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#ミステリ

『象られた闇』ローラ・パーセル(著)国弘喜美代(訳)

雰囲気がべらぼうに良い! ”血管のなかの血栓さながら人の流れを妨げている”とか、”木々が溜めこんでいた金や銅を男たちの頭上に降りまき”等々、冒頭から延々と比喩が美しく、文章を読むだけで幸福だった。 ジャンル的には、ゴシックオカルトミステリ? 疑問系なのは、一切捜査しないから(笑)  捜査はしないが、降霊会で被害者を降ろし、犯人を聞き出そうとはする。この降霊会描写が圧巻。めちゃくちゃ引き込まれた。主観的描写だからアンフェア気味ではあるけど、彼女らがどう感じたのかが知れて面白い

『ホワイトコテージの殺人』マージェリー・アリンガム(著)猪俣美江子(訳)

マージェリー・アリンガムの初長編。100年前の本だが、ラストは普通に予想外で、十分今でも通用する。ラストの美しさは圧巻。アリンガムは法・正義の人でなく、善の人だなぁとしみじみ感じる。 キャンピオンシリーズではないが、若いキャンピオンだと、あのラストは難しいだろうね。 お話は、とある男が隣家で銃殺されるも、目撃者なし。関係者全員怪しいし、皆なにかを隠しているが…。という(今では)ベッタベタなやつ。 たまたま居合わせた青年の親が刑事なので、その縁で捜査を始めるも、一向に決定的証

『ファラデー家の殺人』マージェリー・アリンガム(著)渕上痩平(訳)

キャンピオンシリーズの長編。横溝正史の金田一のイギリス版という感じ。皆キャラが濃すぎて笑える。それでいて、とあるミステリ鉄板ネタのオリジンで、歴史的価値もあり。 また、客人は冷たい料理でもてなす等、イギリス文化が知れて面白い。 戦前のとあるイギリス上流階級の家で、身内が一人行方不明になってしまうも、その家には警察と渡り合える人間がいないので、キャンピオンに白羽の矢が立つことに。到着すると、行方不明人は死体で発見され、後日、さらに別の死体が館で発見され…。 この連続殺人、ど

『グレイラットの殺人』M・W・クレイヴン(著)東野さやか (訳)

今回は助っ人捜査。ポー達に危機が迫らないので安心して読めるなぁ、と油断してると、重い社会派テーマに殴られる。読後、日本も他人事ではない、というか、地政学的により悪いので、なんとも言えない気持ちになってしまった。 前回の事件が壮絶だったので、ポー達は全員1ヶ月の休暇をもらってたのに、MI5から半強制で殺人事件の捜査を任される。売春宿で男が撲殺された、というよくある金銭トラブルに見えたが、なぜか暖炉の血だけが拭き取られており…、という出だし。 シリーズ的には箸休めながら、ポー

『渇きの地』クリス・ハマー(著)山中朝晶(訳)

静かな調査モノかと思いきや、イベントてんこ盛りでかなり楽しめた。プロローグの様子から牧師の動機は復讐だと思ってただけに、ラストの真実が切なくて良い。主人公より断然主人公なんですけど(笑) お話は、携帯の電波もつながらない辺鄙な町で起きた銃乱射事件の真相を追うミステリ。 事件から1年後、ガザ地区帰りで心に傷を追った記者(主人公マーティン)が、リハビリがてら振り返り記事を書くため調査を始める。 しかし、山火事は起きるし、新たな死体は発見されるしで、事態はオーストラリア中の注目を

『マトリョーシカと消えた死体』ケイト・アトキンソン(著)青木純子(訳)

擦れっ枯らし達のドタバタミステリ群像劇。前作のようなシリアスは無く、ミステリもイマイチ。ただ、清濁併せ呑むというか、人間は所詮”濁”なんだよ、でも清くあろうとするんだよ、というメッセージが熱い。(登場人物全員罪人で笑った) お話は、前の車の急ブレーキに切れた男が、その運転手と車をバットで滅多打ちにし、見物人が荷物を投げつけ追っ払うという事件から始まる顛末を、被害者、見物人たち、複数の視点で語られる。 のだが、初っ端から脇道にそれる。見物人の生い立ち語りが始まり目を疑う。本

『卒業生には向かない真実』ホリー・ジャクソン(著)服部京子(訳)

三部作完結! ホリー・ジャクソンよ、最後になんてことをするんだよ! 読書でこれほどの衝撃を受けたのは久々だよ。是非はともかく、凄いよ。 出だしから、ピップがPTSDと不眠で不正に眠剤を購入してたり、レイプ魔に名誉毀損で訴えられそうだったりと、前巻以上に鬱展開でしんどすぎる。 さらに今度はストーカーがピップを狙う。その手口を調べると、すでに犯人は服役中。またも冤罪で、警察の不手際がピップを襲う。 本書は三部作というより、上中下なので、前2作のキャラや関係を覚えてないと読書が

『探偵ブロディの事件ファイル』ケイト・アトキンソン(著)青木純子(訳)

探偵モノだが、ミステリというより群像劇。謎解き要素はほぼないが、犯罪被害者達の人生、生い立ち、変化してゆく様が明るいタッチで描かれ、ぐいぐい読ませる。 まず冒頭で3つの事件が語られ、その後、探偵や関係者一人一人の視点で現在の状況が語られる構成。 もう冒頭の時点で凄まじい濃度。げっぷが出るほど濃密な人物描写でニヤニヤしてしまう。だがそれが事件をより陰鬱にみせてしまい、リアルでつらい。 探偵のジャクソンは、浮気調査や猫さがしなどで生活してる冴えない探偵だが、仕事は実直にこなし

『真珠湾の冬』ジェイムズ・ケストレル(著) 山中朝晶(訳)

アメリカ人が”真珠湾”というだけで日本を非難してるように感じるので、本書ではどれほど悪し様に書かれているのか、おっかなびっくり読むも、まさかの親日でちょっと笑ってしまった。 お話は、逆さ吊りにされ腹を引き裂かれた死体から始まる骨太ミステリー。地道な捜査を続ける警察モノとして普通におもしろいのだが、途中で戦争が始まるという凄まじい構成。しかも主人公が香港出張中というタイミング。主人公は日本軍に連行されてしまい…。 刑事モノであり、戦争モノでもあり、根無し草の主人公がついに帰

『サイコセラピスト』アレックス・マイクリーディーズ(著)坂本あおい(訳)

石黒達昌のALICEみたいなのを期待してたのに、延々昼メロが続くので読むのをやめようかと思ったが、ラストは良かった。犯人は予想の範疇だが、真相がエグい。モチーフのギリシャ神話の使い方がお見事。 夫婦や恋人で読むのがオススメ(笑) お話は、夫を殺した女が精神病院におり一切口をつぐんでいて、とある心理療法士がその女に執着して真相をあかそうとするパートと、その主人口のプライベートが交互に語られる。 正直、主人公の妻の浮気とか、マリファナがやめられないとか、どーでも良いわ思いなが

『オクトーバー・リスト』ジェフリー・ディーヴァー(著)土屋晃(訳)

ドンデン返しの魔術師が技巧のかぎりを凝らした前人未踏&驚愕連続の “逆行” ミステリー! 本書は最終章ではじまり、第1章へとさかのぼる。 娘を誘拐され、秘密のリストの引き渡しを要求された女ガブリエラ。隠れ家にひそみ、誘拐犯との交渉に向かった友人の帰りを待っていた。しかし玄関にあらわれたのは誘拐犯だった。その手には銃。それを掲げ、誘拐犯は皮肉に笑った……。 『ボーン・コレクター』『ウォッチメイカー』などでミステリー・ファンを狂喜させてきたベスト・ミステリー作家の神髄がここにある

タイムマシン×館もの『時空旅行者の砂時計』方丈貴恵(著)

瀕死の妻のために謎の声に従い、2018年から1960年にタイムトラベルした主人公・加茂。妻の祖先・竜泉家の人々が殺害され、後に起こった土砂崩れで一族のほとんどが亡くなった「死野の惨劇」の真相の解明が、彼女の命を救うことに繋がるという。タイムリミットは、土砂崩れがすべてを吞み込むまでの四日間。閉ざされた館の中で起こる不可能犯罪の真犯人を暴き、加茂は2018年に戻ることができるのか!? “令和のアルフレッド・ベスター”による、SF設定を本格ミステリに盛り込んだ、第29回鮎川哲也賞

安楽椅子探偵の完成形『ママは何でも知っている』ジェイムズ・ヤッフェ(著)小尾芙佐(訳)

毎週金曜の夜、刑事のデイビッドは妻を連れ、ブロンクスの実家へママを訪れる。ディナーの席でいつもママが聞きたがるのは捜査中の殺人事件の話。ママは"簡単な質問"をいくつかするだけで、何週間も警察を悩ませている事件をいともたやすく解決してしまう。用いるのは世間一般の常識、人間心理を見抜く目、豊富な人生経験のみ。安楽椅子探偵ものの最高峰と称される〈ブロンクスのママ〉シリーズ、傑作短篇8篇を収録。 キレッキレの安楽椅子探偵ミステリ8個。どれも晩餐中の雑談でママが瞬殺するのが最高。 自

驚愕のラスト『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼(著)

推理作家として難事件を解決してきた香月史郎は、心に傷を負った女性、城塚翡翠と出逢う。彼女は霊媒として死者の言葉を伝えることができる。しかしそこに証拠能力はなく、香月は霊視と論理の力を組み合わせながら、事件に立ち向かう。一方、巷では連続殺人鬼が人々を脅かしていた。証拠を残さない殺人鬼を追い詰められるのは、翡翠の力のみ。だが殺人鬼の魔手は密かに彼女へと迫っていた――。 ★第20回本格ミステリ大賞受賞 ★このミステリーがすごい! 1位 ★本格ミステリ・ベスト10 1位 ★SRの会ミ