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不登校エッセイ#7 不登校息子は抜毛症 

「うそでしょ......」

小4の息子が学校に行かなくなって数ヶ月たったとある日。
部屋の掃除をしていてギョッとした。

ベッドの足元に大量の髪の毛が落ちている。

「なにこれ......」

尋常じゃない本数に鳥肌がたつ。
寝ている息子の頭を確認してみると、頭頂部の髪の毛がごっそり抜けていた。

円形脱毛症? あわてて調べてみる。

『髪の毛 ストレス 子ども』

すると『抜毛症』という言葉が出てきた。

 『抜毛症』とは、自分で自分の髪の毛を抜く行為のこと。
不安やストレスを解消するための自傷行為の一種だとわかり、私はショックを受けた。

「こんな小さな体にどれだけ大きなストレスを抱えているんだろう」

髪の毛を拾いながら涙があふれてくる。
どんどん出てきて止めようにも止められない。
泣き声で息子が起きないように、あわてて部屋を後にした。


翌日、息子に聞いてみた。

「髪の毛がたくさん落ちてたけどどうしたの?」
「知らない」
「ここ、髪の毛がなくなってるでしょう?」
「ホントだ」

鏡を見て驚く息子。
どうやら無意識に髪の毛を抜いていたらしい。

「病院で診てもらおうか」
「うん」

どの科を受診しようか迷ったけれど、精神科や心療内科は敷居が高い。
ひとまずかかりつけの皮膚科に行くことにした。



「髪の毛、抜けちゃってるね」

先生の問いかけに息子が無言でうなずく。

「お薬出すからぬってね」

どうして抜けたのか、どうして抜いてしまったのか。
そんな話は一切せずに診察は終わった。

いつもの優しい先生に安心したのか、その後も息子はいやがらずに皮膚科に通い続けた。


それからしばらくして、息子の頭頂部に髪の毛が生えてきた。
ベッドの下の抜け毛もいつの間にか無くなっていた。

あの時、息子に必要だったのは、薬ではなく安心感だったように思う。

かかりつけの穏やかな先生。
優しく手当してくれた看護師さん。

そして、皮膚科に通う時のふたりだけの時間

「どんなあなたでも大丈夫だよ」
「お母さんはあなたの味方だよ」

愛情表現が苦手な私。
ちゃんと息子に伝えられたのかわからないけれど。



今も家にひきこもっている息子。

伸び放題のフサフサの髪を見て思う。

うん、大丈夫。
気持ちは伝わっているはず。

「どんなあなたでも大丈夫だよ」
「お母さんはあなたの味方だよ」


#創作大賞2024 #エッセイ部門 #不登校エッセイ

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