌だわ。お前の家に置けよ、と言わざるを得ない。

アグネスとヘクトルたちの物語

意識ある構造物のお話だが、アグネスが色々短絡的すぎて頭に入ってこず。正体不明の宇宙施設に移民とか怖すぎる。ラストはミームの話? 無駄死にではなかった、と言いたいだけかな? 色々消化不良。

磁器のサラマンダー

常に動き回り喋りまくる磁器の置物を想像するとイライラしてしまった(笑) 我ながら余裕がなさすぎる。

無伴奏ソナタ

切なくて堪らないお話。PSYCHO-PASS(アニメ)の元ネタかな?というような管理社会で、音楽の才能があると認められた人間のお話。主人公の心象が全然語られないので、本音や苦悩が全くわからないのに、堪えられない音楽への衝動が感じられる。そしてそれをさせない社会との板挟み、刑罰が苦しすぎる。無抵抗ぶりが、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』に似ていて、なんとも複雑な読後感。とても短編とは思えない凄まじい読み応え。

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