『2010年代海外SF傑作選』橋本輝幸(編)
“不在”の生物を論じたミエヴィルの奇想天外なホラ話「“ザ・”」、映像化も話題のケン・リュウによる歴史×スチームパンク「良い狩りを」、グーグル社員を殴った男の肉体に起きていた変化を描くワッツ「内臓感覚」、仮想空間のAI生物育成を通して未来を描き出すチャンのヒューゴー賞受賞中篇「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」…2010年代に発表された、珠玉のSF11篇を精選したオリジナル・アンソロジー。
バリエーション豊富な傑作短編集で、どれも平均以上に面白いが、「ロボットとカラスがイーストセントルイスを救った話」がぶっちぎりで大好き。こいうあざとい設定はずるい。
「火炎病」ピーター・トライアス/中原尚哉訳
世界が炎に包まれたように見える病気のお話。
ロボSFの人という認識だったが、正統派SFも書くのねとちょっと吃驚。病気の正体が予想外で良かった。
「乾坤と亜力」郝 景芳/立原透耶訳
世界のインフラを管理するAIが子供から自ら考える力を学ぼうとするお話。
かわいいのだけど、これはあざとすぎるかな。AIがなんか高慢だし。
「ロボットとカラスがイーストセントルイスを救った話」アナリー・ニューイッツ/幹 遙子訳
CDCの疫病監視ドローンが野良化するも、健気に任務を遂行し続けるお話。
この作者の『タイムラインの殺人者』はリタイアした(ジェンダー小説嫌い)が、これは2度読むほど好き。超キュート。こういう健気なロボットもの大好き。
アメリカが大変なことになってるが、それらがほぼスルーなのも笑えて良い。
「内臓感覚」ピーター・ワッツ/嶋田洋一訳
グーグル社員をみるとわけもなく怒りが湧いてきて、突如暴行してしまった男の話。
グーグルはキレてよいのでは(笑) でも切れると図星だからだ、とか、狭量だとかいわれるのよね。
人間を思いのままに操れる技術ができたらもっと悲惨な未来がまっていそうだよね。
「プログラム可能物質の時代における飢餓の未来」サム・J・ミラー/中村 融訳
プログラムで自由に動かせる粘土のような物質が暴走するお話。
まさかのBL小説でSF。SFでこんなどろどろした話は珍しいけど、なにもSFでやらんでも、と思ってしまう。
「OPEN」チャールズ・ユウ/円城 塔訳
"door”という文字が部屋の中に浮かんでいるお話。
ナンセンス枠。全然楽しめず。
「良い狩りを」ケン・リュウ/古沢嘉通訳
狐の妖怪の娘と妖怪退治屋の息子が、魔法がなくなってゆく世界で生きてゆくお話。
再読だが、何度読んでも良い。ネトフリのアニメ版もぜひ見てみたいなぁ。
「果てしない別れ」陳 楸帆/阿井幸作訳
脳溢血となった主人公が、知的生物と思われる蠕虫と脳をつなぐお話。
しかしそんなことはお構いなしに、主人公と妻のラブラブっぷりを見せつけられる熱愛小説であった。もうラストははいはいごちそうさまでした、という気分。良作。
「“ ”」チャイナ・ミエヴィル/日暮雅通訳
架空論文小説。
ナンセンス枠その2。円城塔好きが好きそう。
「ジャガンナート――世界の主」カリン・ティドベック/市田 泉訳
人間がマザーと呼ばれる巨大生物の中で生まれ働き死んでゆくお話。
寺田克也がちょっと似てる漫画を書いていたなと思い出す。しかし果たして人類はこんなことになってまで生きていたいのだろうか、と思わずにおれない。
「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」テッド・チャン/大森 望訳
AI子育て小説。
『息吹』で既読。この中編がこの本の40%程を占めてるのがちょっとおもしろい。前回読んだときは、書ききってくれよ、と思ったものだが、あれ以上が続いても悲しいだけなのかもね。
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