第十二章 想い出⑥
壇上で、トロフィーを一哉が岬に手渡す。
とてもではないけれども、受け入れがたい現実だ。
眼の前の光景は……。
「岬かあ。グランプリ。拓巳だと思ったんだけどな」
気付くと、一哉がいた席に安奈が座っていた。
「てか、岬って知らないんだけど。無名じゃない?地区では有名なのかもしんないけど」
確かに、東京では岬の知名度は皆無だ。
だからこそ、誰しもが納得するグランプリ受賞者であるとは思えないのだった。
一哉が戻ってきて、
「会場移動してお祝いパーティ行くよって、何で安奈がここにいるんだよ」
明らかな嫌悪感を露わにする一哉。
「あたしもお祝いパーティ出席しなくちゃだもん」
「あ、そ。梨紗、行くぞ」
「はい……」
まさか、あたしもそのお祝いパーティに行かなくちゃなんないわけ……?
「一哉。あたしも行かなくちゃダメなの?」
「は?当たり前でしょ?何の為にここにいるんだよ、梨紗。ほら、行くよ」
一哉に急かされる。
そうして、あたし達は第二の会場へ行く事になったのだった。
この会場は……狭いじゃないか!
こんなんじゃ、あたしの存在が岬にばれるのも時間の問題だ。
どうする?
どうする?
あたし……。
岬には、逢いたくはなかった。
苦しかったあの過去を思い出すのは……。
嫌なの。
けれども、そんな密かな心の中の願いが聞き入れられるはずもなく。
そして、出場した店のホスくん達もたくさん来ていて……。
あたしは目立たないようにしていたのだったが、あたしと安奈は当然のごとく目立つわけで。
あたしと安奈とで、岬に花束を渡す事になってしまった。
安奈一人に任せたい……。
お願いだから……。
一哉にどでかい花束を持たされて。
あたしには、もう逃げ道などどこにもなかった。
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